妙見の森ケーブル・リフト惜別乗車
大阪府の北西部、能勢町と豊能町そして、兵庫県の猪名川町にまたがる、北極星信仰の霊場「妙見山」参拝のアクセスとして長らく運行されてきた「妙見の森ケーブル.リフト」が2023年12月3日を以て営業を終了する。営業終了間近になると混雑が予想されるため、先ごろ惜別乗車をしてきた。
10月8日(日)10時頃、仲間4人と能勢電鉄妙見線.妙見口駅に降りた。ケーブル乗り場は、妙見口駅から徒歩20分くらいの麓にある。連絡バスも運行されているが、私たちは歩くことにした。歩き出すと、花折街道と表記された看板があった。聞くところによると、この街道は妙見山への参詣道にあたり、昔は多くの参拝者の往来があったらしい。昔の名残に触れながら歩くのは有意義だと思うのだが、周りを見ると、歩いているのは私たち以外に2~3組しかおらず、電車に乗っていたハイカー連中はバスに流れたようだ。
緩やかな登りの街道から国道477号線に合流、やがてケーブルのりばの看板が現れて、ケーブル黒川駅に着いた。駅前の駐車場はほぼ満車で、私たちが駅前風景を撮影している間にも、続々車がやって来る。そんな中、妙見口駅からのバスも到着。刻々と混雑が増す中、午後からの雨予報もあったので、すぐにケーブル乗車の行列に加わった。
程なく、山を降りてきたケーブルカーが到着し、乗車が開始された。当たり前であるが、席に座ることは叶わず、通路の中程に立った。発車すると、ズシンというケーブルカー独特の振動に揺られながら、身を任せる。混み合っているので、景色はあまり見えなかったが、もう1両のケーブルカーとの離合シーンを見たりする。周りの客も、思い思いに撮影をして楽しんでいる。お別れ乗車という一過性の賑わいシーンだが、個人的にはこういった時間は嫌いではない。お客さんが多い方が、関係者の方々も嬉しい筈だ。
ケーブル山上駅に着くと、リフトのりばまで「いろは坂」と呼ばれる坂道をしばらく歩く。この道と次に乗るリフトは、戦前まで運行されていたケーブルカーの名残りだ。もともと、妙見ケーブルは、先ほどの山上駅を境に上部線と下部線で開業したが、戦時中に不要不急路線とみなされて、全線が線路を剥がされた。戦後になって、復活を目指したが、開業したのは下部線のみに留まり、上部線はリフトとして再出発となった経緯がある。ケーブルカーの廃線跡らしい急勾配を登って、リフトのりば着。
リフトのりばの前は「ふれあい広場」があって、湧き水「妙見の水」で喉を潤す。しばらく休憩してリフトに乗った。
スキー場以外でリフトに乗るのは珍しいと思うが、日本全国の観光地で、何ヶ所は運行されているみたいだ。ケーブルカート比べて迫力はないが、個人単位で乗れるため、展望は保証されているし、自然の空気を全身に浴びることができる。のんびりとした動きに体を委ねていると、折り返しのリフトにも途切れることなく人が乗っていた。まだ昼前なのにこの乗車率は、紛れもなくお別れ乗車組が多くいることを示している。自然豊かな空間を抜け、10分くらいで妙見山駅着。寺院を散策するため、本殿方面へ足を向けた。
妙見山は、北極星信仰の聖地と呼ばれる霊場で「星嶺」という信徒専用の会館が展望台にある。寺院とは不釣り合いな外観だが、イベントなどに使われる場所らしいので、ニホン式建築に拘る必要はないというところか。
仲間に双眼鏡を借りて景色を眺め、その後は境内をぶらりと歩く。ケーブル.リフトのお別れ乗車組は、それほど目立たず、人出は少な目だった。帰りはブナ林の散策路を歩いて、リフト乗り場へ戻った。
再びリフトに乗車。今度は下る方向で視界が広がる。個人的な感想としては、上りより下りの方が景色の見え方が良かった気がする。リフト道の下には花が植えられている箇所があって、ていねいな整備だとほのぼのするが、これらももうなくなるのだ思うと切なくなってくる。
リフトを降りると、再び「ふれあい広場」で休息する。アート作品の仮想駅やリフトの見える丘で撮影し、以前運行されていた園内鉄道跡を散策する。そして、最後のケーブルカー乗車だ。
今度はベストポジションを確保したいので、1便見送って、列の先頭に並ぶ。そして、やって来たケーブルカーでは後部の運転席横を確保した。
発車すると、私は景色の動画撮影に精を出した。広報に流れる景色と、車内のBGMが何とも切ない。そして、下から破ってきたケーブルカーとの離合が終わると、終点が近い。そして、ガラスに雨粒が付くようになった。
ケーブルカーとリフトの惜別乗車が終了した。ケーブルは能勢電鉄の妙見口駅から離れた場所にあり、決してアクセスが良いわけではないが、ここまでよく運行を続けてくれた。日本の人口が減る中、公共施設の衰退はやむを得ない。少しでも思い出を作ることが出来て良かった思う。
雨が降る中、傘をさして妙見口駅まで戻り、駅前食堂「津の国屋」で遅めの昼食。鍋焼きうどんを食べながら店内を見廻すと、手書きで「ケーブル.リフト12月3日で終了」と張り紙がしてあった。そういえば、妙見口駅前の何軒かの商店は、これからどうなるのだろう。ケーブルが廃止になると、確実にハイカーも減るだろうし、こういった所にも影響が出ると思うと、寂しさはつのる一方になるのだった。
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