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今週の全米アルバムチャート事情 #195- 2023/8/5付

今年も好天に恵まれて夢のようだったフジロックの4日間から帰ってきて現実に戻っております。4日間山野を駆け巡ったので今は体の披露と筋肉のハリを和らげるべく、ひたすら体調の調整中。一方、そのフジロックで観てきたライブのレポートは、現在Facebookで順次アップ中ですが、落ち着いたらまとめて加筆したバージョンをここnote.comに掲載しようと思ってますので乞うご期待。一方暑い毎日が続きますが皆さん体調管理にはくれぐれもご留意下さい。

"2nd EP 'Get Up'" by NewJeans

さて今週8月5日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位に初登場してきたのは、何とビックリ!Kポップの5人組ガールグループ、ニュージーンズの初チャートインにして初(当たり前か)ナンバーワン・アルバムとなった6曲入りEP『2nd EP ‘Get Up’』。先週の予想で、これが10万枚くらい動かすとトップ争いに絡むかも、と言ってたのだけど、その通り101,500枚の実売(その99%はCD売上)で126,500ポイントを稼いで堂々の1位を決めています。Kポップのガールグループとしては、昨年9月ブラックピンクの『Born Pink』に続く1位。純粋にガールオンリーグループの1位としては、2000年以降ではこれがわずか8枚目の1位になります。ちょっと2000年以降のガールオンリーグループ1位のアルバムのリストを見てみましょう。

1. Survivor - Destiny’s Child (2 weeks, 2001/5/19-26)
2. Home - Dixie Chicks (4 weeks, 2002/9/14-28 & 2003/2/15)
3. #1’s - Destiny’s Child (1 week, 2005/11/12)
4. Taking The Long Way - Dixie Chicks (2 weeks, 2006/6/10-17)
5. Danity Kane - Danity Kane (1 week, 2006/9/9)
6. Welcome To The Dollhouse - Danity Kane (1 week, 2008/4/5)
7. Born Pink - Blackpink (1 week, 2022/10/1)
8. 2nd EP ‘Get Up’ - NewJeans (1 week*, 2023/8/5)

何とまあきれいに2作ずつ並んだデスチャ、ディキシー・チックス(現在名ザ・チックス)、そしてダニティ・ケイン(覚えてますか?)。今回のニュージーンズは昨年のブラックピンクと併せてKポップ勢2作ということでまるで何かの法則のように並んでいます。それでもガールグループの1位って、昨年ブラックピンクが出るまで14年もなかったんですね。いろいろ発見があります。

ニュージーンズは既にHot 100の方では今年1月に初チャートインの「Ditto」(最高位82位)「OMG」(74位)そして今週はこのEPからの「Super Shy」(今週48位上昇中)を含めもう2曲が初登場と、アルバムよりもシングル先行で実績を作ってきていて、着実にチャート順位も上げてきています。サウンド的には90年代後半から2000年代にかけてのR&Bポップベースのスタイルで、さほど耳新しいところはないのですが、ブラックピンクとかと違って隣の○○チャン的な親しみやすいメンバーキャラが受けてるようですね。そしてこのジャケ!何と2000年代初頭に全米で大人気だったあの『パワーパフ・ガールズ』じゃあないですか。当時NY駐在だった自分の娘達も大好きだったこのキャラをジャケに使ってくるあたり、制作スタッフのポップカルチャーセンスも結構高いと見ました。再来週にはサマソニにも登場するニュージーンズ、日本でも人気ますます上がりそうですね。そしてもう一つ。このEP、トータルタイムが6曲で12分13秒という短さ!何せ3分以上の曲がないんですから。これってナンバーワンアルバムの記録かも。今度調べておきます。

"Barbie: The Album" Soundtrack

そしてそのニュージーンズにわずか500ポイントの差で2位に後塵を拝したのが、映画『バービーズ』のオールスター・ラインアップのサントラ盤『Barbie: The Album』(126,000ポイントは普通なら余裕で1位のレベル、うち実売53,000枚)。そう、グレタ・ガーウィッグ監督の今欧米で話題のあのバービーの実写版映画で、日本では8/11公開予定、主演のメインのバービーマーゴット・ロビー、そしてケンをあの『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴスリングが演じてます。ちょうどアメリカではあのクリストファー・ノーラン監督の反核映画『Oppenheimer』と同じ週公開で共に批評家の評価も一般の人気も高い、「バーベンハイマー現象」と言われてるのを聴き及びの方も多いでしょう。一方、これを利用してバービーがキノコ雲の髪型をさせた、明らかに原爆被害のことを何も考えずに作ったインターネットミームが出回って、「無神経ではないか」との批判を浴びる事件も起きています。確かに無神経に過ぎると思いますが、残念ながら詳細の情報と当時の映像を見たことのない一般的なアメリカ人の感覚なんてそんなものなんでしょう。一度広島の原爆記念館を訪れてほしいものですね。そんな中でのこのサントラ盤リリース、とにかくメンツがコンテンポラリーで豪華です。

