3. カラオケは神編(前編)
太郎はいつものスナックに入った、カランカラン。既に先客がいた。3つあるBox席は2つ埋まっていた。カウンターには3人。太郎は右から二番目の席に促された。
右の男はたまに見る顔だ。会社の管理職という感じか。左隣は初めて見る顔だ。自営業っぽい。L字になっているカウンターの角には、若干ややこしそうな男がいる。
「柚月、でな、その後そいつが…」ややこしそうな奴がチーママの柚月に話しかける。太郎が入って来る前会話していたのだろう。チーママは話をしながら太郎の水割りを作った。
水割りを作り終えた柚月は順番に他の客の相手をする。
左隣の自営業っぽい男とは選挙の話で盛り上がる。管理職っぽい男とは息子のサッカーの話をする。
柚月はそれぞれの客の会話を聞き、相槌をうちながら、酒のなくなりそうな客にはすぐ酒をつぐ。灰皿にタバコが2本溜まったらすぐ替える。その間にグラスを洗ったり…
聖徳太子やな。太郎は思った。全くばらばらな身勝手な4人の客を一度に相手にして、それぞれに満足感を与えている。
「プロの仕事とはこういう事か」太郎は思った。
BOX席に目をむけると、ホステスの沙樹が3人のグループを相手にしている。左隣の男の太腿に手を添え、右前の男の目を見ながら話している。恐らく目の前の男には、テーブルの下で足をツンツンでもしているのだろう。これも一度に3人の客を相手にしている。
ホステスは天才やな。
まあ、お客一人に一人女の子つけるとなると店もコストかかるから、必然的に客単価は高くなるな。適度なコストで最高のパフォーマンスを発揮してくれる、そんなホステスが最高なんだろう。
太郎は、まだ一つの事を片付けて次の仕事という感じだ。複数の仕事を並行して進めるコツを掴まないと昼の仕事でも、生きていけないなと太郎は学んだ。
カラオケは一言も出てきていませんが、長くなっできたので前編は終わります。
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