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今週の全米アルバムチャート事情 #197- 2023/8/19付

今週お盆の週の日本は台風7号(LAN)の接近で不安定な天気が続いてますが、逆にあの猛暑がちょっと和らいだという点ではプラスかもしれません。それでも台風が直撃する中部・関西地方の皆さんの安全と被害の最小化を祈るばかりです。被害といえば自分がハワイ出張中に発生したマウイ島の森林火災では、犠牲者の数が100名近くに及んでいるとのことで心が痛むばかりです。ラハイナの歴史的な街並みも大きな被害を受けている様子が痛々しい限り。たまたまハワイに居合わせたのも何かの縁と思い、ささやかながら寄付をさせて頂きました。いろんな災害が少しでも少なくなりますように、そして一日も早い復旧を祈るばかりです

Utopia" by Travis Scott

さて今週8月19日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが、やはり先週の予想通り目立った新譜のドロップがない中、今週もトラヴィス・スコットの『Utopia』が2週目の首位を維持しています。ただ、思ったよりポイント数の減衰が大きくて今週は7割減の147,000ポイント、うち実売は更に大きく減っていて85%減の37,000枚(それでも普通の週ならアルバム・セールス・チャート余裕で1位の枚数ですが)となっています。一番減衰が少なかったのはストリーミングで、こちらは55%減の110,000ポイント(1.46億回オンデマンドストリーミング相当)と下支え要因になっています。ただこの減り方だと来週3週目の首位維持は難しいかもしれません。

先週のこの記事で、今回のトラヴィスのアルバムは「これまで以上にミュージック・クリエイターとしてのトラヴィスの意気込みが感じられる内容になっている」とコメントしましたが、その意気込みが形になっているのが、幅広いジャンルからのサンプリングと、様々なミュージシャン達との共演。前作でもスティーヴィー・ワンダーがハーモニカで、ジョン・メイヤーがギターとプロデュースで、そしてテイム・インパラがプロデュースでと、普通のヒップホップ系作品ではなかなか見かけないコラボが印象的でしたが、今回特に目立っているのがジェームス・ブレイクの参加とプロデュース。アルバムラストの「Til Further Notice」で21サヴェージと共にフィーチャーされて、メトロ・ブーミンと共同プロデュースしている他、「Lost Forever」でもプロデュースに参加して、このアルバムに、彼独得の世界観を注入していてただのヒップホップ作品を超えたアンビエントな感じを作り出してるのが印象的。そしてもう一つ、ビヨンセとの共演「Delresto (Echoes)」では、最近ナズとの仕事で絶好調のヒットボーイを共同プロデュースに迎えて、覚醒したビートにビヨンセのボーカルとトラヴィスのラップが絡みつくように展開する、とてもスリリングな世界観を作り出してます。それ以外では、ダフト・パンクの片割れ、ガイ・マニュエルを共作とプロデュースに迎えた「Modern Jam」なんかもまた違ったスタイルのビートを提示してるのも面白いですね。この新作、まだまだ聴き込むほどにいろんな発見がありそうです。

"The Diamond Collection" by Post Malone

そして今週のトップ10内初登場は、わずか3週前の7月29日付に続いてゼロ。その前が今年1月28日付チャートでしたから、いつになく短期間でトップ10初登場なしが続いたことになります。チャートの方もやや夏バテ、ということでしょうか。一方圏外11位から100位には今週6作が初登場と久々の賑わいです。そのトップを切って16位に初登場してるのが、ポスティのベスト盤『The Diamond Collection』。ええ?このベスト盤、リリースされたの4月で、その時のこの記事でモーガン野郎を叩き落して1位かも、といいながら200位にも入ってなかったんですよ。それが何で今更このタイミングでこんなところにしかも初登場、どういうこと?

と、思ったんですが、実は7/21に、最初のバージョンには収録されてなかった前作『Twelve Carat Toothache』(2022)からのシングルで、あのドジャとのデュエット「I Like You (A Happier Song)」とザ・ウィークンドとの「One Right Now」他9曲を追加したデラックス・バージョンをリリースしてたみたいなんです。そこへ来て今回の『Austin』のリリースで多分過去のポスティの曲がストリーミングされまくった結果、ポイントが積み上がってここに初登場した、というのが今回の真相なんでしょうね。依然フィジカルは出てないみたいなので、このアルバムもザ・ウィークンドの『The Highlights』みたいに今後ポスティの過去作のストリーミングが増えるとチャートを上下するんでしょうか。

