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NY家族旅行のハドソン川クルーズ(5日目)

 ニューヨーク滞在もあと3日。最後の1日は朝起きて飛行機に乗るだけなので観光するのはあと2日。頑張っていきましょう。
 本日のタスクはサミット・ワン・ヴァンダービルドでニューヨークの朝を展望する、シェイクシャックを食べる、ハドソン川をクルーズする、ハイラインを歩く、チェルシーマーケットで晩御飯を食べるの5点。これまでの3日間は途中、ホテルに帰って昼寝していたのだが、この日は出撃したら出撃しっぱなし。大丈夫か? ハドソン川のクルーズが150分の行程だからそこで昼寝しちまえばいいのか?

 この日の当初を飾るサミット・ワン・ヴァンダービルドはガイドブックのトップを飾る超高層ビルの展望台。最近できたらしい。ワン・ヴァンダービルドというビルがあって、その展望台がサミットという話。
 9:00営業8:45受付開始。我々は一番早い回を予約した。ゆえにこの日は早起き。俺は6:30に起きた。さて朝ごはんだ。予定は残り物で済ませるつもりだった。これまでの買い食いで結構たまってきている。しかし俺は女性陣が身支度している時間にセブンに向かった。ホテルは7番街。セブンは8番街。この2つの通りの間にブロードウェイが挟まる。ホテルを出て人気のないニューヨークの路地を一人で歩く俺。石の壁、はがれかけたポスター、形の違う信号機、煙を吐くマンホール。昼夜の観光とは異なる異国を感じた。
 セブンの入り口にはドアマン真似事をしている男がいる。多分彼は勝手にやっている。職がなさそうな風体でおそらくチップを期待しているのではないか。しかし俺はチップを渡さなかった。勇気が…。
 サラダを買って帰る。ベーグルの残りと機内食の残り、青空市場で買ったトマトと合わせて食べる。

 地下鉄の最寄りはグランドセントラル駅。ワン・ヴァンダービルドは駅の隣に立つ。大分早くに目的地に着く。しかし油断はしない。時間をつぶすにしてもサミットの入り口を確認してからだ。ワン・ヴァンダービルドには地下0.5階ともいうべき専用階があった。そこが入り口だ。入り口の前には誰もいない。閉まっている。まだ8:00になったばかり。よしどこかで時間を潰そう。実のところ俺はうんこがしたくなっている。なぜホテルですませなかった。気配はあったのだからもっと真剣にこもってチャレンジすべきだったのだ。お嫁さんと母にこのピンチは黙っておく。言えば何やっとるねんとなる。ホテルを出たばかりだろ。まだ大丈夫という自信はあった。

 カフェに入るとトイレがない。なんとなくそういう店構えではあった。問題ない。サミットが開くまで俺は我慢できる。俺が我慢している時間を、母とお嫁さんはコーヒーを片手に仕事に向かうニューヨーカーを品定めにする。案外地味とか、仕事できそうとか、見てあのお尻!とか言う。「最高や」と母が言う。この時間を気に入ったらしい。
 いい時間になってサミットに行く。列は出来ていたが開場すると、すぐに受付された。チケット確認問題なし。手荷物確認問題なし。エレベーターに乗って91階まで行く。
 メインの展望室は床も天井も鏡張り。合わせ鏡の効果で宙に浮いたような感覚になる。大げさにいいえば。自分も宙にいながらニューヨークのパノラマを展望する。これがガイドブックの見開きを飾るアイデア。

床を傷つけないように靴袋を履いて入場


 俺は「なるほど」と早々にトイレを目指す。順路的に91階の最後の地点にトイレがあった。ありがとう。俺は自らを解放する。宙を飛ぶ。
 サミットには草間彌生のアート「雲」と共にニューヨークの空を展望する部屋、銀色の気球と戯れながら展望する部屋、合成写真を作る部屋、足元ガラス張りのブースがある部屋、屋外の屋上、売店があった。

草間彌生の雲


気球はエアコンで吹き上がる。基本的には空気より重くゆっくり落ちる


空を飛んでるよ!


