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月ヶ瀬梅林と梅畑と梅食品

先日訪れた奈良市月ヶ瀬「烏梅づくりの里 梅古庵」の烏梅最後の継承者 10代目 中西謙介さんは、神社を建ててしまうほど大変ユニークな方です。

中西さんは、烏梅だけではなく梅の生産者として様々な梅食品を製造販売されています。
「栽培家だからこそできる樹上完熟梅を使った梅食品」はゆっくり熟した梅の自然でしっかりとした甘酸っぱさが魅力です。

今回は月ヶ瀬と、中西さんの梅畑見学と梅食品についてご紹介いたします。

烏梅についての記事
烏梅、最後の生産者 月ヶ瀬梅古庵さんを訪ねました


月ヶ瀬梅林について

月ヶ瀬村は2005年奈良市と合併されました。
近鉄奈良駅から車で約50分、山林を越えるとかつての秘境、美しい渓谷が目の前に突如現れます。

月ヶ瀬渓谷

月ヶ瀬は奈良時代から大安寺などの荘園として、また木津川を利用して南都の大寺の建築用材を奈良まで運ぶための地として発展しました。

その後時代と共に興福寺の荘園、在地土豪の支配下、江戸時代には大和郡山藩の領地となり明治を迎えます。

烏梅最盛期の江戸時代末期から明治にかけて、儒学者、文人墨客、政治家など著名人が多数訪れ世に紹介されて名勝「月ヶ瀬梅林」として有名になりました。

参考「奈良市ホームページ 月ヶ瀬の歴史

しかし科学染料の普及と共に急速に衰退し、昭和初期烏梅生産者は3軒になり、戦後以降1軒、今回訪れた梅古庵さんのみとなったのです。

梅子黄

訪れた6月末は新緑の季節。
七十二候では「梅子黄」(うめのみきばむ)

二十四節気七十二候にはいつも驚かされます。
日本の暦に従って自然を観察してみれば、まるで占いが的中したかのような楽しい気分になります。
そして何より、美しい。

おすすめ暦サイト
日本の季節を楽しむ暮らし 暦生活

2月中旬から3月にかけては約1万本の梅が咲き、全国各地から大勢の人が訪れ、期間中のみ開店するお店でにぎわいます。
そんな風景は想像もつかないほど、6月の月ヶ瀬はしんと静まり返っていました。それもまたよし。

奈良側から渓谷の最も奥地、尾山に今回訪れた月ヶ瀬梅古庵があります。

梅古庵さんの梅畑

烏梅用の梅の木は、梅古庵さんの自邸のすぐ下の傾斜に植わっています。
少し離れた場所にある梅食品用の畑にご案内いただきました。

梅古庵の梅畑

今年は月ヶ瀬のみならず全国的に、梅の生育が芳しくないとのことでした。
蜂が減っていることも危惧されます。受粉が行われないことには結実しないためです。

梅食品にも樹上完熟梅のみを使用する梅古庵さんの梅畑で、この時期通常なら完熟を待つ梅はもっと沢山実っているはずですが、確かにほとんど見られませんでした。

それでも、なっている梅の実は大変立派です!みなぎる生命力。見るからに美味しそう。
恐らく少ない果実に養分が集中しており、且つ完熟までの時間が長いということは例年よりかなり美味しい可能性もあるのではないでしょうか。
梅食品2024が楽しみです。

梅古庵の梅畑

梅の性質から多品種を混植することで受粉して実がなるため、様々な品種の梅が混植されています。
自然に生えた実生(種から発芽して生長した幼い木)の梅の木を育て自然に増やします。

できるだけ自然に従い優しく見守る、そばでお話を伺っていると寡黙な中西さんの静かな覚悟が伝わってきます。

「しそ巻甘梅」用の樹齢200年「鶯宿おうしゅく」

梅古庵 樹齢200年「鶯宿」

梅干し用稀少品種「紅映べにさし」

梅古庵 紅映

梅畑はかなりの傾斜地です。樹上完熟した梅を一つ一つ収穫していきます。梅は実生で残ったものを大切に育てるので、それぞれの梅の木が気に入った場所に生えており、作業の大変さが想像できます。

青梅で出荷し追熟するより確実に美味しいにも関わらず、生の完熟梅は市場に出回りません。完熟すると皮がすぐに破れ傷つくため青梅で出荷されるからです。
つまり「梅農家にしか作れない樹上完熟梅食品」なのです。また多品種の梅をそれぞれの特徴に合わせて丁寧に手作りされるので、様々な梅の品種を味わえます。

梅古庵の梅食品、そのお味は?

