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Next Stop Wonderland

 ボストンには4本の地下鉄が通っている。Red, Green, Orange, Blue Lineである。そしてBlue Lineの北側の終点がWonderland駅であり、1906年から1910年まで、実際にWonderland Amusement Parkという当時では最先端のアトラクションが集結していたと言われる遊園地が存在していた。当時は夜この辺りの道を運転することが多く、時々Wonderland行きのバスとすれ違った。バスは薄暗くてどんな人が乗っているかまではよく見えないが、夕闇の中Wonderlandへ向かう人たちを想像して、自分もそのままWonderlandへ引き込まれていくような不思議な気分になったのを覚えている。
 その終点のWonderland駅の一つ手前にあるのがRevere Beach駅である。Revere Beachは公称アメリカで一番古い公共海水浴場で、5キロほど続くロングビーチだ。
 2014年9月初旬のある平日、行き始めてから数週間経ったデイケアにお疲れ気味の子供たちに「今日はどこでも好きな場所に連れて行ってあげるよ、どこに行きたい?ボストンコモンとか、チルドレン・ミュージアムとか、ミュージアムオブサイエンスとか。」と提案すると、うーんどれにしようかな、と悩んでいる娘の横でじーっと黙り込んでいた息子がうつむいたままこう言った。「子供が誰もいないところに行きたい。」なんと。。もともと日本にいた頃は同じ年頃の子供たちと遊ぶのが大好きだった息子だけにこの言葉は柔らかい棘のように私の胸に差し込んだ。
 そんな訳で私は、夏の終わりのRevere Beachに2人を連れて行くことにした。ハイシーズンだと海岸沿いの駐車スペースにはなかなか空きがなく、誰かが車を動かすのを2周くらい回って待たないといけないくらいなのだが、このタイミングでは人間の数より海岸で餌をあさっているカモメの数の方が断然多いくらいだった。
 車から降りて防波堤を超えて砂浜に降りると目の前に広がるのはただただ広い海。運良く、希望的観測通り小さな子供たちは右にも左にもいなかった。ただただ静かに細くて長い波が寄せては返すを繰り返す。膝下まで足をひたしたり、海に向かって石を投げたりしながら子供たちがどんどん日本にいた時の頃のような溌剌とした表情を取り戻していくのが見えた。私自身も街中にいる時はいつもどこか緊張したまま過ごしていたし、それが子供たちにも伝わっていたと思う。そして事あるごとに、もう少し小さな声で話そう、とか、ここで走り回るのはやめよう、とか、こういう時はHiって言うんだよ、Thank youだよ、なんて耳打ちされていたし、きっと窮屈に感じていただろう。
「ここは広くて誰もいないから、思いっきり大きな声を出していいよ。」
 すると、二人とも往年の青春映画みたいに海に向かって全身をポンプのようにして大声を吐き出して叫んだ。
「きゃー。」
「うわぁー。」
 それを聞きながら、子供の大声の出し方って意外とバリエーションがないんだな、と思った。
 ちなみに、このタイトルのNext Stop Wonderland、は同名の映画のタイトルから拝借したのだが、エンディングのシーンがこのRevere Beachという設定だった(実際の撮影場所は違うかも知れないが)。ボストンに来る何年も前に見た映画だったのだが、この海岸に行くといつも懐かしく映画のシーンのいくつかを思い出す。

 ワンダーランドの少し手前のリビアビーチ。特に何がある訳でもないんだけれど、今でも1人でぼーっとしたくなった時はここまで来てベンチに座って海を眺める時がある。お腹が空いたらビーチロードの脇にあるKELLY'Sでローストビーフサンドを買って頬張るのも良し。ただし食いしん坊で意外と凶暴なここいらのカモメには要注意である。

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