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塩を食う女たち  聞書・北米の黒人女性

「アメリカの鱒釣り」のリチャード・ブローティガンの作品の翻訳者として知られる藤本和子さんが、1982年に晶文社より刊行したこの本が、一昨年、岩波現代文庫から文庫化されるときに池澤夏樹さんが解説を書かれたこともあって、手に入れていた。入り込むのになかなか手強く枕元の積読コーナーにあったものがようやく日の目を浴びた。

再度手に取り読むきっかけとなったのは、この5月のミネソタ州ミネアポリスで発生した黒人男性を白人警官が死に至らしめた事件である。その後各地で起きた抗議運動を見ていてやはり歴史をきちんと理解したいという気持ちに自然となったからである。

藤本和子さんが1970年代に四十人以上のアメリカ在住黒人女性に会って、彼女たちの話を聞いたものをまとめたものなのだが、トニ・モリソン(1993年にアメリカの黒人作家として初のノーベル文学賞を受賞)の妹分と言われるトニ・ケイド・バンバーラの話が印象深く残っている。「わたしたちがこの狂気を生きのびることができたのは、私たちにはアメリカ社会の主流的な欲求とは異なる別の何かがあったからだと思う」狂気というのは北アメリカにおける歴史的体験のこと、それはアフリカからの離散、奴隷、虐待、蔑視、貧困のことである。そこから生き延びることを可能にしたものは果たしてなんだったのか。それをめぐる旅である。

藤本和子 著
岩波現代文庫(2018年)
1982年晶文社刊→文庫化

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