東京タワーにもこれあるよね。

 草間彌生すげーな。こんなアメリカのシンボリックな場所に採用されちゃって。彼女は美術のトラちゃんにもページが割かれていた。
 エンパイアステートビルで夜景を見た。今回のサミットでは朝のニューヨークを見る。こっちの方が好きだ。形がわかる。よかった。そうそう、うんこが出たのもよかった。これを済ませると、その日一日、出る不安と出ない不安がなくなる。出ないとおいしく食べられない。サミットを下りて次の予定はお昼ご飯。シェイクシャックのハンバーガーだ。

 オオタニサンが好物に挙げたシェイクシャックをグランドセントラル駅店で食べる。うまい。ふつう。

何と東京にも10店舗ほどあるらしい…

 店がツーツーのフードコートだったからかな。やっつけの場所でジャンクフードを食べるのは雰囲気がない。逆にこういうところでお酒を飲むといい気分になれる。フードコートでお酒を飲む背徳感はある。俺は吞兵衛だぜい。実はホテルの目と鼻の先にもシェイクシャックがあって、こっちの方はピカピカの雰囲気良さげな店だった。こっちで食べるとまた味も変わったかもしれない。

 さて俺にはケツプリオから頼まれたお土産があったのだった。まだ買えていない。ファイヤーボールというウィスキー。
 ここまで見た所、ビールはコンビニでも売っている。しかし度数の高いアルコール類はコンビニはおろかデパ地下でも売っていなかった。そういう法律か条例があるのだろう。
 事前の検索で俺はこのグランドセントラル駅付近にリカーショップがあることを知っている。次の予定までは時間がある。このタイミングでウィスキーを買ってしまえ。俺はお嫁さんと母に待っていてと言い残し、一人シェイクシャックを後にした。

 出撃してしばらくして俺は気づく。スマホのマップが動かない。それはそうだ。渡米後俺のスマホはレンタルWIFIでネットに接続していた。レンタルWIFIはお嫁さんが持っている。お嫁さんのいるシェイクシャックはすでに遠い。
 俺は勘を頼りにグランドセントラル駅を文字通り走り回った。見つからなかったら次の機会でもいいのに気が急いた。ピンチを自家醸造した。10分ほど走っていると駅舎内にマーケットを発見。その中にここか!と思える店に突撃すると、残念そこは乾物屋。店頭を飾る酒瓶に思えた瓶はジャムの瓶だった。

 俺が見事、ケツプリオへのお土産の品「ファイヤーボール」を2本携えて、シェイクシャックに戻った時の誇らしさったらなかった。この時の俺の活躍は燕返しのごとく戦場から敵将の首をサッと奪ってサッと戻って来る燕人張飛になぞらえてよい。やったぜケツプリオ。リカーショップはマーケットの外れの裏手にあった。

 出発するときにはトイレに行っておく。シェイクシャックの脇にちょうど駅トイレがあった。忘れず用を足して地下鉄に向かう。途中同じB1階にあるグランドセントラルオイスターバーをちらと見る。朝、前を通った時には閉まっていた店が開店している。縁がなかったな、と思う。

 地下鉄でタイムズスクエア駅まで。そこからはクルーズの出る埠頭まで歩く。そこそこ距離がある。出発時間の1時間前に着く。植え込みの縁に座って待つ。眠い。30分して乗船口が開く。チケットをお嫁さんが提示。問題なし。手荷物検査…あ、船内への飲食物の持ち込みは禁止だ。やべえ。俺ウィスキー2本持ってるじゃん。指摘されることなく通過。ホッ。船は2階建て。1階は船室で、2階は3分の1が船室で、残りはふきっさらしに椅子が並ぶ仕様。みんな2階に陣取る。我々もそれに倣う。景色が見やすい端っこの席が取れた。さあ、寝るぞ。

