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今週の全米アルバムチャート事情 #249- 2024/8/17付

山下美夢有選手のホントに惜しかった女子ゴルフの戦い、そして翌日の女子レスリングのメダルラッシュを最後に歓喜と興奮のうちに幕を閉じたパリオリンピック。正直始まる前は男子バレーとゴルフくらいしか見るつもりなかったんだけど、結局毎朝TVerの新着動画を隅から隅まで見る羽目に(体調の関係で夜ふかしできないので)。まったく期待もなく見ていたフェンシングも、体操も、飛び込みも、レスリングも見ててインスパイアされることも多く、久しぶりに観戦にのめりこんだオリンピックになりました。閉会式でも日頃あまり見られないフェニックスとかエアー(Air)とかのパフォーマンス(ヴァンパイア・ウィークエンドエズラの共演もおっと思いましたね)を見れたのはなかなか貴重で楽しみました。皆さんはいかがでしたか?

"The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

さて、今週の全米アルバムチャート、8月17日付のBillboard 200はほぼ当然のごとくカニエタイ・ダラ・サイン(¥$)の楽勝の1位だろう、と思ってたら蓋を開けてビックリ、なんとテイラーの『The Tortured Poets Department』が142,000ポイント(しかも実売は先週の6倍の84,000枚)というここに来ての出力再度の大幅増で通算14週目の首位をキープしてしまいました。何でここに来てまたこんなに実売増えたんや?と思って調べたらテイラー陣営、またまたプチマーケティング・ブラストをかましたらしく、今回は期間限定のテイラーのサイト限定で、5種類の新しいデジタル・アルバム(1つはiPhoneで録音した「My Boy Only Breaks His Favorite Toys」の初期デモバージョン、あと4つは最近のエラス・ツアーのライブ音源をボートラで追加したもの)をリリースしたらしいです。しかもサイトで買えるバージョンは全部13%割引した模様。いやあどんだけスウィフティーズの財布を掘りまくってるんだろうなあ。いつまでこうして売りまくるつもりなんでしょう。

今週後半からはエラス・ツアーのヨーロッパ・ツアーの締めとして、パラモアをオープニングに迎えたロンドンのウェンブリー・スタジアムでの5回公演が控えてるテイラー、この音源もまたボートラに使ってマーケティング・ブラストに使えるから、この手のプロモーションを続けてたらスウィフティーズの皆さんはいくら金があっても足りない状態になりそうですなあ。しかしこれだけダラダラ1位が続くと去年のモーガン野郎One Thing At A Time』と同じくらいうっとおしくなってきました、正直言って。

"Vultures 2" by ¥$: Ye (Kanye West) & Ty Dolla $ign

そして107,000ポイント(うち実売60,500枚)と思いの外弱めの出力だったカニエタイ・ダラ・サイン(¥$)の『Vultures 2』、1位は取れずに2位初登場。しかし今回のアルバム、前作『Vultures 1』とうって変わってフューチャー、プレイボーイ・カーティ、ドン・とリヴァー、リル・ダーク、リル・ベイビー、リル・ウェインとザクザクのメジャーどころをゲストに迎えている一方、全16曲のトラックの完成度が今一つだという批判が集まっていて、「カニエはAI使って自分のヴァース書いてるんじゃないか」という噂が立つほどファン、メディア双方から早くも散々な評判(メタクリティックスも40点という見たことないような低スコア)です。

確かに一通り聴いてみても、何だか完成の3ステップくらい手前のデモ音源を聴いてるような感じで、何度かリリースタイミングが遅れた割には不完全燃焼感満載の内容のように聞こえますね。せっかくの豪華ゲストもトラックの中であんまりうまく活かされてないような感じもするし。これで今年後半にはこのシリーズ3作目も予定してるらしいですが、どうなりますか。ちなみにジャケの顔写真は、ラストの「My Soul」にフィーチャーされてる、タイ・ダラ・サインの兄きのビッグTCとのこと。あと話題としては、ミーガンの二番煎じか、「Bomb」にフィーチャーされてるカニエの11歳の娘、ノースが日本語で「オハヨゴザイマス、コニチワ、ワタシノナワエワ『ノスチャン』」なーんてラップしてます。これなんか一番デモっぽいトラックで、金取って聴かせる代物ではないなあ。ちなみにカニエは今回2位止まりだったことでそれまで11枚連続首位だった記録が途絶えてしまいました。やっぱりカニエとテイラー、何かと因縁がありますねえ。

