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大塚海渡騎手が木村調教師を提訴

年明け早々にとんでもないニュースが流れてきました。関東の若手、大塚海渡騎手が所属先の調教師である木村哲也調教師から度重なる暴行を受けたとして茨城県警稲敷署に被害届を提出し、合わせてパワハラの精神的損害を被ったとして水戸地裁に提訴したそうです。


事件の概要

大塚騎手は昨年の正月競馬で落馬負傷し、慢性硬膜下血腫と診断され、その後長期休養に入っているため、今回の提訴は勢司厩舎で調教助手を務める父の大塚哲郎氏と代理人の高倉太郎弁護士が東京競馬記者クラブ加盟社向けのオンライン会見で明かしました。

弁護士によると、厩舎実習中から2019年12月までの長期にわたり、頭部を手拳で10件ほど継続的に殴打されており、調教師と新人騎手の関係では我慢するしかなく、いつまた殴られるかもしれないという恐怖に支配されていたという事です。そのため、明確に記憶している2件を主として被害届を提出し、民事として850万円余りの慰謝料を請求したそうです。1/20にも第1回口頭弁論が行われる見込みですが、これって結構な事件ですよね。

この件については情報が錯綜しており、しかも提訴されたという事で表面上の情報しか出てきませんが、多くの報道をまとめると以下の三点が主な内容です。

①所属先の木村哲也調教師から頭部を殴打された
②暴行は競馬学校時代から1年目の12月まで継続的に行われた
③調教師と新人騎手の関係から恐怖に支配されていた

そして、ツイッター上には本人名義のアカウントが2020年12月に作成されており、そこはこうした内容がツイートされています。

大塚海渡

このアカウントが本人のものか、成りすましかは分かりませんが、もし本人のもので、この内容が本当だとしたら、木村先生はちょっとヤバイ対応ですよね。落馬で頭やって意識障害の中、暴行を示唆するうわ言って『すいません・・先生・・・叩かないで下さい・・もう辞めてください・・僕が悪かったですから叩かないでぇ!!』みたいな内容でしょうか?意識のない息子がこんな事言ったらヤバイんちゃうか?と思いますわな。

一応、スポニチでは、弁護士が『(木村師側の回答が)手を出した事実はあったとされながらも、教育目的で、パワーハラスメントに該当するような行為ではない、というような回答だったので、訴訟提起せざるを得ないと判断した』と説明した、と報じているので、木村先生は暴行は認めるが問題がないものだと言っているのは間違いないようですね。


体罰との境界線

この問題は体罰と共通する問題で、昔ならいざ知らず、現在では大きな問題になります。漢藤田が、俺も良くボコられたものや・・とツイートしていましたが、私もある程度なら体罰も必要だと思います。

ただ、世間一般の声はどうにも微妙でして、一律に体罰は悪いというマイノリティの考えが全面に出てきて、虐待レベルならともかく、多少なら仕方ないという考えがサイレントマジョリティのように根強く残っているように思えるのですよ。

例えば、一般的な体罰といえば、親が子供に体罰をする、教師が児童生徒に体罰をする、師匠が弟子に体罰をするなどのケースがありますが、親や師匠からの体罰は比較的許容されやすいものの、教師が行うものは小突いただけでも大騒ぎになります。これは家庭内や伝統といった変化が遅く、根強く残る文化的な側面がある体罰と、それを非難する事で自らの立ち位置を確認できるような輩の叩きやすい標的となる体罰に分かれるからです。

なんだか釈然としません。

一律に体罰は悪いというなら、どこからが体罰なのかを明確にする必要がありますし、体罰にもアウトとセーフがあるというなら、それを明確にすればいい。どっちに転んでも『何が体罰と言えるのか』『何を批判するべきか』を明確にする事が重要なのに、現在の社会はそれができていないように思うのです。


私は、先に述べたようにしつけだろうがなんだろうが暴力を一律に体罰とするなら、体罰の一部容認派です。それが社会通念上妥当な範囲で、最小限の回数で行い、かつそれによって相手の更正を期待できる場合という条件付きになりますが。