 船が出る。ハドソン川の上から見るマンハッタンが予想以上に胸に迫る。

ええ天気ですな

 俺、寝ない。なんなんだろうね。超高層ビルから二度展望したのと同じマンハッタンだけど、全然こっちの方が良い。夜よりも朝、朝の展望台よりも、昼の船からの方が、建物の形が分かる。横から見た形。個性的なビルが多い。っていうかデカいビルはみんな変な形。競い合っている。まるさんかくしかく。崩れる寸前のジェンガみたいなビルまである。アメリカの富、とか思う。東京は直方体だけ。渡米初日にまあ東京と同じだよなと思った自分を恥じるばかりだ。
 船内にはガイドが流れる。録音ではなくオンタイムで放送。いいノリしている。ハッハッ!とか笑う。アメリカ人かよ!アメリカ人です。英語なので意味はわからない。

 船が動き出してから20分ほど。自由の女神が迫ってくる。おお。でかいな。そして案外などっしり感。建物感がある。スカートの広がりが安定感を生んでいる。母が感激。「これが最後に見る自由の女神や…」 いや、あなた今回が初めてですよね。

いつか名を上げてもう一度彼女をこの地へ

 明日渡る予定があるブルックリン橋をくぐる際に、荒川に掛かる鹿浜橋を思い出す。ニューヨークのUBER配達員もこのブルックリン橋を渡る時に「くそ飛ばされた」とか思うのだろうか。

 船はイースト川を北上。国連総本部の脇を通る。一通り見る物は見たという感じでテンションが落ちていタイミングだった。危ない。見逃すところだった。建物的にも地味。あんまりでかくない。しかしここで世界の意思が決定されているのだ(決定できていないという向きもある)。街歩きで見物に行くプランもあった。次点で落選したが、ここで見られたのでよし。

 今度こそ見る物は全て見た。ガイドも喋ることがなくなって黙りがちになった。肌寒さも感じる。我々は1階に下りて寝に入った。2時間半のマンハッタンクルーズはまだ半分以上残っている。ねむい。クルーズの後のこともあるし残り1時間半をうつらうつらして過ごす。そんな中でもハーレムには注意した。…ここらへんがハーレムのはずだよなとグーグルマップとにらめっこして。ふつうだった。

 休養をとったことで回復して船を降りる。最後の最後、下船の列ができている時に母とお嫁さんがトイレの場所を教えてと俺に言ってきた。すでに済ませていた俺としては「このタイミングでかよ」と思ったが口には出さなかった。「トイレは地下にあるよ」 客全員が下船して片付けするスタッフだけが残る中、俺一人が、母とお嫁さんがトイレから上がってくるのを待った。バツが悪くあせった。

 クルーズ後のタスクはハイラインを歩く。チェルシーマーケットで晩御飯。の2点。
 ハイラインは廃線になった鉄道高架を公園にしたもの。旧倉庫街を縫うようにして南北に2キロ走っている。超細長い空中庭園と言っていい。北の端っこがクルーズの埠頭に近い。チェルシーマーケットは南の端っこにある。

 ハイラインを歩くというのは、ビルの3Fぐらいの高さを2キロ歩くということになる。信号はなし。愉快。この高さがミソで道の両側に競る他人のお宅を、のぞき見している気分になる。ハイラインは旧倉庫街の中を縫っている。ということで、道に競る建物は赤レンガのひなびた物件が半分、新築のデザインされた物件が半分といった感じ。それらが反発しあうことなくいいところに納まっている。たいしたもんだと感心する。あしらわれた植栽も整えられた花壇ではなく木々草花が混ざり合う無造作系。作為を抑えた作為がセンス良し。

曇ってきた。

 ハイラインが廃線を生まれ変わらせた公園ならチェルシーマーケットも廃工場に手を入れてマーケットに仕立てたもの。我が国のわびさびに対してアメリカは大味という図式があるが、なかなかどうしてあちらさんも風雪にさらされた味をこちら以上に愛でていると感じた。