"The Rise And Fall Of A Midwest Princess" by Chappell Roan

今週のトップ10内初登場はこれ1枚なんですが、トップ10ではチャペル・ローンが快進撃継続中、ポイントを先週比20%アップして、先週の4位→3位と最高位更新。先々週末のシカゴのロラパルーザの記録的観客動員ステージの反響ですね。いよいよこの調子でポイントを少しずつでも積み上げ続ければ、首位もあるかなあ、と思ったんですが、向こう2〜3週は結構強力な新譜もリリースされるようなんで難しくなって来ましたかね。それより今週のトップ10で気分悪いのは、先月7/20付チャートを最後にようやくトップ10から落ちていたモーガン野郎の『Dangerous: The Double Album』が今週何とトップ10に復帰、通算157週目のトップ10となってしまったこと。ナッシュヴィルのエリック・チャーチのレストランの屋上からぶん投げた椅子が通りにいた警官のすぐそばに落ちたということで無謀な危険行為による重罪3件の廉で逮捕され、今月の審理を待っていたモーガン野郎ですが、この審理が12月まで伸びたらしく、おかげで今月後半から10月まで続くツアーに出かけられるとか。こんな奴がアルバムチャートのトップ10滞在記録を持ってて、また更新してしまったかと思うと何だかガックリ来ます(それまでの記録は『Sound Of Music』サントラ盤の109週)。

"Sincere" by Khalid

さて今週の圏外11〜100位ですが、初登場は3枚。一番上位にエントリーしてきているのが、43位に入って来たカリードのサード・アルバム『Sincere』。ジャケを見ると7年前、17歳で鮮烈にデビューした頃の角刈り風のヘアから一転、オトナのショートアフロへイメチェンして、一瞬別人かと思っちゃいました。よく考えたらデビュー後バンバンヒットを飛ばしていた彼も前作『Free Spirit』(2019年1位)が出たのばコロナ前ですから、随分と間が空いてしまっていました(その間2021年にミックステープ『Scenic Drive』はリリースしてましたがこちらも54位と地味でした)。そしてチャート的にはそれは必ずしもプラスではなかったようで、今回大きく順位を下げてます。

ただ作品の内容は素晴らしいですね。ファースト、セカンドで鮮烈に登場した頃のカリードは、今風のエレクトロで浮遊感のあるサウンドに乗せて、メリハリの利いたとてもティーネイジャーとは思えない表現力あるボーカルでコンテンポラリーR&Bの一つの完成形を示してくれてましたが、今回の作品はそのサウンドスケープはよりダウン・トゥ・アースになり、彼の歌唱や楽曲の構成なんかも一段とマチュアになった感じがして、また大きく一皮むけた感じがいいのです。前作のミックステープではいろんなゲストをフィーチャーして、新しいアプローチを模索していたような感じでしたが、今回フィーチャーされているのは「Breathe」のアーロ・パークスだけ。この曲はアーロの色も強く出ていてそれがカリードの新しいスタイルといい融合を見せてるんですが、それ以外の楽曲は正に新しいカリードここにあり、といった感じでぐいぐい引き込んでくれます。アリシア・キーズドレイクの「Un-Thinkable (I’m Ready)」をサンプリングしたシングルの「Please Don’t Fall In Love With Me」などはR&B時代のドレイクが憑依したかのようなオーラをまとってます。これは自分の今年の年間アルバムランキングに入って来そう。たださっそくヴァイナル買おうと思ったところ、アマゾンにもHMVにもタワーにもフィジカルが売られてないんですよね。CD/LPリリースされてるはずなんだけどおかしいなあ。

"Hungover" by Ella Langley

そこからぐーっと下がって77位初登場は、アラバマ州ホープ・ハル出身の女性カントリー・シンガーソングライター、エラ・ラングレーのデビュー・アルバム『Hungover』。現在ライリー・グリーンとのデュエット・シングル「You Look Like You Love Me」(36位、カントリー・チャート13位)がブレイクヒットになっている、ミランダ・ランバートあたりを思わせるようなスタイルの正統派のカントリー・ポップ・シンガーです。

