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ハガクレ・スチール #07
07 対話
「あー、怖かった」
ナニカノ博士はクマのぬいぐるみをギュッと抱き締めた。眼前のモニタにはSG-01の主観映像がリアルタイムで送信されてくる。先程までそこに映っていたのは、数百年は文明が遅れた国の、明らかにアウトローに類する男たちが、敵意を露わに武器を向けてくる姿であった。
こういった力づくの場において、一瞬ごとに適格な指示を下すセンスを博士は持っていない。しかし世界中の格闘術や戦
ハガクレ・スチール #06
06 電撃
SG-01は腰をかがめて足音を抑え、一定の距離を保ちながら男たちを追った。獣道を100メートルほども進むと開けた場所があり、粗末な木造の小屋が建っているのが見えた。
『ひとまず隠れろ。推移によっては独自判断で動け』
『マッカセナサーイ』
手近な樹の裏に潜んで状況を分析する。
小屋の外に男が三人。小屋の中には最初に見た女性と、たったいま戸を開いて侵入した男二人。SG-01の動体セ
ハガクレ・スチール #05
05 遭遇
動物たちの声と渓流のせせらぎが澄んだ空気を伝う温帯の森。自然の静寂を破って水面から姿を現したのは、全身にパラシュートを絡み付かせた屈強な青年であった。SG-01である。
『ええい、風に流されたあげく川に落ちるとは…… 降下予定ポイントからずいぶん離れたな。SG-01、機能に問題はないか』
ナニカノ博士のロボットは岩場まで歩き、そこで糸が切れた人形のように脱力するとがくりと膝をつい
ハガクレ・スチール #04
04 降下
円筒状の透明カバーの内部が煙で満たされ、晴れるとそこには一人の男性が横たわっていた。高身長、筋肉質、そしてハンサム。鋼の素体の上に擬態用外装を施されたSG-01の姿である。
カバーが開き、SG-01は人間そのものの自然な挙動でむくりと身を起こした。そして、美しい人口の瞳を彼の創造主に向ける。
『おはようやがりませ、ご主人様』
「言語機能が若干おかしいか? まあいい」
ナニカノ博
ハガクレ・スチール #01
01 シラヴェール・ナニカノ博士
特殊強化ガラスの窓から雲海を見下ろし、三百年前の交響曲にしばし耳を傾ける。世界的メーカーが製造したソファの上で足を組み替え、クマのキャラクターがプリントされた特注マグカップを手に取る。並々と注がれているのは、希少動物の体内を通った豆で作られた最高級コーヒー。口に含めば他では決して体験することの出来ない独特の味わいが広がる。機内プライベートルームの居住性は高く、
ハガクレ・スチール #02
02 SG-01
「おい、もっとスピードを出せないのか?」
操縦室に入るなり、ナニカノ博士は自分自身が設計した輸送機の性能を忘れた。シートに座る武骨な作業ロボットは、合成音で『現在最高速デス』と答える。フロントモニタの向こうには代わり映えしない雲が広がるばかりで、音速で飛んでいる実感など得られない。
納得いかない博士が計器類を覗き込むと、確かに速度表示はMAXだ。しかし目的地に至る予定航路を
ハガクレ・スチール #03
03 J地区
緊急ライトが点滅し警報音が鳴り響く。激しい揺れはしばらく続いた。
「ひいいいっ!!」
なんとか手近なものに掴まるナニカノ博士。悲鳴をあげながらも、脳は既に複数の可能性を推察している。乱気流への突入、何らかの質量体との衝突、外部からの攻撃、爆弾等による破壊工作……
博士の思念に答えるように操縦ロボットの機内放送が届いた。
『操縦システムニ異常発生。格納庫ハッチガ解放サレマシタ。