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私の関わった人ではないもの(自殺した女)

今回は今までにないほど嘘くさく聞こえる話です。作り話としてでも読んでみてください。

自殺した女

おそらく私が五歳の頃、妹は飛び降り自殺したであろう女に取り憑かれました。とりつかれたというと語弊があるのですが、何とも形容しがたいので取り憑かれたということにしておきます。
この事はあまりにも妹が異常(猿に憑かれた時くらい)だったのでとてもよく覚えています。
といっても妹が苦しんでいたこと以外には両親から聞いた話なので前回同様私の視点と両親の視点が入り混じります。

いつものように幼稚園から帰ってきた妹の調子が少しずつ少しずつ悪くなっていったことを覚えています。痛い痛いとうわごとのようにつぶやく妹に、私は幼いながら死の恐怖を覚えました。たった数時間で医療従事者の母でさえ涙目になるほどに妹は衰弱していきました。
最初は「なんだか足とか腕が痛いの」という訴えから始まり、「痛い痛い」と泣き叫ぶようになり、除霊師さんの家に向かう車の中では上のような状態でした。
元々は数日前から痛いという訴えはあったようです、病院にも数度連れて行ったようですがどこで検査しても異常なし。週末にでも除霊師さんのところに行くか、といった感じでした。
妹が訴え始めた日から、時々階段を上る音が響いていたと幼い私が言っていたそうです。まったく霊感のない父でも変だと感じるほどに家の様子が変わっていきました。
そんな心当たりしかない状態で、母は救急病院ではなく除霊師さんの所に連れて行ったのはいい判断だったのかなと思います。

余談ですが、見えていたり被害にあっていたにも関わらず私はあまり心霊現象を信じていません。新興宗教の一種っぽいなとも自覚はしています。ですので、私は母のこの状況に立たされた場合確実に救急車を呼んでいたでしょう。

さて、話を戻します。除霊師さんの家に着いた頃には本当に虫の息でした。別に呼吸に問題があるだとか脈拍に問題があるだとかそういうことではなく、意識がもうろうとしている、ただそれだけといった感じでした。
除霊師さんは妹を見てすぐに険しい面持ちになり、除霊を始めました。

除霊といっても今までは、とんとんと身体を叩く程度のものしか見たことありませんでした。(バブちゃんは除く)その時の記憶はうっすらとしかなく、除霊師さんが必死に話をしていたことを覚えています。

「貴女の都合で自殺を選んだのになぜ人に迷惑をかけるのか」
「この子に痛みを与えるだけ与えてどうしたいのか」
「早く上がってくれ」
「こんな幼い子をこんな目に合わせて何とも思わないのか」

そんな事を必死に言葉にしていました。しばらくすると、除霊師さんは顔を上げ、もう大丈夫だよ、と言われました。

そこからの妹はというとまあすごかった。昼も痛みであまり食事がとれておらず、夕飯も食べられていなかったため、除霊師さん宅でとんでもない量の夕飯を平らげました。ここのお宅はお伺いするといつも美味しい煮物やところてんやトマトなどを出してくださってたのですが、4歳児が食べる量にしては異常なほどにそれらをぺろりと平らげたのです。
これは別に幽霊は関係ありません。ただお腹がすいていたようです。
何にせよ虫の息だった妹がこんなに元気になったことに私は非常に喜んだことを覚えています。

妹に取り憑いていた霊は、どうやら子を失い人生に絶望した女性だったそうです。飛び降り自殺をしており、そのせいで腕や足は折れ、内臓は破裂し、命を落としたようです。
ですが上手く上がりきれず、そしてちょうど目についた幸せに過ごしている妹に強い憎しみを抱いたそうです。殺そうとしたのかどうかはわかりません。ただ、妹は明らかに死にかけていました。顔面蒼白で4歳にしては小さな体を母が必死に抱きしめていたことは強く頭に残っています。

これで自殺した女の話はおしまいです。

後日談

妹は食べすぎのためその後の車の中で盛大に嘔吐しました。それにつられて私も貰いゲロをしてしまい、車内は行きとは違う意味で大パニックに陥りました。

あんなにも長い間上がろうとせずに居座り続けたのは後にも先にもこの幽霊だけです。

次はきっと気になっているであろう猿に取り憑かれた話をします。
今までに比べればずいぶん可愛らしいです。

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