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今週の全米アルバムチャート事情 #153- 2022/10/15付

今週からいよいよMLBのポストシーズンも本番ですが、我らがニューヨークメッツは残念ながらワイルドカード・ゲームで敗退。かくなる上はメッツを破ったダルヴィッシュのいるパドレスを応援するしかないなあ。是非ワールドシリーズまで行って欲しいものです。アメリカンリーグではアストロズヤンキースが強いと思うけど、ここは久々のポストシーズン進出のマリナーズに頑張って欲しいところ。これから約1ヶ月間、MLB三昧の日々になりそうです。

"Un Verano Sin Ti" by Bad Bunny

さてめっきり涼しくなってきた今週10月15日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位、先週の予想ではスリップノットとキッド・カディが共に10万ポイントレベルで1位を争う!と言ってたんですが、どうも最近予想ハズレが多くて、何と今週も84,000ポイント(うち実売1,500枚)と僅かにポイントを落としながら、バッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』がとうとう13週目の1位を記録、2014年の『アナ雪(Frozen)』サントラと2016年のドレイクViews』と並び、2000年以降では2011〜12年に24週1位を記録したアデルの『21』に続く2位タイの大ヒットアルバムになってしまいました。13週目にもなるとアップする楽曲動画のネタも尽きてきましたが、今週は元大谷の女房役だった、今はアストロズのキャッチャー、マルドナード選手が登場曲に使っているという、ちょっとトロピカルで雰囲気の違う「Ojitos Lindos」をどうぞ。

この間のビルボード誌に、MLBのプレイヤー達が使っている登場曲の中で一番多いのがバッド・バニーの曲だという記事が出てました。まあMLBのプレイヤーの半分くらいはラティーノなのでむべなるかな、というところですが、面白かったのはブレーヴスアクーニャJr.ヤンキーストーレスらラティーノ選手以外でも、ヤンキースヒガシオカ選手が前作の曲「Hoy Cobré」を使ってるなどラティーノ以外にも人気があるようで、この辺りもバッド・バニーの根強い人気を物語ってる気がします。

"The End, So Far" by Slipknot

そのバッド・バニーを遙かに超えて1位争いすると思っていたアーティストのうちの一つ、スリップノットの7作目『The End, So Far』は59,000ポイント(うち実売50,500枚で今週のアルバム・セールス・チャートダントツ1位でしたが)と、前作『We Are Not Your Kind』(2019)の初週ポイント118,000ポイントの半分以下という残念なポイント数で、それでも2位に初登場してきました。「かぶりものメタルバンド」というギミックによるユニークな個性と実力でここ3作は出せば必ず1位を続けてきましたが、今回はちょっと勢いが足りなかったようです。

正直なところ、ちょっと色物的なイメージもあって、自分は彼らの作品とかちゃんと聴いてきてなかったんですが、今回何曲か聴いてPVを観てみて、このバンド、サンプラーやターンテーブリストもいるんだ!と知って結構意外でしたね。そういう意味でいうとサウンド的にはいわゆる普通のメタルというよりも、彼らがデビューした2000年代初頭にブレイクしていた、リンプリンキン・パーク、コーンといったミクスチャーっぽいスタイル(こういうのを「ニュー・メタル」というそうですが)なんだなあ、と今更再認識。不勉強ですいません。しかしこういうコスプレっぽいロックバンドって、この秋何回目かの解散公演(笑)予定のキッス以来日本でも人気が高いようですね。彼らもフェスを含めて過去10回以上来日してるので、今回も来日しそう。

"Can I Take My Hounds To Heaven?" by Tyler Childers

ぐっと趣きを変えて、27,000ポイント(うち実売16,000枚)で8位に初登場してきたのは、これが初のトップ10にして最大のヒット作となった、ケンタッキー州出身のブルーグラス系カントリーのシンガーソングライター、タイラー・チルダーズの5作目『Can I Take My Hounds To Heaven?』。ただ彼の場合、単純なカントリー/ブルーグラスのサウンドだけでなく、楽曲の内容にゴスペル的な要素や、人種差別・トランプ以降の社会不安・警察による暴力について淡々と伝統的なプロテスト・ソングをフィドルをバックに歌うという前作『Long Violent History』(2020年最高位45位)に象徴されるような、メッセージ性の強いスタイルで、最近ジャンルを超えて高く評価されているミュージシャンです