"Kill My Doubt (EP)" by ITZY

続いて23位に登場したのが、今週も盛り上がってますKポップ!ということで5人組ガールズグループのイッチ(ITZY)の7枚目のEP『Kill My Doubt (EP)』。彼女たちにとっては5枚目の全米チャートイン、昨年11月に25位にチャートインした『Cheshire (EP)』以来のチャートインになります。今回も6曲入りEPでストリーミングでは稼げてないでしょうから、もっぱらKポップ常套マーケティングの複数種類のCDパッケージで売上を稼いでるものと思われます。確認できてるのは4種類ですが、封入物がすごくて、72ページのフォトブック、リリックポスター、メッセージフォトカード(10種類のうちランダム2種が封入)、CDR、キャラクターカードセット、キーホルダー(5種類のうちランダム1種封入)という、もうこれはCDパッケージのレベルを超えてますねえ

内容的には、5人全員がラップできるというのが売りのイッチなので、ポップに片足置きながら、エッジの立ったヒップホップ系トラックが従来多かったんですが、先行シングルの「Cake」やオープニングの「Bet On Me」とかを聴くと今回はかなりポップに寄せてるような楽曲が多いようです。彼女たちもここ何作かこれくらいのチャート順位が続いているので、次のアルバムかEPでは勝負をかけてきて、トップ10入りもあるかもしれません。

"Mammoth II" by Mammoth WVH

そのちょっと下の28位には、故エディ・ヴァン・ヘイレンの息子のウルフギャング君ことマンモスWVHのセカンド・アルバム『Mammoth II』が初登場してます。2021年にデビューアルバム『Mammoth WVH』をいきなり12位に叩き込んで話題を呼んだウルフ君、今回はそのファースト・セッションでアルバムに入らなかった曲に新曲を足して全10曲、前回同様ヴァンヘイレンというよりは中期フーファイロイヤル・ブラッドのスタイルに近い、正統派でヘヴィーなハードロック・アルバムに仕上げてます。

MVも前作同様、ウルフ君が一人数役のバンドMVでなかなかニヤリとさせますね。ただ、ウルフ君の性格なのか、全体の手堅いアルバム作りや、あまりメディアに登場してこないためかバンドとしての存在感がやや希薄な感じもあり、ここからまた一つ突き抜けていくには何らかのプラスアルファが必要な気もしますね。ライブとかで観るとかなり盛り上がるバンドだとは思いますが。

"El Comienzo" by Grupo Frontera

一方、ガラリと趣きの異なるリージョナル・メキシカンのバンド、グルーポ・フロンテラのデビュー・アルバムになる『El Comienzo』(始まり、という意味)が33位というかなり高い位置にチャートインしています。ここ1〜2年のリージョナル・メキシカン勢の躍進に乗って、全米メインストリームに登場したグルーポ・フロンテラは、アコーディオンの音色もノスタルジックな「No Se Va」(Hot 100最高位57位)でナショナル・チャートに初登場、今年に入ってバッド・バニーをフィーチャーした、こちらはアコギの音色がノスタルジックなゆったりとしたナンバー「Un x100to」がHot 100で5位に昇る大ヒットとなって、エスラボン・アルマドペソ・プルーマらと並んで一躍リージョナル・メキシカンのブレイクの代表選手となってる、テキサス出身のバンドです。

同じリージョナル・メキシカンと言っても、エスラボン・アルマドペソ・プルーマのやってる音楽スタイルがコリドというストーリーテリング性の高い、アコーディオンなどを多用したフォークっぽいスタイルなのに対し、このグルーポ・フロンテラのスタイルはクンビアという、よりメキシコ土着性の高い音楽スタイルということになってるようですが、正直聴いてもその違いはあまりよく判りませんわ(笑)。ただいきなりデビューアルバムでこの順位に入ってくる、ということは彼らのこのノスタルジックでスローテンポのメキシカン音楽が、他の2組と共にしばらく全米チャートの上位を占めることになるんでしょうね。

"I Showed U So" by Yo Gotti & DJ Drama

さて先週トップ10に来るのでは、と言っていたメンフィス・ラップの顔役、ヨー・ゴティDJドラマのコラボ・アルバム『I Showed U So』は思いの外振るわず39位初登場となってます。この人、ソロアルバムはここのところコンスタントにトップ10決めてるんですが。そしてDJコラボ・アルバムの常として、各曲の要所要所でDJドラマが「DJドラマ!」と叫ぶというまことに鬱陶しいアルバム構成です(笑)。