永らく地元のバーやフェスなんかで歌ってたようですが、2019年にナッシュヴィルに移住、カントリーのメッカで本格的に活動を開始して今回のデビューになったようです。ヒットしてる「You Look Like You Love Me」は歌ではなく最初のヴァースはエラの、そして第2ヴァースはライリーの語りで、バーで出会った男女二人が、お互いに何かを感じて関係を深めていくやりとりを表現してしまってるという何ともレトロなスタイルの楽曲で、曲のテーマは全く違いますが70年代のジム・スタッフォードのノヴェルティ・ヒット「Wildwood Weed」(1974年7位)を思い出してしまいました。今時こんな曲がHot 100にもクロスオーヴァーするんだなあって。ある意味今のカントリー・ブームの力を感じるような気がします。そしてそれ以外の楽曲でもエラの実力を感じさせるものも多く、ミランダマレン・モリスなどお好きな方にはお勧めできますね。

"Actin' Up Again" by Gavin Adcock

そして今週の最後の初登場は82位にチャートイン、こちらも新人カントリー・シンガーソングライター、ジョージア州出身のギャヴィン・アドコックのデビュー・アルバム『Actin’ Up Again』です。こちらはHot 100はおろか、カントリー・ソング・チャートにすら曲はチャートインしてませんが、スライド・ギターが郷愁を誘うカントリー・バラード「A Cigarette」がどうもYouTubeなどSNSで視聴を集めている模様。

ただ、さっきのエラと違って、こちらのギャヴィン君の場合オーラというか、楽曲での存在感みたいなものはあまり感じられず、歌もそんなに巧い感じでもないのですが、そういう素人臭さが今時のSNSでどんどんブレイクする時代には受けるのかもしれません。ちょうど今週末はイリノイ州のステイト・フェアに御大ミランダ・ランバートと一緒に出演するようなので、その関係で主にストリーミングでチャートインしたんでしょう。この後南部を中心に12月まで回るツアーのチケットは、本人のサイトによると全てソールド・アウトとのことなので、曲の方も今後チャートインしてくるかもしれません。してこないかも知れないけど(笑)。

ということで今週は100位までの初登場は4枚と、久しぶりにちょっと地味目の週でしたね。一方Hot 100の方を見ると、いやいやシャブージー、意外に強くて今週も首位をキープ、これで通算5週目の1位になりました。それ以外ではチャペル・ローンの「Good Luck, Babe!」が順調に順位を伸ばして8位→6位に上昇。来週のチャートの集計期間である8/9付のSpotifyデイリー・チャートではとうとう1位になってますから、来週どこまで伸ばすか楽しみですね。一方、チャーリーXCXビリー・アイリッシュと組んで話題のエレクトロ・レイヴ風トラック「Guess」は意外と弱めで今週12位初登場に留まってます。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (1) (16) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <142,000 pt/84,000枚>
*2 (-) (1) Vultures 2 - ¥$: Ye (Kanye West) & Ty Dolla $ign <107,000 pt/60,500枚>

*3 (4) (20) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <64,000 pt/8,500-枚>
4 (2) (75) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <63,000 pt/1,483枚*>
*5 (5) (12) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<57,000 pt/10,500枚>
*6 (9) (9) Brat - Charli XCX <56,000 pt/5,604枚*>
7 (3) (6) The Great American Bar Scene - Zach Bryan <51,000 pt/687枚*>
8 (11) (187) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <37,000+ pt/368枚*>
9 (10) (89) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <37,000+ pt/3,054枚*>
10 (8) (3) Twisters: The Album - Soundtrack <37,000 pt/5,336枚*>

テイラーがまんまとカニエの12枚連続1位を阻止した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:8/9~15)ですが、来週はテイラーもまたポイントを減らすでしょうから、10万ポイントくらいは叩き出せそうな新譜、というとポロGくらいでしょうか。ただこれもテイラー陣営が引き続きプチマーケティング・ブラストを来週もやるようだとわかりませんね。ポロG首位は五分五分といったところか。ではまた来週。


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