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今週の全米アルバムチャート事情 #181- 2023/4/29付

いやあMLB熱いですねえ!レッドソックス吉田は月曜日にMLBの新人としては61年ぶりとなる1イニング2ホーマー、しかも2本目はグランドスラムという快挙達成。エンジェルスウォード、トラウト、大谷の3連続ホームランで快勝と今週のMLBは楽しい話題で始まって何より。今週ちょっと寒くなってますがこれから春本番に向けてスポーツも楽しみですね。

The "first chart" of Billboard 200 - Best Selling Pop Albums, March 24, 1956

と、言っていたら1950〜60年代にカリプソで一世を風靡し、日本では江利チエミもカバーした「バナナ・ボート・ソング」のヒットでシニア・ファンには懐かしいハリー・ベラフォンテの訃報が入って来ました。今年年男で享年96歳ですから大往生。80年代以降の洋楽ファンには、あの「We Are The World」の発起人の一人だった、というと親しみを感じてもらえるでしょうか。実は彼、このBillboard 200の前身となった最初のビルボード誌のアルバムチャート「Best Selling Pop Albums」が登場した1956年3月24日付のチャート(当時はトップ10のみのチャートでした)でアルバム『Belafonte』が1位だった、つまりこのアルバムチャートの初代ナンバーワンアーティストなんですね。敬意を表しつつ、心から哀悼の意を表させて頂きます。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

で、今週4月29日付のBillboard 200、全米アルバムチャートですが、いやいやこの状態はいつまで続くんでしょう(ため息)、って感じで今週もモーガン・ウォレンの『One Thing At A Time』がわずかポイント減1%(!)の166,000ポイント(うち実売12,000枚。何でも新しいヴァイナルのバージョンが出たらしいです)で今週も1位、とうとう7週連続1位となってしまいました

何でもここ10年で7週以上1位のアルバムを2枚マークしたのはこのモーガン野郎(もう1枚は2021年に10週1位で、いまだにトップ10に居座っているアルバム)とテイラー(2014〜15年に11週1位の『1989』と2020年に8週1位の『Folklore』)の二人だけみたいです。でもこの機会にここ10年と言わず、2000年以降で7週以上1位を取ったアルバムのランキングをご紹介しましょう(順位、1位の週数、タイトル、アーティスト、1位獲得のチャートデイト。*は継続中)。

1.(24週)21 ▲14 - Adele (2011/3/12-19, 4/2, 4/23, 5/7-6/4, 6/25, 8/6, 8/20, 11/5, 2012/1/14-3/17, 6/23)
2.(13週)Frozen ▲8 - Soundtrack (2014/1/18-25, 2/8-15, 3/8, 3/29-5/17)
2.(13週)Views ▲6 - Drake (2016/5/21-7/16, 7/30-8/13, 10/8)
2.(13週)Un Verano Sin Ti - Bad Bunny (2022/5/21, 6/18, 7/9-8/6, 8/20, 9/3, 9/17-24, 10/8-15)
5.(12週)Supernatural ▲15 - Santana (1999/10/30-11/13, 2000/1/22-2/5, 2/26-4/1)
6.(11週)Fearless ▲10 - Taylor Swift (2008/11/29, 12/27-2009/2/7, 2/28-3/14)
6.(11週)1989 ▲9 - Taylor Swift (2014/11/15-29, 12/13-20, 2015/1/13-24, 2/14-21)
8.(10週)25 ▲11 - Adele (2015/12/12-2016/1/23, 2/13, 3/5-12)
8.(10週)Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen (2021/1/23-3/27)
8.(10週)SOS ▲2 - SZA (2022/12/24-2023/2/4, 2/18-3/4)
11.(9週)Encanto ▲ - Soundtrack (2022/1/15, 1/29-3/19)
12.(8週)No Strings Attached ▲11 - ’N Sync (2000/4/8-5/27)
12.(8週)The Marshall Mathers LP ▲11 - Eminem (2000/6/10-7/29)
12.(8週)1 ▲11 - The Beatles (2000/12/2, 12/23-2001/2/3)
12.(8週)Weathered ▲6 - Creed (2001/12/8-2002/1/26)
12.(8週)Folklore ▲2 - Taylor Swift (2020/8/8-9/12, 10/3, 10/31)
17.(7週)Speakerboxxx/The Love Below ▲11 - OutKast (2003/10/11-18, 11/15, 2004/1/10-17, 1/31-2/7)
17.(7週)Recovery ▲8 - Eminem (2010/7/10-8/7, 8/28-9/4)
17.(7週)Red ▲7 - Taylor Swift (2012/11/10-24, 12/22-2013/1/12)
17.(7週*)One Thing At A Time - Morgan Wallen (2023/3/18-4/29*)

