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はじめに

 さて、皆様軍隊と聞けば「陸海空」軍が真っ先によぎると思いますが、それぞれの利点・欠点についていざ説明してみろと言われても中々困るのでは無いでしょうか。
 今回は、陸・海・空軍の特性について簡単に見ていきたいと思います。

 それでは、

ゆっくりしていってね!!!

陸軍

 全ての軍種の中で最も古くから存在し、最も基本的な存在であり、国土防衛・治安維持の為に必要不可欠な存在です。
 陸軍は、人の軍隊です。そして地面に根拠する、地べたの軍隊でもあります。
 海軍が艦船、空軍が航空機にその戦力が根拠するのに対して、陸軍は戦力が人に根拠し、地形の影響を強く受けるのです。
 その利点として、以下に挙げるようなものが挙げられます。

陸軍の利点

・多種多様な事態に対処出来る柔軟性。
 例えば歩兵種をとっても、災害派遣から陣地防御、突撃に浸透、治安維持等の幅広い任務に対応することが出来ます。これは陸軍が人に根拠するからであり、また部隊の編成を柔軟に変更出来ることも理由として挙げられます。
 例えば、自衛隊では普通科連隊に対して戦車や特科等を方面から付加することによって連隊戦闘団を組織しますが、後段の状況等によって柔軟に編成を変更し、多様な脅威に対処可能です。

・基本構成単位が人であることによる残存性。
 例えばある部隊が損害を受けて後退した時、後方の部隊から人員を配備して即座に戦闘力の回復が可能です。これを再編成と言い、戦力根拠が艦艇や航空機である海空軍では困難な行動として挙げられます。
 また、作戦遂行に際して基地等の特定の根拠地に依存しない為、分散及び隠/掩蔽が容易であり、陸軍種を完全に地域から掃討するには陸軍による攻撃ないし大量破壊兵器の投入が必要となります。

・陣地構築による強靭性。
 防御陣地を構築した陸軍種、特に歩兵は極めて強靭であり、極端な例を挙げると機甲打撃力の発展する前、第一次世界大戦期では一個歩兵中隊が一個歩兵師団の突撃を破砕することが可能でした。
 現代でも、適切な支援及び援護を受けた陣地は極めて強力であり、防衛力の根本的な根拠となっています。

適切に配備された重機関銃は、極めて大きな威力を発揮する
防衛省公式より

・長期の作戦遂行が可能な持続性。
 陸軍は、作戦中も随時補給や損害補填を受けることなどにより長期の持続的作戦遂行が可能です。

・戦闘に最後の決を与える決定力。
 陸軍を最終的に撃破出来るのは、同じ陸軍のみであり、また目標達成の為に陣地を占領する場合は必ず陸軍が必要になります。

突撃は個人戦闘員にとって必須のスキルである。
防衛省公式より

陸軍の欠点

・地形に大きな制約を受ける。
 陸軍は専ら陸上を機動する為、山岳、河川その他地形に大きく制約を受けます。
 また、後述する規模的問題の為に幹線道路や鉄道等に依存しやすいことも挙げられます。

但し『あらゆる地形・気象を克服』することは一応可能である。
防衛省公式より

・作戦遂行の為に規模を要求される。
 陸軍が作戦を遂行しようとする時、ある程度の規模が要求されます。
 その為、作戦発揮に事前の準備が必要となり、機動や作戦発揮に際しての隠匿が困難になる等の欠点が挙げられます。

富士総合火力演習での一幕
防衛省公式より

海軍

 海軍は海洋を経由して他国へ影響力を行使し、或いは影響力を排除する為に存在します。国益と海上交易を防護し、島国にとっては遠方で敵を撃破し、或いは敵の接近を拒否する有効な手段となります。
 海軍は、フネの軍隊です。
 陸軍が人員、空軍が航空機にその戦力が根拠するのに対して、海軍は戦力が艦船に根拠します。
 その特性として、以下に挙げるようなものが挙げられます。

海軍の利点

・多種多様な任務に対応出来る多目的性。
 艦船は、陸軍で言うところの廠舎食堂浴場その他生活設備と移動手段、武器、補給処その他の機能がパッケージ化されて運用されるものと解釈することもでき、純粋な戦闘の他にも臨検や外交儀礼上の活用等様々な任務に投入することが可能です。但し、飽くまで艦の能力に依存する為、ミサイル艇等の小型艦船ではこのような多目的性は制限されます。

