飛行機や兵器の「スペック」ってなんだろう

公称性能だけで兵器のことを語ったりする人を、よく「スペック厨」なんて言いますね。あと「カタログ・スペック」なんていう言葉も耳にする。
でも「スペック」ってなんだろうね。
カタログに書いてある数字?
それも間違いじゃないかもしれない。
でも「MILスペック」とか、あるよね。あれは?

ヘビーデューティを売り物にする民需製品に「MIL規格をクリア」とか「ミル・スペック準拠」なんて言葉が躍っている。
こういう製品で言っている「MIL規格」っていうのは「MIL-STD-810」という「環境試験」の規格のこと。でも、そのほかにも「MILスペック」っていっぱいある。
戦闘機なんかを近くで見ると「MIL-H-5606」とか「MIL-PRF-5606」とか書いてあったりする。これは油圧のための「作動油」のMILスペック。もともとは「MIL-H-5606」というスペック番号だったのが、その後「MIL-PRF-5606」という呼び方に変わったもの。

じゃあ、戦闘機そのものの「カタログ」や「スペック」というものはあるのだろうか?
今日はちょっと、実例も交えながら「スペック」の話を書きます。

兵器や航空機には仕様書がある

「スペック」というのは、英語のspecificationだから、日本語では「仕様」あるいは「仕様書」と訳されるのが普通だ。
普通「仕様」というのは、品物を製造したり売買したりするときに、その品物が満たすべき条件を記すもの。だから広義に捉えればカタログも一種の「仕様書」だと言える。カタログに書かれている性能が出なかったり、カタログに書かれている寸法と違う大きさの商品が納品されてきたら、それは契約違反だ。だから「カタログ・スペック」というのは必ずしも間違いじゃない。
でも、一般論として、兵器を買うのは国だ。軍隊というのは国家が独占するものなので、兵器は単純に「カタログ」で売買するものではない。国とメーカーの契約における「仕様書」が用意され、この仕様書のもとで調達される。それが兵器の「スペック」だ。

兵器の調達契約においては、契約書からその兵器の「仕様書」が呼び出されている。「本契約にかかる調達物品(兵器)の詳細は仕様書〇〇号による」などという具合になる。
この「仕様書」は「制式仕様書」とか「型式仕様書」などと呼ばれ、英語では"model specification"とかいう。あまり一般に公開されることはない。また、同じ型式の兵器であっても、契約年次によって型式仕様書の細部が変わったりする。 一般向けの書籍などでも、自衛隊機の仕様について「C-5契約以降の機体には○○を装備」などと書かれている。そういう装備品の違いなどは、型式仕様書に定められていると思ってよい。

また、軍の調達であっても、民需品をそのまま購入する場合は、一般のカタログにある製品番号や製品名を指定して発注することもある。この場合は「カタログ」そのものを契約上の「仕様」としているわけだ。

軍用機の型式仕様書にはなにが書かれているのか

では、「型式仕様書」と「カタログ」では、書かれていることが違うのだろうか。
軍用機の「型式仕様書」に書かれる内容は、一般民需品の「カタログ」よりも、ずっと広範で詳細にわたっている。
公開されている「型式仕様書」の例として、NASAで飛行試験を行った「ライアンXV-5」というVTOL実験機のものが公開されていた。
実用の量産機ではなく実験機なので、一般的な型式仕様書(model spec)とは趣の違う部分もあるけれど、型式仕様書のイメージを掴むには良い例だと思う。
下のリンクからPDFがダウンロードできる。約90ページで5MB。

Ryan XV-5 Detail Specification

中を見るとわかるけど、三面図や艤装配置図、寸法や性能諸元のほかに、たくさんのMILスペックなども並んでいる。これは、このXV-5という航空機が、どんなスペックに従って設計・製造されているか、ということを示している。だから、ここに書かれているスペックは、設計や製造に関わる「仕様書」だ。
つまり、兵器や航空機の「仕様書=スペック」には、その設計や製造工程の基準となった「仕様書=スペック」も書かれている。
また、搭載する装備品についても、なにをいくつ装備するのかなど、細かく網羅されている。
このXV-5は実験機なので、装備品については型式がほとんど明記されていないけれど、実用量産機の場合だと、型式名または部品番号などが指示される。

カタログミリオタによると

さて、悲しむべきはカタログミリオタである。

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一般の商品と異なり、兵器のカタログスペックはそのまま信用してはいけません。というのも、敵に性能を知られていないほうが有利に戦えるので数値を誤魔化すケースがよくあるからです。

「スペック」という言葉の意味を知っていれば、こんな阿呆なことは書けないわけです。
あと、こういうのもあります。

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機械の性能についての公的な主張

なんだこれ。

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