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08.カラスと蝉 ---「もう一人のわたし」より

(公園にて。松の木の上で、カラスがカァ-カァ-鳴いている)
B:「とても近く聞こえるね。今まで聞こえたカラスの声、これほど響くのあまりなかったな。」
A:「うん、気を腹部に全部集中したような、力強い声だね。」
(木のもっと高いところに、蝉がいた。シ-ンシ-ンと、空を裂けるように音を出した。)
B:「あっ、同じ木の上で、今度は蝉だ。」
A:「ええ?でも、見てごらん。」
(蝉が音を出してまもない間に、カラスはぴょんぴょんと、階段をあがるように枝をのぼった。すると、キ--と一音が空を渡り、あとはカラスがくちばしを拭くコ゚トッコ゚トッだけが耳に伝わる。)
B:「うわぁ、怪談だ!」
A:「目の前ではめったに現れないホラー・シーンだったね。」
B:「なんて可哀そう。宇宙は、無条件な愛によって創造されたじゃないの?」
A:「そうかな?でもそもそも、弱肉強食を含めた自然界の法則ってさ、地球上の人間目線では不可解なものごとが多いね。」
B:「そりゃ確かに。人間から見て残酷と思われることも、動物や他の生き物にとってはそうではないかもね。」
「でもあの蝉はなんのために鳴いたのだろう?」
A:「うん、音を出さなければ天敵に気づかれなかったのに。」
「カラスの声に驚かされて、一瞬われの存在の忘れたかね?それとも、敵が近くにきたので自分が呑まれるのを恐れて、助けを求めて音を出したのかな?」
(松の木の上で、昼食を満喫したカラスは意気揚々と咳払いをした。ガァ-ガァ-と。)