汎用護衛艦は遠洋航海能力と戦闘能力を兼ね備える。
防衛省公式より

・海洋を利用することによる機動性。
 艦船は、海洋を利用して行動する為、陸軍のように地形による大きな制約を受けにくく、迅速に機動出来ます。
 また、重量物を容易に運搬することが可能である為、海外へ大規模兵力を投射させたい場合には空軍と比して極めて安価かつ大量にに投射することが可能です。

・海洋を活用した生存性。
 一度出港した艦船は、電波を発射する等しない場合捕捉が困難であり、相手が大型水上艦であっても発見に哨戒機等の特別な機材が要求されます。
 更に、一度衛星や航空機によって捕捉されたとしても、広大な海面を自由に機動することができるため、一度『逃げ』に入った海軍を捕捉することは困難であると言えます。
 また、海洋に潜航して隠密に行動する潜水艦を発見するのは極めて困難であり、対潜哨戒機や聴音網その他の特別な機材と高い能力が必要となります。

対潜哨戒機は数少ない有力な対潜手段である。
防衛省公式より

・長期の作戦遂行が可能な持続性。
 海軍は、作戦中も随時洋上補給を受ける等により長期の持続的作戦を遂行し、或いは無寄港での長距離展開が可能です。

補給艦は重要な存在である。
防衛省公式より

・海路を保護/遮断することによる影響性。
 海上交通路SLOCを保護/遮断するには海軍が最も適しており、特に潜水艦対応には水上艦の投入に持続的対処が不可欠です。
 海路を保護し、或いは妨害することは海軍の重要な任務であり、常に念頭に置く必要があります。

・国力を象徴するシンボル性。
 海軍は、その維持、運用、育成に大きな国力が要求されます。更に、上に述べたような理由から国家の影響力を海外へ行使する容易な手段の一つである為、国力の象徴として運用することが可能です。
 他国海軍と協調して行う演習等の活動や警戒活動は外交手段、圧力として活用が可能であり、国際法上の地位も相まって全軍腫の中で最も『外交』と密接に関係した軍種であると言えます。

こういうのを相手方の『庭』で堂々とやれたりするのが海軍である。
防衛省公式より

海軍の欠点

・コストが高い
 海軍は技術指向型の軍隊である為、高いコストが要求されます。また、その整備や維持、運用に各種資源を大量に要求される上に高度な人材が要求される為、教育基盤の構築その他の総合力が国家に要求されます。

原子力空母の整備・運用には莫大なコストが必要である。

・内陸部への兵力投射が出来ない。
 海軍は海洋を機動する以上、内陸部への兵力投射は空母に航空機を搭載するなどしなければ不可能です。

・入港、整備時に脆弱。
 艦船は非活動時入港し、また定期的に整備が必要となります。この際は完全に無力であり、極めて脆弱です。

・活動拠点が必要。
 艦船に補給整備を与え、また乗組員を休息させる為に活動拠点が必要となります。
 この活動拠点が弱点となり得ます。
 特に長距離展開の際には重要となり、継続性に展開する場合は展開先に拠点があることが望ましいとされます。(但し、大型艦船を用いたり洋上補給を活用する等の手段により高コストではありますが無理矢理活動することも十分可能です)

空軍

 空軍は空を経由して他国へ戦力/火力を投射し、或いは経空脅威を排除する為に存在し、陸海の作戦を円滑に行う為に航空優勢を確保し、或いは強奪することが出来ます。
 空軍は、航空機の軍隊です。
 陸軍が人員、海軍が艦船にその戦力が根拠するのに対して、空軍は戦力が航空機に根拠します。
 その特性として、以下に挙げるようなものが挙げられます。

空軍の利点

・任務に即応出来る即時性。
 航空機は、極めて高速で機動することが可能です。その上、即時待機態勢を整備すれば下命から極めて短い時間で離陸することが出来る為、全ての軍種の中で最も即時性が高い軍種であると言えます。

