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定年後 29 日目 Cinematic は 24fps というけれど


( 注 : 「fps」の f は「フレーム」。「フィールド」はカタカナで表記。)


youtube の世界は実に多様な動画があって飽きない。
ただ、どんな動画でもある程度のクオリティは必要。

ポイントは構成 ( 構図 )、画質、音質だと思う。
プロの映画やコマーシャルのようにする必要はないけど、近いことができるのであればそれに越したことはない。

動画の世界に「 Cinematic 」という言葉がある。
リアリティを感じさせない世界を描いているような動画を指していて、基本的に「ステキな」とか「オシャレな」みたいな意味で使われているんだと思う。

cinematic な動画を撮るための鉄則が、フレームレートを 24fps にするというもの。これは映画が 24fps で撮影されていることからきているが、なぜ人は 24fps を素敵に感じるのかという考察は、なかなか見当たらない。

フィルムの時代から ( 正確にはトーキーの時代から ) 映画のフレームレートは 24fps だった。人間はずっとこのフレームレートに慣れ親しんできたので、その感覚が動画の標準となって染みついているのかもしれない。

ところが映画館では上映時のフレームレートは 24fps ではない。
ほとんどが 48fps で、中には 72fps で上映しているところもあるらしい。
その理由は、24fps では人間が映像のちらつきを認識してしまうからとのこと。

24fps の 1 フレームを半分の時間で 2 回ずつ上映すれば 48fps になるし、1/3 の時間で 3 回ずつなら 72fps になる。

キネトスコープを発明したエジソンも動画を自然に見せるには 48fps 以上必要と述べた記録があるらしく、初期のキネトスコープも 40 〜 48fps だった。

映画館の中は、分かりやすい理屈でフレームレートとリフレッシュレートが整理されているのだけど、それ以外の世界では様子が少し違う。

テレビ放送の映像は、インターレース 60 フィールド毎秒で送られてくる。2 つのフィールドで 1 つのフレームができるので 30fps になる。
そうすると、24fps の動画の再生には不都合が生じてくる。

24fps で作成した動画は、30fps のメディアでどのように表示するのだろうと疑問を持った。24 フレームのうち 4 フレームごとに 2 回表示して不足する 6 フレームを補っているのかと推理した。

話は意外と複雑になっていく。
地上デジタル放送の送信側は 30fps のインターレース方式で送信してくるが、多くの液晶テレビは I/P変換 ( インターレス / プログレッシブ 変換 ) して 60fps で表示している。

この場合、テレビの映像は 60 フレームに対して 24 フレームを割り当てることになる。割り切ることができないので、「2-3プルダウン」と呼ばれるフレームレート変換をしている。
24 fps のうち最初のフレームを 2 回表示、次のフレームを 3 回表示、また 2 回表示、3 回表示、という処理を繰り返して 60 フレームに調整する。

つまりテレビ放送で映画を見るということは、24fps がロマンチックとかいう以前に、再生リズムに問題を抱えていることになる。

私の目ではそこまで見分けられないが、サブリミナル効果レベルで考えると、ぎこちない不完全な映像を見て「ステキだなぁ」と感じていることになる。逆に情報の不完全さが cinematic の要因だったりするのだろうか。

このことは PC のディスプレイでも同じ。

液晶ディスプレイのリフレッシュレートは 60Hz のものが主流。
パソコンでもスマホでも動画を見るときは、このレートで見ることが多いので、テレビ放送と同じような不完全さが生じる。

ゲーミング PC 向けに 120Hz や 144Hz など高リフレッシュレートのディスプレイがある。これは機敏さが勝敗を決めるゲームにおいて、映像の遅延を小さくするためのもの。

ところがこの値は意外にも 24fps と親和性が高い。これらのディスプレイでは 24fps の映像を整然と再生することができる計算になる。

また、iPhone13 には可変リフレッシュレートのディスプレイが搭載されている。
電源消費の軽減が主たる目的のようで細かい理屈はわからないが、24fps の信号を認識して 48Hz や 72Hz の表示に切り替えられるとしたら、この不完全な状況は一気に解決する。

これからはこのような環境が整っていくのかもしれない。
適切な画面表示のためにその方向になるとしたら、現状に課題があるという裏返しでもあるのだけど。


ところが、疑念はさらに深まっていく。

実はフレームレートには 2 種類ある。
ベース(タイムライン)フレームレートと撮影フレームレート

ベースフレームレートは、編集する際にソフト上で設定するもの。撮影フレームレートは撮影時にカメラで設定するもの。
今までの話はベースフレームレートを 24fps にした場合のこと。

ベースフレームレートを 24fps にするのなら、撮影フレームレートも 24fps にすれば齟齬は生まれないが、スローモーションを含めて考えようとすると新たな問題が生じる。
編集時にスローモーションを入れるには、撮影フレームレートをベースフレームレートよりも大きな値にしなければならない。

カメラ側で 48fps や 72fps を設定することができれば、2 倍、3 倍のスローモーションを整然と当てはめることができるけど、α7S3の場合は、24、30、60、120fps しか選べない。

60fps は使い勝手がいいが、この撮影データをスローモーションにせずに通常の速度のまま 24fps のベースタイムラインにはめようとすると、ディスプレイに表示するときと逆の関係の不整合が生じる

また、スローモーションをどの程度にするかは編集ソフト上で自由に調整できてしまうので 70% や 65% などと設定したら、何が起きているか把握する気も起きないぐらい混沌とした状況になる。


いろいろと理屈の合わないことを机上で問題にしてみたけど、そうした不整合を含んだ上で 30fps はリアリティが強く 24fps は素敵な映像であるとしたら、まったく別の要因があるのかもしれない。

これまで述べてきた 24fps にまつわるフレーム並びの不自然さは理屈であって自分の目にはよくわからないので、そんなにこだわることはないのだけど無条件に「 Cinematic は 24fps 」である理由がわからない歯痒さは残る。


2022/4/29

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