宮古島で起きた陸自UH-60の墜落事故について
エンジン故障
4月6日に宮古島付近で墜落した陸上自衛隊UH-60JAのデータレコーダーが回収されましたが、その記録音声がエンジン故障が起きたことを示しているとの報道がありました。
報じているのは読売新聞で、防衛省の発表ではなく、関係者からの情報のようです。
「エンジンが異常な音を立て、機体のトラブルを知らせる警報音」が鳴っており、「エンジンの出力が下がる中で、操縦席に並んで座る機長と副操縦士が高度を保とうと声を出し合」っていた、というので、こうした録音内容が事実なら、エンジン不具合を疑う余地はありません。
しかし、陸上自衛隊ではこの報道について、なぜか「回答を控える」としています。
自衛隊機の事故原因発表は、いつも「事実」ではなく「運用に与える影響」や「政治判断」を優先するので、今の段階でこれを認めるわけには行かないのでしょう。
きっと、読売新聞に情報を流した人を、血眼で探していると思います。
片エンジン故障のときはどうするか
UH-60JAはエンジンを2基積んでいるので、片方のエンジンが停まっても墜落はしませんし、もし両方のエンジンが停まっても、オートローテーションという滑空が可能です。
オートローテーションのことは、多くの人に知られるようになったと思います。
しかし、それなりの対応をしないと、生き残ることはできません。オートローテーションなどによって安全に着陸するためには、条件があるのです。
大雑把に言うと、操縦マニュアルに載っている「H-Vダイヤグラム」で網掛けになった領域が「オートローテーションできない」条件なので、この領域を避けるのです。
H-Vダイヤグラムは、通称「Dead Man's Curve」と言いますが、ヘリコプターのマニュアルには、ほぼ必ず載っています。片方のエンジンが故障したら、もう片方が壊れても大丈夫なように、Dead Man's Curve の外側で飛ぶようにします。
縦軸が地面からの高度(ft)、横軸が速度(kts)で、機体重量によって領域の広さが違います。機体が重ければ、より多くの高度や速度が必要です。
墜落機のパイロットはどうしたか
読売の報道では、以下のように書かれています。
パイロットは「対応する」と言っており、故障を認識しています。
さて、朝日新聞の報道では、宮古島の防犯カメラに、機影がレーダーから消える5分前と3分前の様子が写っていたそうです。
どちらの映像でも黒い煙を引いているように見えるので、これらはエンジン故障後に片発で飛行している様子ではないか、と思います。
もしそうだとすると、エンジン故障が発生してから少なくとも5分ほどは、事故機は片発で飛行していたことになります。
読売の報道では、エンジン故障を認識する会話の「直後」に「あっ」という声を最後に墜落したとあるのですが、この「直後」というのは、実は5分以上の時間があったのではないでしょうか。
映像では、飛行高度は高くないものの、300~500ft(100~150m)はあるように見えますし、速度もけっこう速く、43kts(80km/h)以下には見えません。
ですから、エンジン故障発生時の状況は不明であるものの、その後は Dead Man's Curve の外側、つまりオートローテーションでも降りられる高度と速度を維持していたと思います。
パイロットは、正しく対処していると思うのです。
なぜ墜落してしまったのか
それでも機体は墜落してしまいました。最後の「あっ」という声がなんなのか。頼っていた健全なエンジンに、なにかが起きたのかもしれません。
しかし、それならオートローテーションで不時着水を試みるはずで、もっと致命的な事態が起きたのではないかと思います。
引き揚げられる残骸の様子からは、大きな火災の跡などは見つけることができませんでしたが、何が起きたのかは、詳しく調査しないとわかりません。
いずれにせよ、片発故障の後でもパイロットは対処して飛行を継続したが、その後さらに致命的な事態が起きたということではないかと思います。
もしこの推定が当たっているとするなら、早く不時着していれば、ひょっとしたら、と思わないでもありませんが、そこまで望むのは酷な気がします。
パイロットも知ることができる情報は限られており、判断には様々な要因が影響します。
片発故障時の対処について、UH-60の操縦マニュアルには次のように書かれています。
飛行継続が不能であるならば:
3. 速やかに着陸せよ
飛行継続が可能であるならば:
4. 片発飛行速度を確立せよ
5. できるだけ早く着陸せよ
です。
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