2000年以降、10週以上1位を記録したアルバムが10枚、うちアデルテイラーが2枚ずつ決めてます。7週以上1位はちょうどその倍の20枚ですが、顔ぶれを見ると既にキャリアピークを越えたメンツの中で、テイラーが4枚でぶっちぎり状態、やはり21世紀のポップ・スターといえばテイラー、というのを実証してますね。モーガン野郎もこの10週1位の前作と、今のアルバムが2枚入ってますが、もうこれ以上票を伸ばさなくていいよ、って感じです。

"72 Seasons" by Metallica

そしてそのモーガン野郎がほとんどポイントを減らさなかったのと、出せば必ず20万ポイントという往年のパワーが残念ながら発揮できなかったメタリカの『72 Seasons』は146,000ポイント(うち実売134,000枚で当然アルバム・セールス・チャートではぶっちぎりの1位)で2位初登場でした。29万ポイントを叩き出して6作連続1位を記録した前作の『Hardwired…To Self-Destruct』(2016年)から7年経過してコロナも通過していたのでパワーダウンが危惧されましたが、先行シングル「Lux Aeterna」(ラテン語で「永遠の光」)も昨年末からメインストリーム・ロック・トラック・チャートで11週連続1位と好調だったので今週はモーガン野郎撃墜が期待されたけどわずかに及ばず。残念。ちなみにUKでは余裕の1位初登場、彼ら通算4作目の全英ナンバーワンを決めてます。ハードロック系のアルバムとしては、2019年のトゥールFear Inoculum』の1位(27万ポイント)以来の高ポイントでの1位ですね(直近のハードロック系1位は2020年のAC/DCPower Up』)。

冒頭のタイトルナンバーも、シングルの「Lux Aeterna」をはじめ他の曲も、キャリアを積み重ねてもなおハイスピード・メタルな安定したソリッドな楽曲群は、メタリカ・ファンはもちろんのこと、ハードロック・ファンには「待ってました!」という感じの王道の内容になってますね。メインストリーム・メタル・ロックのお手本というか、教科書に使ってもいいようなそんな絵に描いたような内容で、バンドメンバーが「これまでで最高の部類に入るヤバい内容」とリリース前からティーズしていたのに恥じない内容になってます。来年のグラミー賞のハードロック部門は決まりやな。そして今週からはオランダのアムステルダムを皮切りに5都市のヨーロッパ・ツアー、その後8月にはニュージャージーを皮切りに全米8都市をツアーと、今年いっぱい欧米各地で彼らの熱いライブが展開される模様です。

"Cottonwood 2" by NLE Choppa

今週のトップ10内初登場はこのメタリカのみで、11位以下100位まででも初登場は3枚という今週は地味なBillboard 200です。その3枚のうち一番人気はトップ10来るかも、と言っていたメンフィス出身の今年二十歳の若手ラッパー、NLEチョッパの2作目『Cottonwood 2』が21位に初登場。デビューアルバム『Top Shotta』は10位とトップ10決めてただけに期待されてたけどまあ順当な順位かと。タイトルは彼が生まれ育ったメンフィスの地元のストリートの名前で、2019年リリースのEP『Cottonwood』(57位)の続編的位置付けのよう。

こちらも先行シングルの「Slut Me Out」が先週最高位28位を打って、彼に取って最大のHot 100ヒットになってるし、リリース日にインスト・バージョン、スピードアップ・バージョン、スロウダウン・バージョンなどいろんなビート違いリリースしたりとか、マーケティング工夫してるみたいですが、どちらかというとフロウやトラックのスタイルが渋めなのと(「Do It Again」はローズ・ロイスの「Love Don’t Live Here Anymore」サンプリングしててなかなか渋い)、ゲストもリル・ウェインポロG以外はややこちらも地味目なのがトップ10逃した理由だったかもね。ただのトラップ一辺倒ではないのと、若手の中では実力派だと思うので引き続き注目ですね。

"Intellectual Property" by Waterparks

続いて33位に初登場してきたのは、テキサスはヒューストン出身のポップ・ロック・トリオ、ウォーターパークスの5作目になる『Intellectual Property』。自分はあまり知らなかったんですが、もう10年くらい活動してて、今回のアルバムが4作目のチャートインになる(2019年の『Fandom』が最大のヒットで32位)中堅バンドみたいですね。