今回のアルバムのユニークな点は、8曲の自作・他作のゴスペル・ソングを3つの異なったバージョンで録音したこと。自分のツアー・バンドであるフード・スタンプスをバックに普通のライブっぽくやった「ハレルヤ・バージョン」、そこに管楽器やストリングを加えた「ジュビリー(祝祭)バージョン」そしてサウンドビッツのサンプリングを使ったりリミックスを施したりしてヒップホップやR&B的アレンジをした「ジョイフル・ノイズ・バージョン」でそれぞれ3パターンの楽曲で構成されたこのアルバムはなかなか壮大。アルバムリリースのインタビューではタイラーが、自分の出自であるバプティスト教会でのキリスト教の三位一体説に影響されて同じ曲を3つの違ったスタイルで演ってみたんだと語ってるけど、どれもオールドタイムなカントリー・ジャズ、ファンク、ロック、そしてヒップホップ・R&Bまで取り込んだこの超意欲作、しばらく咀嚼してみる必要がありそう。一聴の価値ありです

"Sorry 4 What" by Tory Lanez

そしてトップ10内3枚目の初登場は25,500ポイント(うち実売1,000枚)で10位に入って来た、R&Bシンガー兼ラッパーのトーリー・レインズの7作目『Sorry 4 What』。先週コメントしたけど、まだミーガン・ザ・スタリオンの足を銃で撃った嫌疑で起訴された事件が終わってなくて、あの事件以来、共演していた他のアーティストからトーリーの参加した部分を削除されたり、ストリーミング回数が激減したりして、かなり厳しい状況だったはずなんだけど、この新作、ちゃんとストリーミングでトップ10入りするというのもどうかな、という感じですね。

このアルバムタイトルも「オレがやったことが何が悪いんだよ」と開き直ってるようにも読めるし、タイトルナンバーのPVとかを観ても、ミーガンとの事件で銃器保持を禁じられてるのに銃を振り回してるイメージを使ってるとか、ホント何だかなあ、と暗い気持ちになる作品。そしてこういうアーティストのこういう作品を無批判にストリーミングで聴いてる恐らくティーンエイジャー達の神経がちょっと理解不能です、ボクには。

"$oul $old $eparately" by Freddie Gibbs

とちょっと嫌な気分を取り直して、続いて圏外11位から100位までの初登場アルバムいきます。今週はやや多めで6枚のアルバムが初登場してますが、惜しくも11位に初登場でトップ10を逃したのは、ジャクソン5と同じインディアナ州ゲイリー出身のベテラン・ラッパー、フレディ・ギブスの5作目にして最高位を記録している『$oul $old $eparately』。惜しかったなあ、トップ10
トラップ的なトラックは最低限にしてR&Bなトラックを軽々と乗りこなす高いスキルに裏打ちされたフロウに定評のあるフレディ、近年はDJのマドリブや、プロデューサーのアルケミストなど、先進的なヒップホップ・サウンドメーカー達とのコラボアルバムで高い評価を得て、アルケミストとのアルバム『Alfredo』は昨年第63回グラミー賞の最優秀ラップ・アルバム部門にノミネートされたほど(受賞はナズの『King’s Disease』)。

今回もそのソリッドなトラックとクリスプで存在感あるフロウの組合せで描かれる世界観はさすがという感じですが、今回はラスヴェガスを舞台に架空のカジノ、トリプルS(アルバムタイトルの3つの$マークから来ているようです)でフレディがアルバム作りをしているという設定で、過度な物質主義への批判や疑問を内省的なリリックでラップすると言うコンセプトアルバムみたいです。また今回はサウンド面でもいつになく盛り沢山で、これまでコラボしたマドリブアルケミストの他、ケリー・プライスアンダーソン・パーク、更にはジェイムス・ブレイクともコラボしながらアルバム全体をフレディの世界観で聴かせてくれる、なかなかの充実作とみました。ティーンエイジ・ヘッズもトーリー・レインズとかじゃなくてこういう作品を聴けよな、って感じ。

