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赤表紙、青表紙 『世界モンスターブック』回想 / 同・後日譚

 幼い砌に出会った切、再会が覚束ない本は幾つかあるが、とりわけ後ろ髪を引かれる思ひを断ち切れないのが『世界モンスターブック』。果たして書冊の範疇に添はせて良いのか、昭和四十年代前半に駄菓子屋で売られてゐた 小冊子である。判型は文庫判半分よりやや細身、細長い紙を折畳んだ本体に表紙と裏表紙を貼りつけた体裁。経本の作りといふのも物珍しく、類書中、後にも先 にも唯一例と思はれる。これも、出版社の刊行ではなく、駄菓子屋に荷を卸す零細の玩具店の商品だったからだらう。思ひ起こすと、紙質も印刷も粗悪、さ ながら木版画のやうな印面との記憶を拭へない。
 往時は怪獣図鑑全盛期、本の魅力を比べたら子供の目にも月と鼈、片々たる冊子が他書の足元にも及ばないのは明らかだった。それでも、ひとつの理 想を体言した図譜と映ったのは、洋画の怪物に徹した内容だったからに他なるまい。怪獣が一区切りついた後、かりそめに妖怪が持て囃された頃になると、 図鑑と呼ぶべきは指折り数える程に逓減した上、洋画に取材した子供向きの書冊もごく限られた。「ショック」や「怪奇劇場」、「ウルトラゾーン」に心躍 らせた向きには、『世界モンスター大百科』(「ぼくら」昭和四十三年九月号付録)を除くと、怪獣図鑑に相当する流行の牽引車は見当たらなかったと言へ る。序に書いておくと、妖怪が「ブゥム」にまで至らなかった原因のひとつが、出版物の不振にあったことは明白だらう。

以下、約3000字・四百字詰8枚 図版3点 正仮名遣

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