一通り聴いてみると、作風は今時の王道エレクトロ・ポップと、パニック・アット・ザ・ディスコ系のパワー・ポップ、そして時々メタルやエモ・パンクみたいな曲もあったりして、いかにも2000年代の音楽聴いて育った子達がバンドやってますって感じですが、ややバンドの方向性的にはとっちらかちゃってるような印象ですねえ。もう一皮むけると大きく化けるのかもしれませんが。

"Love Scars II" by Yung Bleu

そして今週最後の100位までの初登場は、ファーストアルバム『Moon Boy』(2021年12位)、セカンドアルバム『Tantra』(2022年99位)と毎回ジャケで月面作業服に身を包んで「ちょっと違うぞ」感満載だった(笑)アラバマ出身のラッパー兼シンガー、ヤング・ブルーの3作目『Love Scars II』が38位に入って来てます。今回は月面作業服は辞めて胸をはだけてます(爆)。あばら骨のように見えるのがタトゥーなのかレントゲン写真なのかは不明。

ファーストがドレイクのリミックスでHot 100ヒットとなった「You’re Mines Still」(2021年18位)でトップ20アルバムになったんだけど、次作がどっと順位を下げたので、前回「これがチャートイン最後になるかも」と言ってたんですがどっこい、今回もそつのないR&Bテイストのトラックと達者な歌と時折聞かせるラップで手堅い作品にまとめ上げてリバウンドしてきました。オープニングの「Casamigos Night」やタイ・ダラ・サインと掛け合う「Waterfalls」などでの彼の歌唱もなかなか味がある一方、遥かに華のあるクリス・ブラウンをフィーチャーした濃密なR&Bナンバー「Distant Lover」では歌はクリスに任せて自分はグルーヴたっぷりのラップに徹するという身の程を知ったパフォーマンスもなかなか好感持てるんですよねヤング・ブルー、なかなかいいと思うんだけどなあ。地力はあるんですが再度ブレイクするにはまたドレイクのようなカタリスト(触媒)が必要かもしれません。

"Lover" by Taylor Swift

ということで今週の100位までの初登場は3枚。久々のメタリカは流石の安定感満点の出来ですが、個人的にはヤング・ブルーの3作目が結構気に入りました。あと今週のトップ10で目に付くのは、テイラーの『Lover』(2019年1位)が2020年2月以来3年2ヶ月ぶりにトップ10に復帰して9位にチャートインしてること。これはテイラーが現在Erasツアーで全米を回っていることの影響ですね。ちょうどこのチャートの対象期間中はヒューストンのNRGスタジアムで4/21-23の3日連続のコンサートがあったので、ぐっとストリーミングが伸びたんだと思います。今週末はアトランタでまた3日連続ライブなので、今週14位で再上昇中の『Folklore』あたりもトップ10再登場してくるかもしれません。

あとそうそう、今週Hot 100の方ではSZAの「Kill Bill」が、最近ドロップされたドジャ・キャットをフィーチャーしたリミックスのお陰でモーガン野郎の「Last Night」を撃墜して1位を飾ったようです。早くアルバムチャートも何とかしてくれー。では今週トップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (7) One Thing At A Time - Morgan Wallen <166,000 pt/12,000枚>
*2 (-) (1) 72 Seasons - Metallica <146,000 pt/134,000枚>
*3 (4) (19) SOS ▲2 - SZA <66,000 pt/208枚*>
4 (3) (26) Midnights ▲2 - Taylor Swift <60,000 pt/13,000-枚>
*5 (6) (119) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <49,000 pt/1,462枚*>
6 (7) (4) Gettin’ Old - Luke Combs <43,000 pt/3,842枚*>
7 (9) (20) Heroes & Villains - Metro Boomin <37,000 pt/1,447枚*>
*8 (10) (50) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <36,000 pt/617枚*>
*9 (12) (191) Lover ▲3 - Taylor Swift <34,000 pt/617枚*>
10 (5) (3) Portals - Melanie Martinez <33,000 pt/13,000枚>

惜しくもメタリカの7作連続1位成らずの今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつものように来週の1位予想ですが、もうこうなるとモーガン野郎はなかなか15万ポイントを割り込んでこないと思うべきなんで、それを超える新譜が出ない限り彼の天下が続くことになるんですが、今週リリースでそれを打ち破る可能性があるのは、そう、ポスティことポスト・マローン初のベスト・アルバム!これはストリーミングも併せてかなり来るんじゃないでしょうか。新曲も1曲入ってるようだし、来週はポスティのモーガン野郎撃墜に期待しましょう。ではまた来週。


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