2021.10 緊急事態宣言解除


 
 正直なところそれほど期待はしていなかった。総石垣造りが見どころとあるが、石垣だけなら物足りなさがあった。

 心境が変化したのは復元再建された「御三重櫓」のなかに入ってからである。採光が限られているのに、とても明るい。床や壁、柱や梁、階段に至るまですべてに木材が使われており、その表面が採光を反射して室内に明るさを拡散している。柱や梁の太さには重厚感があり、直接足裏をつけている床面にはぬくもりがある。木造で復元された天守として往時を感じるには十分な造りだろう。くじにでも当たったようなお得感があった。

 福島県の白河にある小峰城址を訪ねたのはコロナ禍前年の初夏である。御三重櫓は寛永九年(一六三二年)に建てられたが、慶応四年(一八六八年)の戊辰戦争で焼失。その後、1991年に発掘調査や絵図に基づいて木造で復元された。


 昨年訪れた静岡県掛川市の掛川城も絵図や高知城を参考にした木造の復元天守である。市民や地元企業から十億円の募金を集めての再建であった。まさに掛川のシンボルである。

 鉄道ファンは撮り鉄、音鉄、乗り鉄、時刻表鉄、収集鉄などとそれぞれの興味の対象によって分けられている。

 城郭ファンも同様で、石垣や堀、土塁や曲輪、城門、そして天守や御殿、櫓などの建造物によってそれぞれに固定ファンがいる。

 個人的な思いを言えば、城というからには天守あっての城だろうと思っている。なかでも最上位に位置するのは現存天守になるだろう。現存天守とは江戸時代以前に建てられて現在も保存されている天守である。姫路城や松本城、弘前城など十二天守が残るのみだ。それぞれに風格があり、一見の価値がある。小峰城や掛川城はそれに次ぐ存在と言えるだろう。コンクリートで再建された観光用の天守ではなかなか心は動かない。

 非常事態宣言下では城巡りを自粛していたが、宣言が解除と聞けば旅の虫がごそごそと騒ぎ出している。さてどんな城に巡り会えるのか。興味は尽きない。

 城の方はどうだろう。恐らく首を長くして私を待っているにちがいない。


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