映画にも「マーメイド・バービー」として出演してる、シングルカットもされてるデュア・リパの「Dance The Night」を始め、ビリー・アイリッシュ、リゾ、チャーリーXCX、ピンクパンサレス、テーム・インパラ、キッドLAROI、カリード、ニッキー・ミナージ&アイス・スパイス、ハイムなどなど、今のポップ・シーンを代表する連中の曲がずらり。こういうサントラ盤って、90年代後半から2000年代頃はいっぱい出てたんですが、最近はあまりなかったですよね。既にニッキーアイス・スパイスの「Barbie World」は7位、デュア・リパは12位、ビリー・アイリッシュWhat Was I Made For?」は18位とトップ40に3曲を送りこんでます。個人的にはケイト・マッキノンウィル・ファレルなど、『サタデイナイト・ライヴ』出身のメンツも出てる『バービー』も気になりますが、やはり実力派俳優が脇を固めるクリストファー・ノーラン監督の『Oppenheimer』観たいですね。気鋭の監督が原爆開発者の苦悩と反核をどのように描いてるのかが興味あります。

"Starcatcher" by Greta Van Fleet

今週のトップ10の初登場、もう一枚は2018年デビューした時はツェッペリンの再来か!と言われた兄弟バンド、グレタ・ヴァン・フリートの3作目『Starcatcher』が8位に初登場(45,500ポイント、うち実売41,000枚)。今週UKチャートでも同じ8位に初登場してます。いやあ彼らが登場した時はホントに興奮しましたねえ。2019年の新木場Studio Coastのライブも行きましたよ。何と言ってもボーカルのジョシュア君ロバート・プラントの若き頃よりもさらにテンション高い歌声には痺れたもんです。そして今回のこの作品でも、彼のボーカルは間違いなく半端なく存在感満点。

ただ今回は音楽メディアの評価が一様に芳しくなく、いわく「どれもツェッペリンのコピー」「ツェッペリンの曲の借用が多すぎる」という批判が集まってるようです。ツェッペリンのスタイルを借用すること自体は問題ではなく、いかに彼らとしてのパフォーマンスを聴かせるかが重要で、それは一定この作品でも達成してると思うのですが(まあもちろん今回が前作や全前作より上かというとそうでもないのですが)残念ながら圧倒的な作品、とまでは行ってないのが今後の彼らの課題かもしれません。今回は前作のグレッグ・カースティンからアメリカーナ系で数々の名作を手掛けているデイヴ・コッブをプロデュースに迎えていますが、ちょっとアプローチが手堅すぎたのかもしれません。

"Magic 2" by Nas

なかなか衝撃的な1位2位の初登場だったトップ10の一方、今週の11位以下100位までの初登場は3枚。その一番人気はかなり下の方で52位に初登場してきた、御大ナズのマジック・シリーズ第2作の『Magic 2』。『Magic』の1作目(2021年27位)や最近の『King’s Disease』3部作同様、今回も盟友ヒットボーイのプロデュースでがっちり作り込まれてます。

ゲストアーティストも同じニューヨークの50セントとアトランタの21サヴェージだけに絞り込んで、ひたすらナズの得意のスタイルである、シリアスでテンションの高いフロウを全面で展開しているソリッドな作品になってますね。なので、若いトラップヘッズなどはあまり聴かないんだろうなあ、という感じですが、僕らのように90年代ヒップホップをどっぷり聴いていた人間からすると、このオールドスクール・ヒップホップなスタイルの作品はとても安定して聴けますね。さすがベテラン、ナズのフロウテクニックが存分に楽しめる作品になってます。何にしてもここまで20年以上のキャリアを重ねながら、未だにこのレベルのクオリティの作品をほぼ毎年リリースし続けるナズのレジリアンスには脱帽ですね。

"Summer's Mine" by Babyface Ray

続いてぐーーーっと下がって92位初登場は、デトロイト出身のラッパー、ベイビーフェイス・レイの2作めのチャートインとなった『Summer’s Mine』。デトロイトのラッパーだけどドリル系でもなく、トラップ・ビートは使ってますが結構エレクトロなサウンド使ったりしてちょっとひと味違うサウンドで、ダラッとしたフロウで独特のグルーヴを演出するラッパーですね。

