見出し画像

最近のお薬高すぎる問題

昨年来の疫病騒ぎで、製薬会社の営業マン、通称MRさんがやってくることが激減した。

その代わりにWeb講演会がやたらと増えてエムスリーとかMedpeerといった会社の株価が成層圏まで舞い上がっているのはご案内の通りである。

他にもエムスリーみたいな会社を通じて製薬会社や医療機器メーカーからのアンケートやインタビューが増えているのだ。Web講演会は勉強になるからいいけど、アンケートの類は多くないとはいえ時間を取られるので、意識高めの私としては嬉しくないのである。

と言いつつ先日もインタビュー調査を受けてしまったのである。そのときに思ったことを残しておく。

まず私が専門としているとある癌腫の標準的な治療など確認されて、そんなんガイドラインに書いてあるんだから私に聞くなよと思ったが、それはどうでもよいことである。それを踏まえて私がどのように治療方針を決めているか聞かれたが、ガイドラインどおりにやってますよと答えた。

そんなことを聞いてどうするんだと思ってるうちに本題に入っていった。要は、仮にこれこれこういう性質の新製品X(高そう)があったとしてどれほど使いたいか知りたいという趣旨なのであった。これは仮のデータなのですがと断られた上でやたらと生々しい臨床試験のデータを見せられて、「これだけはっきり生存曲線がわかれるなら使ってみたいです」と空気を読んだ回答をしていったのだった。

そして世界では真偽不明の臨床試験がたくさん走っているんだなあと思っているうちにインタビューは終わったのであった。

もちろん市場に出るのはごく一部なのだが、最近でてくる薬はとにかく高い。

代表的なものはオプジーボだろうか。免疫を賦活化することでがん細胞をやっつけるお薬なのだが、発売当初は薬価ベースで年間1000万以上かかるといわれていた。いまは600万くらいかな。

胃癌だと1年間もオプジーボを継続できることはあんまりなくて、病勢進行で3ヶ月ほどで中止になることが多い。それでも年間4万人(コロナの約10倍すな)亡くなる胃癌であるから、4万人全員に3ヶ月投与するとしたら、単純計算で600億円になる。これがどれくらいマクロ経済にインパクトがあるのか知らないが。

そんで現在その高価なお薬の使い方には2つのトレンドがある。胃癌などの固形癌はざっくり2つに分類できる。手術で取り切って治るものと、手術で取り切れなくて亡くなってしまうものである。

上述の4万人、600億円は後者の取り切れず治らないパターンの患者さんである。この人達に高価なお薬をどんどん足していこうというトレンドが一つである。効き方が違う2種類のお薬があって、どちらも有効性が証明されているなら全部載せしたくなるのが心情である。誰でもウニにキャビアを乗せてみたくなるだろう。大腸癌のオプジーボ+ヤーボイ、ビラフトビ+メクトビ+アービタックスが典型例である。

もう一つは手術で治った可能性のある人に高価なお薬を投与する方向性である。手術で取りきっても実際には再発して亡くなってしまう人も無視できない頻度ででてくるからだ。大雑把に言って胃癌で手術をしたひとの3割くらいは亡くなるのだ。もちろん手術の前後に治ったのか、再発するのかはわからないから全員に投与すべしってことになりかねない。現実に保険収載はまだされていないが、そういう臨床試験が現実に走っているのだ。

ことは胃癌だけではない。大腸癌や肺癌や乳癌など罹患数の多い癌はいくらでもある。手術だけで治るであろうpopulationにも高価なお薬を使うのだろうか。

薬価はどんどん下がるからいいじゃないかという意見もあるかもしれない。ところが後からどんどん、もっと効くとかもっと副作用が少ない(でも高い)お薬がでてくるのである。子供が新しいおもちゃを欲しがるのと同じで、それが使えるとなれば使いたくなるのが人情というものだ。

でもそれって低所得者層まで含めてべらぼうな社会保険料を巻き上げてまでするべきことなんだろうか。私はもうわからなくなってしまった。

もちろん税や社会保険料を巻き上げなくても、政府は無限に貨幣を発行できる。それをやった場合の経済的帰結についてはいずれ書くかもしれない。書かないかもしれない。

サポートは執筆活動に使わせていただきます。