 チェルシーマーケットでやるべきことは2点。1つお土産を買う。1つ買晩御飯を食べる。当たりはついている。お土産はチョコブラウニー。晩御飯はタコスとロブスター。

チェルシーマーケット内。手にしているのはチョコブラウニー。どんだけ買ったねん

 まずは、ファットウィッチベーカリーにチョコブラウニーを買いに行く。存外小さなお店。母とお嫁さんが選んでいる間、俺は店の外でスマホをいじる。二人はなかなか出てこない。隣でチョコレート屋が量り売りをしている。次第に俺の心に思いが募って来る。俺はこのマーケットでぶらり買い食いをしなければならないのではないか…。あのチョコレートをひとかけら。こわい。弱虫。あのお客さんがいなくなったら。いや新しいお客さんが来た。交錯する決意と翻意。結局チョコレートは買わなかった。

 しかし見物したイタリア食材屋を出た時、ベンチでハムとワインをキメている外人を見て俺もやる!と決心した。あのハムはさっき俺の隣で試食していたハムだ。俺は再入店する。ハムとチーズは日和ってパック詰めのを買った。ディスワンで済んだ。しかし食材屋でワインの扱いはなく隣の店にもなし。俺は近くのステーキ屋に突撃した。ディスワンでは済まなかった。グラスワイン レッド メニュープリーズ など俺は頑張った。ワインとチーズはうまかった。ハムはしょっぱかった。満足。次いってみよう。タコスとロブスターだ。

 お嫁さんにタコスを任せて俺はロブスターが一角を占めるフードコートに向かう。母を座らせて席を確保、後、俺はロブスターの店に向かいパイントとワインとロブスターとクラムチャウダーを注文。そして別の店でオイスターを注文する。商品が出来上がり次々と獲得する。ほぼディスワンで済んで簡単だった。
 お嫁さんが「超難しかった」とタコスを携えて合流。タコスはトッピングから何から自由で店員のメキシコなまりもキツく、どうしたもんかとオロオロしたそうだ。すると周りの客が助け舟を出してくれてようやく買うことができたとのこと。
 助けてくれたオーストラリア人が喋り好き。「おまえは日本から来たのか。俺はオーストラリア人だ。ここのタコスは最高だ。アメリカに来る度に寄っている。ここのタコスはメキシコの匂いがする」 そんなことを言われたそうだ。お店の名前はロス・タコス・NO.1。食ってみる。確かにうまい。小さい。でもお安い。「2つ買えばよかったのに」とは言わなかった。いや言うはずがない。

ロブスターの食べられるところはちょびっと

 ロブスター以下の品はそれなりのお値段なので、うまいと言えばうまい、ふつうと言えばふつうという感想を持ったが、グランドセントラルオイスターバーに行けなかったことへの意趣返しになった。オイスターバーに行っても大体似たような品を注文したと思われる。よかった。

 地下鉄で帰る。ホテルの部屋に戻って、俺はやおら「ピザ買ってくる!」と言って再出撃。チェルシーマーケットでピザを食べなかった心残りがあった。ニューヨークはピザの街。ガイドブックに書いてある。ホテルの近くのレイズピザで、珍問答の末に、ピザを持って帰還する。ピザうまかった! レイズピザは街でよくみかける普通のチェーン店。俺が食ったのはチェーン店の普通のピザなんだろうけど、すんごくうまかった。さすがピザの街!

これがうまかった!

 テイクアウトは和製英語。英語をしゃべる人たちの間で持ち帰りの意味はない。現地の人にテイクアウトと言うと「出ていけ」という命令文になるようだ。俺はレイズピザでテイクアウトと言った。俺はオヤジさんに外を指さされ、外でピザが焼きあがるのを待った。焼きあがるとオヤジさんは隣の店員と笑って俺にこっちこいと手招きした。俺は訳が分からないまま店に入った。

 

 

 


この文章で上がった収益は、全てボス村松の演劇活動と植毛に充てられます。砂漠に水を。セイブ ザ ボース。