自分のレーベルの舎弟、マネーバッグ・ヨーをフィーチャーした曲が2曲、アトランタのラッパー、リッチ・ホーミー・クアンをフィーチャーした曲が2曲ある他はヨー・ゴティDJドラマがちょっと薄めのトラップ・ビートをベースにギャングスタでストリートなラップをひたすら展開するという、正直自分的には今もっともどうでもいいスタイルの作品ですねえ。

"Sweet" by Tomorrow X Together

そして100位までの今週最後の初登場は、54位に入って来た、またまた炸裂Kポップ!ということでトゥモローXトゥゲザー(TXT)の4作目のアルバム『Sweet』。え?TXTだったらアルバム出したらトップ10確実じゃないの?それにそもそもこのアルバム、先週時点でリリーススケジュールに入ってなかったけど?と思ってたらこちら、どうも日本向けの日本語メインのアルバムで、日テレのドラマ『最高の生徒〜余命1年のラストダンス〜』(どーいうドラマなんだか、地上波を殆ど観ない自分は知りません)の主題歌「紫陽花のような恋(Hydrangea Love)」収録で、日本では初週30万枚を売ってオリコンでも1位になったらしい。ということはUSリリースないのにストリーミングだけでこの順位に入ってきたということか。それはそれで凄いことかもしれないな。(掲載後追記:今週のアルバム・セールス・チャートでも7位に初登場していることが判明、ということはUSでもCDが流通したのか、それともデジタルダウンロードのみなのか。ううむ真相が知りたい)

その「紫陽花のような恋」は、いかにもTVドラマ主題歌っぽい、全編日本語のバラード曲。こりゃあJポップ好きなアメリカ人も聴くだろうなあ。それまでの硬派でダークなイメージで個性を出していたTXTが、同じ事務所のBTSの活動休止と入れ替わるように、よりポップ・ディスコ路線に寄せたアルバム『The Name Chapter: TEMPTATION』で今年2月に全米ナンバーワンを記録して、今回日本向けに満を持して地歩固めにリリースした、こういうポップな楽曲を収録したアルバムが、全米でもスピルオーバー的にチャートインするというこの現象。Kポップの勢いが新しい段階に来ているのかもしれませんね。

Taylor Swift's Eras Tour

さて、以上今週の初登場は圏外のみ6枚。一方初登場のないトップ10で一人気を吐いているのが、今やErasツアーが最高潮のテイラー過去作が軒並みポイントを増やして上昇しています。SNS等でもいろんな有名人がこぞってテイラーのライヴを観に行ってる様子が伝えられていて、テイラー人気は当分続きそう。加えて次の再録プロジェクトは『1989』に決定して、10月にはリリースされるようなので、その頃もまたどっとテイラー人気がチャート上で盛り上がりそうですね。自分は残念ながら来年2月の日本公演のチケットが2回連続抽選で外れてしまいました。うーん。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) Utopia - Travis Scott <147,000 pt/37,000枚>
2 (3) (23) One Thing At A Time - Morgan Wallen <92,000 pt/3,206枚*>
3 (4) (3) Barbie: The Album - Soundtrack <74,000 pt/11,735枚*>
4 (5) (5) Speak Now (Taylor’s Version) - Taylor Swift <60,000 pt/18,364枚*>
*5 (8) (42) Midnights ▲2 - Taylor Swift <56,000 pt/9,465枚*>
*6 (10) (207) Lover ▲3 - Taylor Swift <51,000 pt/8,697枚*>
7 (2) (2) Austin - Post Malone <50,000 pt/6,798枚*>
8 (7) (7) Génesis - Peso Pluma <47,000 pt/122枚*>
*9 (12) (159) Folklore ▲2 - Taylor Swift <47,000 pt/10,024枚*>
10 (9) (135) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <43,000 pt/744枚*>

トラヴィスががっちり首位をキープ、トップ10内ではテイラーの躍進が目立った今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後に恒例の来週1位の予想(チャート集計対象期間:8/11-17)ですが、冒頭にも述べたように、トラヴィスの3週目はおそらく10万ポイント前後までに落ち込んでくると思うので、10万ポイントを叩き出せる新譜があれば首位交代の可能性大ですが、可能性あるのはラッパーのトリッピー・レッドくらいでしょうか。ではまた来週。


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