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今週の全米No.1アルバム事情 #65 - 2021/2/6付

毎週のBillboard 200(総合アルバムチャート)のトップ10を1位と初登場アルバムにフォーカスして解説するこの記事、今週末の1位も先週同様、ポイント減をわずか18%に抑えたモーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』(130,000ポイント、実売12,000枚)で堂々3週連続の1位をキープ、とお伝えする予定だったのですが、何と日本時間の今朝一番でそのモーガン・ウォレンについて驚くような展開があったことがネットで伝わってきました。ことの起こりはUS時間の昨夜、エンタメニュースサイト大手のTMZに、この週末友人たちとのパーティの帰りにモーガンが友人の一人に「Ni***」という一般的に白人が使う場合は黒人蔑視と見做される言葉を使った様子を捉えた動画がアップされたこと。

これはこれで非難されるべきことではあるのですが、驚いたのはその後の数々のメディアやカントリー関連団体の反応の早さと厳しさでした。具体的には下記のような状況です(上記のビルボード誌の報道による)

* 全米のAMFM局やネットラジオの業界トップ3を占める、アイ・ハート・メディア、エンターコム、キュミュラス・メディアが直ちに全てのプレイリストからモーガンの作品を削除。その他のラジオ局を運営するメディア会社も次々にこれに追従(ただし南部ベースのファースト・メディア・サービス社はこれに追従しない、としています)。
* モーガンが契約しているレーベル、ビッグ・ラウドが「モーガンとの契約を無期限で停止する」と発表。
* カントリーミュージックチャンネル大手のCMTは、モーガンの動画をネット上からすべて無期限に削除することを発表。
* ACM(カントリ−・ミュージック・アカデミー協会)は2021年のACMアウォード(現在ノミネートの一次投票中)からモーガンを資格対象外とすることを発表。
* もう一つのアウォード主宰団体であるCMA(カントリー・ミュージック協会)はそのサイトからモーガンの全ての楽曲・動画を削除すると発表。それ以上の対応についても現在協議中とのこと。
* 黒人女性カントリーシンガーのミッキー・ガイトンをはじめ、マレン・モリス、ケルシー・バレリーニといった女性を中心としたカントリー・アーティスト達が非難のツイッターをポスト。

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問題のビデオを自分も見ましたが、問題の言葉は恐らくパーティ帰りで酔っ払った状況で発せられていて、悪意や攻撃的な感じはしませんが、当のアフリカン・アメリカン・カルチャーのスタイルの一つとして使うのと違って、モーガンがその言葉を使ったのは正直感心しませんし、不適切だったと思います。ただねえ。バイデン新政権スタート以降の社会的状況も影響してるとは思いますが、この急かつ厳しいシーンの反応はやや度を超している気もしないでもなく、皆さんはどう思われますか。ネット上の反応も、7割が非難、3割はモーガンを支持、と微妙に別れているようです。いずれにしても近年一気にスターダムにのし上がった彼のキャリアはこれでかなりシリアスなダメージを受けるでしょうし、シングルも含めて次の作品をリリースすることすら当分は難しくなるでしょうね。

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さあ、ぐっと気を取り直して、今週のトップ10も初登場は僅か一枚で、プエルトリコのラッパー・シンガーのアニュエルAAとレガトン・シンガーのオスーナのデュエット・アルバム『Los Dioses』が29,000ポイント(実売6,000枚)で10位ギリギリに初登場。いわゆる「ラテン・トラップ」の代表選手ということで、アニュエルAAの方はラッパーの6ックス9インとのデュエットヒット「BEBE」(2018年30位)でHot 100に初登場、以降バッド・バニーキャロルGなどのラテン軍団とのコラボでコンスタントに小ヒットを放ってます。オスーナの方は、同じく2018年11位まで昇ったDJスネイクの「Taki Taki」にセリーナ・ゴメスカーディBと共にフィーチャーされたのがHot 100でのこれまでの最高順位。いずれにしても近年のラテン・アーティスト達のメインストリーム進出ムーヴメントの主要プレイヤー達ですね。

典型的なレガトン・トラップ・スタイルのキャッチーなシングル「Antes」が既にラテン・チャートでは初登場5位Hot 100にもエントリーしてきていますが、多分来週あたりは現在1位のバッド・バニー&ジャイ・コルテスの「Dakiti」を蹴落としてラテン・チャート1位を決めるでしょう。トップ10アルバムとしては二人ともこれが2枚目で、アニュエルAAは昨年6月の『Emmanuel』(8位)以来、オスーナは2018年9月の『Aura』(7位)以来でした。

さてトップ10のおさらいですが今週も圏外を含めて動きは少なくなっています。僅かに圏外50位にリル・スカイズの『Unbothered』が初登場しているのが目を引く程度です(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

1 (1) (3) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
2 (2) (30) Shoot For The Stars, Aim For The Moon - Pop Smoke
3 (4) (7) Evermore - Taylor Swift
*4 (8) (45) After Hours - The Weeknd
5 (6) (6) The Voice - Lil Durk
6 (9) (29) Legends Never Die - Juice WRLD
7 (5) (13) Positions - Ariana Grande
8 (10) (64) What You See Is What You Get ▲ - Luke Combs
9 (11) (48) My Turn ▲2 - Lil Baby
*10 (-) (1) Los Dioses - Anuel AA & Ozuna

さて来週の1位予想ですがこれが難しい。集計対象期間は1/29〜2/4で、モーガン・ウォレンのポイントはそのほとんどがラジオやストリーミングですから、そこからの削除の影響は最後の一日半とはいえ、ポイントの大幅減は避けられないでしょうから来週の1位陥落の可能性は充分にあります。一方で今週2位のポップ・スモークのポイントが45,000ポイントと彼我の差はまだかなり大きく、期間中リリースされる作品でインパクトありそうなのは、今週5位のリル・ダークのデラックス・バージョンくらいで、こいつが5位→1位に来るか、というくらいでしょうか。モーガンのアルバムは来週まで辛うじて1位に残って、その次は圏外に消える、という可能性もありますね。ではまた来週。

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