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今週の全米アルバムチャート事情 #83- 2021/6/12付

今週の話題は何といっても19歳の笹生優花選手がプレイオフで畑岡奈沙選手を下して史上最年少で全米女子オープンゴルフ選手権に優勝したこと。いや凄いなあ!USメジャーで日本人プレイヤー同士のプレイオフというのも凄いけど、それを制したのは年下の笹生選手というのも凄い。この間の松山のマスターズ優勝といい、今年はゴルフが面白くてコロナ・ブルーも吹っ飛ばす勢いですね。

さて今週もお届けするこの記事、今週から連動ポッドキャストのタイトルに合わせて従来の「全米No.1アルバム事情」から「全米アルバムチャート事情」に変更してます。最近はカバーする内容も1位だけでなく、トップ10初登場アルバムや圏外初登場アルバムなども解説しているのでこの方がいいかなと思いまして。ということで今週も後ほどポッドキャストを配信予定ですが、それまでは上記のリンクでこれまでの配信分をお楽しみ下さい(配信次第リンクをアップデイトします)。

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ということで今週末6/12付のBillboard 200アルバム・チャートの1位ですが、先週の予想では「来週もオリヴィアかも〜」と脳天気なこと言っててすみません。今週の重要なリリース、そう、テイラーの『Evermore』のヴァイナル・リリースのことをすっかり忘れてました(自分も注文してるのに)。で、集計期間初日の5/28にリリースされた『Evermore』のヴァイナル、今回凄いことになっていてこの一週間でのヴァイナルだけの売上が102,000枚と、1991年にアルバム売上数がMRCデータ社(元ニールセン・サウンドスキャン社)の提供データを使い出してからの一週間のヴァイナル売上記録である、ジャック・ホワイトの『Lazzaretto』(2014)の4万枚の2.5倍以上というぶっちぎりの記録を樹立しちゃってます。この結果、『Evermore』は202,000ポイント(実売192,000枚)とダントツのポイント数で前週の74位から一気に今週1位に復活してます(今年1月以来の1位)。そしてこの192,000枚実売というのは、もちろん2021年最高売上記録で、去年8月のテイラー自身の『Folklore』リリース初週の615,000枚(この売上も凄いけど)以来の記録でした。いや凄いわ。凄いつながりで詞の内容もPVもクライム・ドラマ風の「No Body, No Crime」の動画をどうぞ。

これで通算4週目の1位を記録した『Evermore』ですが、これでテイラーのアルバムチャート1位合計週数が53週となって、ガース・ブルックスの52週を抜いて歴代3位に。これは1位ビートルズ(132週)、2位エルヴィス・プレスリー(67週)に次ぐ記録ですが、この後テイラーがおそらく1位アルバムを出し続ける(自分の再録盤も含めて)可能性大なことを考えるとエルヴィスの記録を抜くのも時間の問題、という感じですねえ。そしてこの74位→1位というジャンプ記録も歴代8位の記録。ちょっとこの記録のトップ10、いい機会ですからおさらいしてみましょう。

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1. (176位→1位)Life After Death ▲11 - The Notorious B.I.G. (1997/4/12)
2. (173位→1位)Vitalogy - Pearl Jam ▲5 (1994/12/24)
3. (156位→1位)In Rainbows ● - Radiohead (2008/1/19)
4. (137位→1位)Ghetto D ▲3 - Master P (1997/9/20)
5. (122位→1位)More Of The Monkees ▲5 - The Monkees (1967/2/11)
6. (112位→1位)MP Da Last Don ▲4 - Master P (1998/6/20)
7. (98位→1位)Beatles ’65 ▲3 - The Beatles (1965/1/9)
8. (74位→1位)Evermore - Taylor Swift (2021/6/912)
9. (61位→1位)Help! ▲3 - The Beatles (1965/9/11)
10. (60位→1位)Rubber Soul ▲6 - The Beatles (1966/1/8)

なかなか凄いランキングですねえこれもビートルズがトップ10に3枚入れているのは納得としても、何とあのマスターPがしかも上位に2枚も入れてるのは何だかなあ(笑)という感じですがね。1位のビギーは本来1位初登場だったんですが、一部の小売が発売日前にリリースしてしまった(Street Date Violation、と言います)ために前の週に176位に初登場「しちゃってた」が故のジャンプアップ。2位のパール・ジャムは、エディ・ヴェダーが中小のレコード小売店を守りたいということで彼らだけに初週のリリースを許して、2週目以降大手チェーンやECサイトにリリースしたことによるジャンプアップでした。