"Entergalactic" by Kid Cudi

さて長くなってしまったので急ぎます。続く13位は先週スリップノットとの1位争いを予想していたキッド・カディの『Entergalactic』。今回はTVプロデューサーのケニヤ・バリスと組んで制作して自らも声優デビューした、ネットフリックスの同名タイトルの大人向けアニメシリーズとのダブルリリースということで、ヒップホップのマルチメディア・マーケティングの可能性を追求したプロジェクトだけに評判を呼ぶと思ったんですが、アルバムの方はやや予想よりは控えめな反響だったようでこの順位になってますね。

アルバムのサウンド全体はエレクトロニカなスタイルを意識したトラックやアコースティック・サウンドをフィーチャーした曲があるなど、やはりアニメシリーズのサントラ盤的位置付けということで、冒頭の「Engergalactic Theme」や「Angel」など全体的に映画のスコアを思わせるようなゆったりとしたドリーミーな感じの曲が多いように思います。コラボゲストも控えめなので、全体的テンションもやや低めでゆったりと聴ける感じのアルバムになってるあたりが従来のファンにはちょっと物足りなかったのかもしれません。個人的にはなかなか気に入ってますが

"I Got Issues" by YG

ヒップホップの初登場が続きます。続いては18位に入って来たコンプトン出身のラッパー、YGの6作目のアルバム『I Got Issues』。これまで5枚はすべてトップ10だったんだけど、今回は初めてトップ10逃し。この人はいろいろ逮捕沙汰でグラミーでのパフォーマンス機会を逃したりとか、ケラーニと付き合ってたのに浮気がバレてふられたりとか、まあいろいろ問題行動は多いのだけど、どっか憎めないキャラなんで人気あるんですが、今回はちょっと地味だったみたい。

でもアルバム聴いてみて思ったのは、シングルの「Toxic」とかメアリーJの「Be Happy」丸々使いだったりと何だか90年代ヒップホップのいいとこ取りみたいなトラック満載で、聴いてて気持ちいいなあ、ということ。YGってこんなにいいトラック使ってたっけ?と実はこれまであまりYGちゃんと聴いてなかったってのが露呈されちゃってるんですが、結構このアルバム、いい感じです。

"Cool It Down" by Yeah Yeah Yeahs

さて順位はぐっと下がって45位初登場は、インディ・オルタナ・ロック界きっての才女、カレンO率いる、もうベテランの域に入ってきたヤー・ヤー・ヤーズ、9年ぶりの新譜『Cool It Down』。いつものデイヴィッド・アンドリュー・サイテックやUKのニック・ローニーらのプロデューサー陣に加えて、LCDサウンドシステムジェイムズ・マーフィーも招いて作った前作『Mosquito』(2013年5位)は彼ら初の全米トップ10アルバムになってブレイクしたんですが、今回はインディ・バンドらしい順位(笑)。しかし久しぶりの新作ということもあってか、UKでは4作連続のトップ10入り、メディアの評価も高くなってます(メタクリティックで82点)。

YYYsの自分の印象はデビュー当時はいかにもNYのインディバンドっぽく、ギターでビートを刻みながら独特のポップセンスを持ったメロディとカレンOのボーカルが2000年代のブロンディーっぽい雰囲気だったのが、3枚目くらいからシンセやエレクトロも取り入れてサウンドの幅を広げながらもあくまでもビート・バンド、というもの。ところが今回冒頭の「Spitting Off The Edge Of The World」から数曲聴いて意外だったのは、ビートはめっきりスローになって、エレクトロでスケールの大きい(フローレンス&ザ・マシーンあたりを思わせる)曲が立て続けに並んでいたこと。この9年の間にはコロナもあったし、シーンの変動もあるなか、彼ら流の自己変革の試みなのかもしれませんが、ちょっと慣れるまでに聴き込みが必要かな、と思いました。

