「マッカーサー証言」のデマ

マッカーサーが1951年の上院公聴会で「先の大戦はアメリカが悪かった」とか「日本の自衛戦争だった」とか日本人に向かって語ったという、滅茶苦茶なデマ画像が出回っています。

出回っているデマ画像

そもそもアメリカ上院の公聴会で、マッカーサーが日本人に向かって発言するはずもないのですが、アホには理解できないようです。おまけにGHQ総司令官であったマッカーサーが東京裁判を否認したら、世界中がとんでもない騒ぎになってしまいますが、そういうことも考えられないのが、オツムの残念な人たちです。

そもそも、この1951年の公聴会は、朝鮮戦争の真っ最中、戦争に介入する中国に強硬な手段を採るべきだと訴えたマッカーサーが、トルーマン大統領によって更迭(こうてつ:クビになること)された事件に続いて開かれたものです。
朝鮮戦争への国連軍(アメリカ軍)介入は、北朝鮮の南進を停めるのが目的だったのですが、マッカーサーは朝鮮全土の占領や中国との全面戦争を唱え始めました。それで「こいつはヤバイ」というので更迭されたのです。

山川&二宮ICTライブラリ

公聴会では、マッカーサーに対していろいろな質疑が行われていますが、上記の「日本は悪くない。アメリカが悪かった。」というデマは、その公聴会の中の一言だけを切り取ったうえで、更に歪曲し、めちゃくちゃな尾鰭を付けたものです。

まず以下に当該部分の訳文を貼っておきます。
元の文書は744ページにもわたる資料なので、リンク先から確認してください。当該のやりとりは#69 (p.57)にあります。

ヒッケンルーパー上院議員:
あなたの提案する赤色中国への海上・航空封鎖は、アメリカが太平洋で日本軍に勝利を収めた時と同じ戦略ではないですか。
マッカーサー将軍:
はい、そうです。太平洋戦争では、我々は迂回しました。そして接近していったのです。
日本には8000万人近い人口があり、4つの島々に密集していたことを理解してください。その約半分は農民でした。残りの半分が工業に従事していたのです。この巨大な労働力は、彼らが何か仕事をしなければならないことを意味していました。工場を建て、労働力はあっても、基本的な材料がなかったのです。日本には蚕以外、実質的に土着のものは何もない。綿花がない、羊毛がない、石油製品がない、錫がない、ゴムがない、その他多くのものがない、それらはすべてアジア地域にあったのです。それらの供給が絶たれると、日本には1千万から2千万人の失業者が出るだろうと、彼らは恐れていた。したがって、彼らの目的は、大部分が治安上の理由によるものでした。
原材料、つまり製造のための原材料を供給する国、例えばマレー、インドネシア、タイ、フィリピンなどの国々。彼らは準備と奇襲を利して、それらの拠点をすべて占領しました。
彼らの一般的戦略コンセプトは、太平洋の島々に辺境基地を保持し、我々がそれらを再攻略しようとして莫大な損失を出すことで、彼らが占領地の原料製品を支配できる条約に最終的に合意させることにありました。
それに対応して、私たちはまったく新しい戦略を展開しました。彼らはいくつかの防衛ポイントを押さえていましたが、私たちはその防衛ポイントを回避し、迂回したのです。敵の背後に回り込み、忍び寄り、忍び寄り、忍び寄り、常に被占領国から日本へ通じる経路に近付いていったのです。
フィリピンと沖縄を占領する頃には、海上と海軍を封鎖して、日本軍の維持に必要な物資が日本に届かなくなるようにすることができたのです。
この封鎖を行った時点で、日本の敗北は確実なものとなりました。
日本が降伏したとき、私が知る限り、少なくとも300万人の優秀な陸上部隊がいました。彼らは、戦うための資材を持たず、我々が攻撃する重要地点に資材を集める可能性もないため、武器を捨てました。私たちは、彼らのいないところを攻撃しました。その結果、彼らの壮大な軍隊は、非常に賢明にも降伏したのです。
太平洋で使用可能だった陸上戦力は、日本が使用可能だった陸上戦力の3分の1以下だったでしょう。しかし、私が言うように、我々があの通商路を封鎖し、彼らの経済システム全体を破壊したとき、彼らは実際に戦い続けるために必要な力を軍隊に供給することができず、その結果、降伏したのでした。

Military situation in the Far East
アメリカ上院軍事・外交合同委員会聴聞会
 マッカーサーへの審問

このマッカーサーの陳述は、かつて日本に勝利した戦略を中国に対しても採用すべきだという彼の持論を説明するにあたって、日本の戦争目的が南方の資源確保にあり、その通商封鎖によって勝利したことを述べたものです。
そして、マッカーサーは日本の戦争が「自衛目的だった」とは言っておらず、日本は資源を確保できなければ工場も稼働できず、大量の失業者が生まれて治安が危うくなることを怖れたのだ、という説明をしているだけです。
ましてや「アメリカが悪かった」とか「東京裁判は芝居だった」などと言うはずもありませんし、言っていません。
この部分の「治安=Security」を、外敵から国を守る「安全保障」の意味だと無理やり曲解してできたのが、マッカーサーが「日本の自衛戦争だと言った」というデマです。

このデマに尾鰭が付きまくって、アメリカが悪かったとか、東京裁判は間違っていたとか、挙句の果てには「マッカーサーが東京裁判で陳述した」という途方もないデマにまで成長しています。

アホ

ここまで来ると、もう何をかいわんや、です。
なんでマッカーサーが東京裁判に出廷すると思うんですかね。

よろしければご支援をいただけると助かります。