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ゴーストアンドレディ観劇レポ!

今回は、既に観劇された方向けですと前置きしつつ、共感しあったりコメント欄で意見交換したりすることを目的に書きます。つまりネタバレを多く含みますのでご承知ください。※作品上の表現にならい、「看護婦」などの表記を用いることをご容赦ください。

◇黒博物館が出てこない件
舞台化にあたり、ブラックミュージアム要素を省くという決断。キュレーターやかち合い弾が登場しないことも含め、原作がお好きな方は賛否両論あることと思いますが、私は「あっぱれ」の一言に尽きます。グレイが書かせた脚本の芝居を今まさに見せられていたというメタ。ずるい。見事。最高です。グレイはシェイクスピアおたくなので、劇中劇という手法はすごくしっくりきますし、そういう設定だったと言われてしまえば、原作と違ううんぬん、そんな批評は全部跳ね除けられちゃいますから。ラブストーリーに寄っていたり、デオンとの決闘が2.5次元ミュージカルぽかったりするのも、そりゃそうだわなと。グレイが脚本すればそうなるわなと。『ルパン三世ファーストコンタクト』っていうルパン映画があるんですけど、やたらルパンがかっこいい話で、最後、実はルパンが作った話でしたっていうオチなんですけど、それを見た時と同じ、やられた!っていう痛快さがありました。

◇助けはいらない VS 助けが必要
クリミアに到着するや否や“熱烈な大歓迎”を受けるシーン。まずは兵士と看護団の掛け合いが対になる演出が見事。ユーモラスに描かれていましたが、拒絶する兵士に対して「助けてください」と逆に迫る作戦は、フローの賢さと、それに素早く気付いて合わせる看護団の頭の回転の速さも相まって、上手い!ってなります(ミュージカルなんだからそりゃいつだって突然歌い出すんですけど、ここは看護団が即興で空気読んで合わせた、って私は解釈しました)。
あとこのシーンはフロー役(私が見た時は志音さん)の“芝居を打つ芝居”が見れるわけです。当たり前だけど、上手い。もっというとここ、劇団四季のゴーストアンドレディという芝居の中の、グレイの脚本したゴーストアンドレディという芝居の中で、芝居を打つフローの芝居をしてるってことですよね。劇中劇中劇。

◇強盗のシーン
自分を襲った強盗が片足を負傷しながら逃走したことを知って「出血がひどいかも」「捕まったら手当を」と話すフロー。この台詞が一番考えさせられました。今も思い出して涙がこみ上げてきます。
X(Twitter)とかみてると、匿名の脅威というか、世間の感情は法律よりも罪を重く見積りがちで、本来受けるべき罰以上の罰を与えがちな世の中、浮気者も殺人者も一括りに、悪い人は死んじゃって構わないくらいにみんなが考えているように思えてしまうこと、あるじゃないですか。(そんなことないってのは分かってます。でも情報量が・・・)。人権ってなんだろうなって、思うときあります。
この台詞を聞いて、会場の多くの人が涙しているのが音や雰囲気で分かりました。私も泣いた。こんな優しい人が本当にいたこと、そしてきっと今の世も、少し見えにくくなっているだけで、こういう気持ちを持った人は沢山いるはずだということに希望を感じて、涙が溢れたのかもしれません。この世は生きるに値する、って思いました。でもフローは、優しさとかそういうものを超越していて、職業看護婦としての自立というか、確固たる信念というか、そういう哲学に基づいて、職人として強盗を手当するという行動に至っています。まったくすごい。

◇あなたが遠くて
オリキャラ、エイミーの歌う「あなたが遠くて」。患者のために不眠不休で働きながら、かつ看護婦たちのことも気遣ってくれるフローへの尊敬と憧れ、それと同時に、そんな完璧超人がすぐ隣にいるから、自分も弱音を吐くわけにはいかない、その日々が“つらい”。そんな複雑な感情を歌う、はかなくていい曲です。奏絵さんの歌声が本当に綺麗でこれまた泣ける。エイミーの人物像については、人それぞれ印象が違うだろうなって思いました。仕事もまずくて、くじけがちで、寿退社で去っていく。嫌いな人もいそう(笑)
でもですね、すごくリアルで、人間味が溢れていて、私は最高に好きなキャラクターです。フローのことを心から信じている様子が終始伝わってきましたし、アレックスもそうですが、フローのそばを離れた後もずっと彼女を慕っていたことも最後のシーンで明らかになります。旅立たんとするフローに声をかけるシーンはもう、号泣を通り越して嗚咽も通り越してあやうく失禁するところでした()

◇絶望する理由
デオンと相討ちで塵になるグレイ。ひどく取り乱すフロー。史実のナイチンゲールが戦争の只中で止むを得ず人を殺めねばならなかったことがあったかどうか知りませんが、ずっと命を救ってきたクリミアの天使が、あろうことか人に銃口を向けてしまうこのシーン、原作を読んだときもかなりショッキングでした。誰の台詞だったか「戦争さえなかったら」の言葉が重い。
どんな困難にも絶望せずグレイに殺す機会を与えなかったフローが、最後にグレイの死(?)で絶望するというこのプロット。お見事だよグレイ。もとい、藤田先生。

◇結論、もう一回見たい。
一度の観劇ではとても回収しきれない、演者やクリエイティブ陣の芸術がまだまだ散りばめられているんだろうなと思います。もう一回見たい。
こちらからは以上です。

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