"Crazy Times" by Sammy Hagar And The Circle

そして更にぐっと順位が下がって95位に初登場してきたのは、アメリカのハードロック好きの中年シニア層には根強い人気を誇るサミー・ヘイガーヴァン・ヘイレンマイケル・アンソニー(ベース)、ツェッペリンジョン・ボナムの息子のジェイソン・ボナム(ドラムス)、ヴィック・ジョンソン(ギター)によるバンド、ザ・サークルとのバンド名義のアルバム2作目『Crazy Times』。こちらも前の1作目『Space Between』(2019)はBB200の4位とサミーに取って久々のトップ10だったんですが、柳の下にドジョウは2匹はいなかった、ということでしょうか。

それでもアメリカン・ロックの数少ない70年代からの現役アーティストとして、そして変にコマーシャルに走ったりせず、自分のスタイルを堅持し続けるアメリカン・ロックの良心みたいな人なので、出たら買う、というファンもきっと多いんでしょう。それが証拠に過去彼が絡んだソロもグループ(モントローズ、ヴァン・ヘイレン)もアルバムがチャートインしなかったことはないというのを今回発見。今回も冒頭アコギのしっとりナンバーから前編サミー印のハードロック満載のある意味爽快な作品になってますね。体型はややポッチャリになってるけど(笑)サミー節は健在。こういうのも必要だと思うなあ。

"Fossora" by Björk

そして今週最後の100位内初登場は、100位ギリギリで入ってきたビョークの通算10作目のオリジナル・ソロ・アルバム『Fossora』。2010年代に入って以降のアルバムでは、90年代から2000年代にかけてのカリズマティックな存在感もやや薄れた感があり、チャート的にも今ひとつで今回もその流れでこの順位か、と思ったんですが、今回アルバム聴いてみて、とても感情と力強さがビョーク独特の様々なサウンドの万華鏡的な世界観の中で感じられる、2000年代のアルバムを彷彿させるような充実感を感じましたね。そしてメディアの評価も高いですね(メタクリティックで85点)。

そのエモーショナルな充実感も当然かな、と思うのは、今回のアルバム制作の大きな動機は前作発表直後2018年の母親の他界による感情の渦巻と、1990年以降住み着いてパートナーのアーティスト、マシュー・バーニー(2013年に別れてます)と暮らしていたNYから母国アイスランドに家財道具も含めて居を完全に移して、改めて母国の自然と素晴らしさを再発見したからなんだろうな。息子のシンドリ君とのデュエットでその母を失った静かな悲しみを表現した「Ancestress」や、本作のテーマだと本人が言ってるキノコを主題にしたクラシック組曲調の「Fungal City」など、彼女一流の世界観を展開するこの作品、久々の快作だと思うのでこの順位は残念な限りですね。

ということでトップ10内3枚、圏外6枚、計9枚が初登場とにぎやかな今週のチャート、ここでいつも通りトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (22) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <84,000 pt/1,500枚>
*2 (-) (1) The End, So Far - Slipknot <59,000 pt/50,500枚>
3 (3) (91) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <46,000 pt/1,085枚*>
*4 (7) (86) The Highlights - The Weeknd <39,000 pt/691枚*>
5 (5) (20) Harry’s House ▲ - Harry Styles <34,000 pt/5,980枚*>
6 (6) (10) Renaissance - Beyonce <31,000 pt/1,675枚*>
*7 (10) (20) American Heartbreak - Zach Bryan <28,000 pt/668枚*>
*8 (-)(1) Can I Take My Hounds To Heaven - Tyler Childers <27,000 pt/16,000枚>
9 (8) (8) Beautiful Mind - Rod Wave <26,000 pt/55枚*>
*10 (-) (1) Sorry 4 What - Tory Lanez <25,500 pt/1,000枚>

今週もいろんなアーティストの新譜がてんこもりの「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか?最後に恒例の来週の1位予想、今回のチャート集計対象期間は10/7~13です。この期間のリリースで目につくのは何といってもKポップのストレイ・キッズ。前回実売10万枚を動かして堂々1位を記録しているので、今回その枚数を確保すればぶっちぎりで1位でしょう。それ以外ではやっぱり強そうなのは、ヤング・ボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン、クエイヴォ&テイクオフオフセット抜きのミーゴスですねw)、G-ハーボのヒップホップ勢でこのあたりはぞろぞろとトップ10に入ってきそう。それ以外だと久々のチャーリー・プスくらいがトップ10来るでしょうか。ではまた来週。

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