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ということで今週は『Evermore』だけでご飯が3杯おかわりできるくらいの話題満載のチャートになりましたが、『Evermore』ほどではないにせよ、2曲のボートラを追加したリリース3周年記念バージョンの再発で先週30位→7位に復活してきたのが、故ジュースWRLDの『Goodbye & Good Riddance』(32,000ポイント)。追加されたボートラのうちの1曲が、大ヒット曲「Lucid Dreams」(2018年2位)のリル・ウジ・ヴァートをフィーチャーしたリミックス・バージョンということですから、これはまあヒップホップ・ファンに取っては大変おいしいリリースなわけでして

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そして同じ故人のリリースという意味ではつい最近他界したばかりのDMXの遺作『Exodus』が32,000ポイント(実売14,000枚)で8位に初登場してきています。これねえ、自分的には1位に来てもおかしくないと思ってたんですよ。もちろんテイラーにはどっちみち勝てなかったのかもしれないですが、何といっても2000年代にアルバム5枚を連続初登場1位にした、当時としてはラップ・アイコンだったわけだし

そして今回の遺作の内容が超豪華なゲスト陣満載だっていうのも、当然売れて然るべきと思った原因で、フィーチャーされているメンツを並べるとジェイZ、ナズ、リル・ウェイン、スヌープといった大物ラッパー達を始め、R&B界からはアッシャー、アリシア・キーズ、そして何とあのU2ボノまで参加しているこのデラックス盤、もう少し上に来てもおかしくないと思うんですがねえ。ちょうど他界するちょっと前からスヌープのLAのスタジオで制作を始めて、アリシアの旦那のスイズ・ビーツをメイン・プロデューサーに迎えて作られたというこのアルバム、若いヒップホップファンにはDMX、イマイチピンと来なかったのかもしれませんが、彼へのセンドオフとして是非広い年代のヒップホップ・ファンに聴かれて欲しいですね。

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さて、今週もトップ10圏外に目を向けると、先週の大賑わいとはうって変わって100位までの初登場は何とわずか1枚。55位にアトランタ出身の7人組、ブラックベリー・スモークの7作目『You Hear Georgia』が初登場しているだけです。5年前リリースした、今は亡きグレッグ・オールマンをフィーチャーしたアルバム『Like An Arrow』がBillboard 200で12位というキャリア最高位をマークして一躍オールド・スクールなカントリー/サザン・ロック・ファン達の注目を集めた彼ら、今回はジェイソン・イズベルクリス・ステイプルトン、ライヴァル・サンズらを手掛けてきているアメリカーナ・ロックの重要サウンドメイカー、デイヴ・コッブをプロデューサーに迎えて、彼らのベストなスタイル、レーナードオールマンの系譜を継承するようなスライド・ギターの音色も心地よい、骨太ながら適度にレイドバックしててかつ曲によってはノリのいいサウンドを展開してます。

こういうバンドが今でも単なる古いサウンドのコピーではなく、新しいアプローチでしっかりと古くからのサウンドを消化して脈々と伝えてくれていることに、アメリカ音楽の良心を感じますね。今回はちょっと地味目のチャートアクションですが、これまでも90年代にパール・ジャムをブレイクさせたブレンダン・オブライエンなどと組んだこともある彼らのこと、今後もソリッドな作品を届けてくれることを期待しましょう。ということで今週のBillboard 200でした。いつものようにトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (74) (25) Evermore - Taylor Swift
2 (1) (2) Sour - Olivia Rodrigo
3 (2) (3) The Off-Season - J. Cole
4 (4) (21) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
5 (5) (6) A Gangsta’s Pain - Moneybagg Yo
6 (7) (61) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
*7 (30) (159) Goodbye & Good Riddance ▲ - Juice WRLD
*8 (-) (1) Exodus - DMX
*9 (12) (59) After Hours ▲2 - The Weeknd
10 (11) (82) What You See Is What You Get ▲2 - Luke Combs

では最後に来週の1位予想。対象集計期間は今週の木曜日までの6/4-10で、この期間にはアリシア・キーズの『Songs In A Minor』の20周年記念盤がリリースされてる他、インディー系のジャパニーズ・ブレックファーストパウフー、リズ・フェアの11年ぶりの新作など興味深いリリースがいろいろあるんですが、チャート的に1位来そうなのは、リル・ダークリル・ベイビーのコラボ盤。ヒップホップのエスタブリッシュされたアーティストであれば初週10〜15万ポイントくらいは積み上げて来ると思うし、人気のラッパーのコラボ盤であれば20万くらいは行く気がしてて、一方今週1位のテイラーはそのポイントのほとんどが実売で来週は半分近くにダウンするだろうことと、今週37%ポイント減で2位に落ちたオリビアが今週186,000ポイントで、来週も10-20%は落ちると思うので、リル・ダーク&リル・ベイビー、18万ポイント上げられれば1位行ける計算ですね。ということでまた来週。


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