このベイビーフェイス・レイみたいに、な~んも考えずにひたすらトラップビートに乗り続けてマンブルラップしてる、というのとはちょっと一線を画したスタイルで自分のオリジナリティを出そうとしてるラッパーには、結構好感持てますね。やたらビッグ・ネームをフィーチャーして、売りにかかってるわけでもないあたりも好感度大ですね。要は自分のスタイル持ってるってことで。ちょっと注目かもしれません。

"The Ballad Of Darren" by Blur

今週最後の100位までの初登場は、今週堂々UKでは初登場1位を決めているブラーの8年ぶりの新譜になる9作目『The Ballad Of Darren』が94位に初登場。本国UKではこれで1994年の『Parklife』から7作連続1位ですが、USでは1995年の『The Great Escape』(150位)以来の低位置発進、ということになります。とはいえ、2000年以降まだこれを入れて3枚しか出していない寡作(もちろんその間にデイモン・アルバーンゴリラズでガンガン活動してましたが)なのに、未だにこうしてアルバムがちゃんとUSでもチャートインし続けるというのはバンドの持続性という意味ではなかなかなものだとは思いますデイモンゴリラズやることで、適当に彼のやりたいことをやって、ブラーというバンドが煮詰まらずに済んでいる、という側面も多分大きいんでしょうし、オアシスのようにバンド解体せずに維持しておきたい、というデーモン以下メンバーの意思もあるんでしょうね。

去年のコーチェラではビリー・アイリッシュのステージに飛び入りし「どこのオッサンやこいつ?」的に風貌体型も変貌してしまっていたデーモンですが(笑)今年リリースのゴリラズの新作『Cracker Island』(全米3位、全英1位)の出来もなかなか良かったし、今回のこのブラーのアルバムもゆったりと構えた大人のロック、といった感じでまずまずの出来だと思います。各音楽メディアの評価も結構高くて、メタクリティックでも84点付いてますね

ということで今週の初登場は100位までで5枚でした。一方Hot 100の方に目を移すと、何と先週2位にいきなり初登場してたジェイソン・オルディーンの右翼ソング「Try That In A Small Town」が今週1位に。やっぱりこういう歌を喜んで聴いて買うアメリカ人がいっぱいいるんだなあ、と改めて暗澹たる気分になりました。これだったらモーガン野郎の曲の方がまだましですな。来週は気持ち良く誰かに撃墜されてもらいたいものです。ということで今週のトップ10、おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) 2nd EP ‘Get Up’ - NewJeans <126,500 pt/101,500枚>
*2 (-) (1) Barbie: The Album - Soundtrack <126,000 pt/53,000枚>

3 (2) (21) One Thing At A Time - Morgan Wallen <103,000 pt/4,052枚*>
4 (1) (3) Speak Now (Taylor’s Version) - Taylor Swift <79,000 pt/29,208枚*>
5 (3) (5) Génesis - Peso Pluma <53,000 pt/186枚*>
6 (4) (40) Midnights ▲2 - Taylor Swift <49,000 pt/11,341枚*>
7 (5) (133) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <47,000 pt/1,067枚*>
*8 (-) (1) Starcatcher - Greta Van Fleet <45,000 pt/41,000枚>
9 (7) (33) SOS ▲2 - SZA <42,000+ pt/4,504枚*>
10 (6) (205) Lover ▲3 - Taylor Swift <42,000 pt/8,322枚*>

今週はビルボード誌も夏休みだったのか、いつも月曜日に配信されるアルバムチャート速報が木曜日まで配信されなかった関係で、今週の投稿がいつもよりちょっと遅れてしまった「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。ニュージーンズの躍進、驚くばかりです。さて最後はいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:7/28-8/3)ですが、来週はもう完全にトラヴィス・スコット祭になることで間違いなさそうです。既に7/28付のスポティファイ・デイリー・チャートは、1位から19位まで(先週1位で初登場していたバッド・バニーとザ・ウィークンドの「K-Pop」が13位にいる以外は)すべて彼の初登場で埋め尽くされてますし、例のアストロワールド・フェスでの観客圧死事件以来久々の新譜なのでまあ、間違いなくぶっちぎり1位でしょう。20~30万ポイントは楽に叩き出すと思います。これに対抗できる可能性があるのがポスティことポスト・マローンの新譜。ただここのところのパワー不足気味のことを考えると、10万ポイントでトップ3くらいがせいぜいかなあ。ではまた来週。

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