お話を伺いながら梅古庵さんの梅食品をごちそうになりました。

梅古庵の月ヶ瀬名物「しそ巻き甘梅」と梅干し

梅干しは、画像左が樹齢200年「城州白じょうしゅうはく」、右が樹齢40年「南高梅」、そして「鶯宿梅おうしゅくばい」のしそ巻き甘梅です。

梅干しはいずれも糖分が入らない、紫蘇と天日塩だけの昔ながらの梅干しです。塩が強すぎず ”いい塩梅”。

城州白は、京都府南部の城陽市で品種改良されました。
果肉が柔らかく、梅というよりプラムを感じるようなフルーティで洗練された香りと味わい。何個でも食べられそうです。梅干し初挑戦の海外のお客様にもおすすめしたい逸品です。

南高梅は、王道の安定感を感じます。
食べ慣れている品種だからこそ、食べ進むうち違いがはっきりと表れてきます。樹上完熟した深みのある味わいと重なっていく香りの余韻に驚かされました。
梅干し好きにプレゼントしたくなる格別な味わいです。

「しそ巻き甘梅」は紫蘇に包まれた梅のシロップ漬けです。月ヶ瀬の名物だそうです。
「鶯宿梅」の硬い果肉の特徴を活かした、カリカリとした食感が楽しい一品。秘伝の甘いタレに漬け込んでありますが、甘すぎず梅の香りと甘酸っぱさが引き出されています。クセになる美味しさ。

いずれも樹上完熟ならではの甘酸っぱさと香りを覆い隠さない調味の加減が絶妙で、それぞれの品種の特徴がしっかり味わえます。
ご飯のお供にはもちろん、月ヶ瀬の爽やかな煎茶をお供に、そのままゆっくり味わうもよし。

「今年は梅があまりなってないんです」
それでも焦らず、梅のペースを見守りながら信じてゆっくり完熟を待つ。それぞれの梅に合った調味をし、丁寧に仕込んでいく。
梅を大切に思う中西さんの気持ちが伝わる味わいでした。

2月から3月の梅まつりには梅食品を直接購入できる上、期間限定のお食事も提供されます!

梅古庵さんの梅食品が買える場所:
梅古庵オンラインショップ
JR奈良駅「奈良のうまいものプラザ
奈良 蔦屋書店


6月の月ヶ瀬観光

この時期月ヶ瀬は住民さえほとんど見かけず、あるはずのお店はほぼ全て閉まっていましたが、山のしんとした音と目に映る茶畑や葉の緑がいきいきと感じられました。

月ヶ瀬は大和茶の産地としても有名です。
茶の生産量は奈良県1位であり優良産地として名高く、世代交代により栽培から生産まで一貫して行う個性豊かな茶園が活躍しています。

道中、そこかしこに茶畑が見られ、茶摘みをしている茶園もありました。

月ヶ瀬の茶畑

梅古庵さんを後にして、修験道の祖 役行者(えんのぎょうじゃ)が修行の場にしていた滝と言い伝えのある「龍王の滝」に行ってみました。

龍王の滝 入口

「龍王の滝」は、車道から1分もかからず、突如山の奥地に入ったかのよう。

龍王の滝

近鉄奈良駅から車で50分ほどですが、同じ奈良市内と思えないような山道を辿ってきたことからも月ヶ瀬全体が既に山深く、かつて誰にも知られていなかった秘境だったことがうかがえます。
温泉やキャンプ場もあり、季節によって楽しめそうです。

是非、月ヶ瀬を訪れてみてください。
あなたの ”Old History, New Discovery.” がきっと見つかります。

文:ソムリエ・エクセレンス 山嵜愛子


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