例えば、子供を虐待して逮捕された親は、大抵の場合『しつけのためだった』と言います。しかし、その内容は痣が残るほどの殴る蹴るの暴行、食事制限、長時間に及ぶ正座、締め出しなど、目を覆うばかりの内容で、とてもしつけのためとは思えないものです。こうしたものは誰がどう見てもアウトですし、そもそも暴行、傷害という刑法に反する犯罪です。

一方で、同じ暴行でも容認される暴行もあります。分かりやすい例を挙げるとyoutubeに数多く上がっているドラレコ動画の中に、自宅前の道路に飛び出した子供をぶっ叩く母親の動画があります。結構有名な動画なんですが、ドラレコを見る限りはドライバーが良く止まれたなというタイミングで、まさに間一髪という非常に危険な状況でした。

それに怒った母親は子供をぶっ叩いてドライバーに頭を下げるのですが、それを見て『あの母親は子供に暴力を振るっている!!虐待だ!!通報しなきゃ!!』という人間がどれだけいるでしょうか。

このように暴行という行為は同じでも、その中身によって許容されるものとされないものがあります。前者は誰がどう見ても暴行、傷害、保護責任者遺棄等罪に該当する犯罪ですが、後者は母親が子供を愛するが故に手が出るしつけです。


翻って、木村先生の場合はどうでしょうか。新人騎手ならともかく、競馬学校に在籍している時から暴行をしていたとのことですが、実習中の生徒が危険な行為をするのはある意味仕方ないことです。ただでさえ未熟な生徒が現役の競走馬に騎乗するわけですからね。

しかし、危険な行為をする度にぶっ叩いていたら、それはただの暴行です。危険な行為をしないように指導するのが師匠ですし、1~2発ならともかく継続的に何発もぶっ叩くのは非難されても仕方ないでしょう。

確かに大塚騎手の騎手としての能力は、良く免許取れたなぁと思えるくらい未熟ですし、危険な騎乗も制裁も多かったように思います。長期休養の原因となった落馬も先輩の三浦皇成を巻き込んでのものですし、それは非難されて当然です。

ただ、それでも繰り返しなされた暴行が許される理由にはなりません。


ところが、今回の報道でヤフーニュースのコメント欄をはしごしてみると、大塚騎手を責めるコメントのまぁ多い事、多い事。制裁の多い未熟な騎手で、三浦を巻き込んで落馬させるなど危険な騎乗ばかりだから、暴行を受ける大塚騎手にも問題があるというコメントにGoogが9対1くらいの割合で付いていました。

気持ちは分からないでもないですが、それってイジメられる側にも問題があるって言い分と同じですよね。理由はどうあれ暴行は悪いというつもりはありませんが、意識が薄れている若者が暴行せんでくれとうわ言を言っていたら、それだけの恐怖心が残っているという事で、木村先生はそれだけの事をしたと責められるべきです。

もちろん、そうした意見に反対の声を挙げるコメントもありました。ただ、それらのコメントも言ってる事は同じでも、片や8対2くらいの割合でGoodが付き、片や3対7ぐらいでBadが付くような現象も見られ、大変興味深い内容でした。


まぁ詰まるところ、

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という事になりますね。


木村先生も精一杯やろうとしたと思いたいですし、仮に愛を持って手を出したとしても、その後が良くないのは頂けません。そこの対応を間違えなければ未熟な騎手が早々にフリーになり、数年後に競馬界から去って行った・・で済む話だったと思います。そうしたリスクマネジメントが不足していた点を反省し、法に基づいてしっかりと大塚騎手と向き合ってほしいです。


なお、大塚騎手は慢性硬膜下血腫と診断された後、半年ほどで復帰を目指していたそうですが、MRI検査で出血量が増加していたために再度休養に入り現在に至るそうです。現在は良化しており、少しずつ運動の再開、乗馬等を再開しているようですが、頭をやっているので復帰は慎重にしたいところですね。

ちなみにお上であるJRAは、この件については『係争中だし、警察の捜査中だからコメントをせぇへんよ』だそうです。



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