対領空侵犯任務は重要な任務である。
防衛省公式より

・飛行による極めて高い機動自由性。
 航空機は、地球上のあらゆる地形からの影響を殆ど受けずに飛行することができ、また地雷や機雷等の様に機動を安価かつ長期安定的に、有効に阻害する手段は現時点で存在しません。
 その為、即時性と相まって空軍は迅速かつ自由に機動することが可能であり、それによる敵航空勢力対処と合わせて最も重要な特性であると言えます。

・空中を活用した生存性。
 一度離陸した航空機は、自由かつ高速に機動する為、航空機以外による撃破が困難であり、特に攻撃行動等を取らず、生存を重視して機動を行った場合には、航空機以外で撃破することは極めて困難です。
 この特性は、戦時に国家首脳を空中退避させて国家の意思決定を維持するといった応用が可能であり、迅速かつ確実に殆どの脅威から安全を確保する簡便な手段として活用されています。(ゾンビ映画で航空機の中にどういう訳だが感染者が便乗しているのは、そうしないと航空機は飛び続けるからなのです)

アメリカ合衆国の国家空中作戦センター、E-4B

・大規模な火力発揮が可能な衝撃性。
 航空機は、通常爆弾やクラスター弾、対戦車ミサイル、核兵器等による火力発揮を高速に機動して行うことが出来る為、地上に対して極めて大きな衝撃力を与えることが可能です。
 また、高速及び機動の自由性を活かした突破力は絶大であり、本来なら障害となる地対空ミサイルを逆に妨害、破壊するSEAD/DEAD任務なんてものもあります。
 更に、敵国の戦略基盤を壊滅させて継戦能力、意思を奪う戦略攻撃も可能であり、今日平和を維持している抑止力の根源となっています。

・高度を活用した監視容易性。
 地球は丸い為、地面からでは地平線の制約を受けます。レーダーを山に設置する等の工夫も取れますが、空軍は高度を活用した監視活動が可能です。
 これはAWACS空中早期警戒管制機ないしAEW空中早期警戒機によって行われ、『強いレーダーを空に飛ばしたら良く遠くの物が見える』という単純明快な原理による高い警戒監視能力を持ちます。
 また、電波情報収集や電子攻撃等でも高度を活用した利点が得られる為、それらの任務にも適しています。

強いレーダーを空に飛ばしたら良く遠くの物が見える
防衛省公式より

空軍の欠点

・コストが高い
 空軍は海軍と同じく技術指向型の軍隊である為、高いコストが要求されます。また、その整備や維持、運用に各種資源を大量に要求される上に高度な訓練を受けた人材が要求される為、教育基盤の構築その他の総合力が国家に要求されます。
 更に、技術開発に莫大なコストを要求する為、航空機、航空装備を自国開発するのには相当な国力が必要とされます。

最近は多国籍間で開発することが流行している。
防衛省公式より

・空域の絶対的確保は出来ない。
 航空機は必ず機動している為、状況は常に浮動的であり、空域を絶対的に確保することは出来ません。
 この為、『航空優勢』とは飽くまで相対的なものであり、奇襲や隠密浸透等によって航空優勢下でも地上に被害が出ることがあり得ます。

・駐機、整備時に脆弱。
 航空機は飛行時以外駐機し、或いは整備を受けます。この際は完全に無力であり、極めて脆弱である為、バンカー等の設備による防護が推奨されます。

・活動拠点が必要。
 航空機に補給整備を与え、また乗組員を休息させる為に活動拠点が必要となります。
 この活動拠点が弱点となり得ます。
 特に長距離展開の際には重要となり、継続性に展開する場合は展開先に拠点があることが、空軍を遠隔地へ派遣する最低条件となります。

策源地に対する攻撃に対処するため、SAMを展開する場合がある。
防衛省公式より

おわりに

そして統合運用へ

 これまで陸海空軍の特性について概観してきましたが、ご理解頂けましたでしょうか?
 現代はこのような物理的戦闘力に加え、人類がその経済活動を宇宙・サイバー・電磁波へと伸ばしたように、軍事もまたそのような新領域で活動するようになっています。
 しかしながら、それらは飽くまでも物理的戦闘力を助長するために活動するものであって、これらの基本的特性を抑えずして理解することはできません。『ゲームチェンジャー』が幾ら登場しても、結局武力闘争を行うのは陸海空軍であり、地域を占領するのは歩兵なのです。

 ここまで長々とお読み頂きましてありがとうございました。
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