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今週の全米アルバムチャート事情 #182- 2023/5/6付

いよいよ始まったゴールデンウィークですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。コロナの5類認定も正式になってこの連休は各地が賑わうんでしょうね。日常に戻った連休を是非満喫してください、いい音楽も是非楽しんで^_^

一方、このGWにもまたミュージシャンの訃報が入ってきました。1974年の全米ナンバーワンヒット「Sundown」やスペリオール湖で沈没した輸送船について歌った「エドマンド・フィッツジェラルド号の難破(The Wreck Of The Edmund Fitzgerald)」(1976年2位)の大ヒットで知られるカナダのシンガーソングライター、ゴードン・ライトフットがトロントの病院で亡くなったとのこと。個人的には独特の吟遊詩人的世界観を持った、孤高のシンガーソングライター、というイメージでした。享年84歳、謹んでご冥福をお祈りします

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

ゴールデンウィークの今週5月6日付のBillboard 200、全米アルバムチャートですが、先週予想で期待していたポスティのベスト盤はどうしたことか今週のチャートには影も形もない一方(200位以内にもチャートインせず)、先週不覚にも見逃していた他の強力な新譜の猛追(これについてはこの後に)をわずかにかわしたモーガン・ウォレンの『One Thing At A Time』が今週とうとう8週目の1位を記録してしまいました

今週ようやく15万ポイントを割り込んできたとはいうものの、先週比わずか10%減の149,000ポイント(うち実売5,500枚)と依然強い勢力を維持しての1位(何だか台風みたいですねw)を継続してるんで、強力なKポップかヒップホップ、あとメガスター(テイラーアデルエド・シーラン、ドレイクとか)の新譜が出ない限りはもう何週間か1位を続けてしまいそう。結局前作の10週1位に並んでしまうのかなあとちょっと暗澹たる気分です

"D-Day" by Agust D

そしてそのモーガン野郎をわずか9,000ポイント差で1位から引きずり下ろし損ねてしまったのが、2位に140,000ポイント(うち実売122,000枚、当然今週アルバム・セールス・チャートぶっちぎり1位)で2位に初登場した、オーガストDことBTSシュガのソロ・初フルアルバム『D-Day』。シュガ名義じゃなくて別名のオーガストD(英語的には発音はエイガストかアガストだと思うけどなあ、と個人的にはこの正式読みには違和感ありありです)だったので、先週の予想では完全に見逃してましたが、シュガだと気づいてたら、ポスティよりもシュガが1位ぶっちぎるだろうという予想してたでしょうけど、うーん惜しかったなあ

BTSが全米ブレイクする前のよりハードコアなヒップホップに軸足をおいたサウンドだった時代の音作りの中心人物の一人だったらしいシュガBTSが「誰からも愛される70〜80年代スタイルのダンス・ポップ・グループ」に変貌して見事に全米ブレイクを果たした後も当初のサウンド指向を変えることなく、自分のミックステープ『Agust D』(2016)や『D-2』(2020年全米11位)では独自のダークなヒップホップ・ワールドを展開してきたようですが、今回もその線でシュガ・ワールド全開な内容になってます。リリックも社会的視点からのコメンタリー的なものも多いようで、そうしたスタイルへのファンからも支持も高いことが今回のアルバムの躍進につながっていることは間違いないんでしょう。いやあそれにしても惜しかった。もちろんガリガリヒップホップ一辺倒ではなく、韓国の国民的女性シンガー(だそうです)、IUをフィーチャーした「People Pt. 2」(先々週のデジタル・ソング・セール・チャートで1位獲得)や「Life Goes On」のようにコンテンポラリーR&Bかシティポップかって感じの曲もあり、まあこれは売れますねえ。個人的には急逝したばかりの坂本龍一さんのピアノをサンプリングにシュガがラップを載せている「Snooze」がちょっとグッと来ました。

"Folklore: The Long Pond Studio Sessions (Soundtrack)" by Taylor Swift

シュガだけでなく先週の予想で完全ノーマークだったのは、ちょうど集計期間の4/22に行われた全世界のヴァイナル・ファンのお祭り、レコード・ストア・デイ(RSD)絡みの作品。そしてその中でもダントツの75,000ポイント(全米で75,000枚限定でリリースされたヴァイナルが即完売したそうです!)で3位に登場してきたテイラー・スウィフトの『Folklore: The Long Pond Studio Sessions (Soundtrack)』。現在ツアー中のテイラー人気を反映して『Folklore』がトップ10に復帰するんじゃないかと言ってましたが(今週12位)、いやあこっちの方は全くノーマークでした。

こちらはディズニー・プラスで2020年11月に放送された、あの大ヒットアルバム『Folklore』の楽曲のライブ・パフォーマンスの様子を記録したドキュメンタリー作品のサントラ盤扱いで、その中でも『Folklore』の曲を全曲アコースティック演奏したものがRSD限定で独立系レコード店のみで販売されたとのこと。RSD関連のリリースでは初のトップ10アルバムとなったこの作品ですが、これだけ売れるんだったら75,000枚じゃなくてその倍の150,000枚リリースしても完売してたんじゃないの?そしてそうしたら今週モーガン野郎を僅差で抜いて1位だったんじゃないの?なーんて思ってしまいました。まあ通常RSDのリリースはせいぜい1〜2万枚がマックスなんでこれでも大量リリースだったんでしょうけどね。なおこのアルバムのチャートインで、今週テイラーは『Midnights』(4位)『Lover』(10位)ともども3枚のアルバムをトップ10に同時チャートイン。これは2016年にプリンスが亡くなった時に5月7日付のチャートで3枚、翌週のチャートで5枚同時チャートインして以来の記録です。100位までにも今年の3/4のチャートに続き2度めの10枚同時チャートインを果たしていて、こちらも2016年にプリンスが3回記録して以来のことのようですね。それ以前もデヴィッド・ボウイホイットニーが記録してますが、生存するソロ・アーティストでは彼女が史上初。またまた歴史が塗り替えられました。

"Don't Try This At Home" by YoungBoy Never Broke Again

今週のトップ10内初登場、もう1枚はこちらも別の意味で記録的なチャートインとなった、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインの6作目のアルバム『Don’t Try This At Home』。60,000ポイント(うち実売1,000枚)で5位初登場したこのアルバムで、彼のトップ10アルバム(ミックステープ含む)は合計14作目となりました。最初のトップ10アルバムのデビュー作『Until Death Call My Name』(2018年7位)からわずか5年で14作のトップ10なんで、毎年平均3作のトップ10を叩き出してる勘定、2023年もこれが2作目のトップ10です。いつも言ってますがこいつの多作さには恐れ入りますね。今回も33トラック収録のガッツリ幕の内弁当(笑)。今年1月に9位初登場してた『I Rest My Case』が長年契約していたアトランティックからモータウンに移籍第一弾ながら、初週29,000ポイントと低調でしたが今回はしっかり立て直してます。

ただこれもいつも言ってますが、この人の作風自体は基本的に全く変わらない、いつものハードコアながら半歌、半ラップみたいなスタイルを基本トラップ系のトラックで展開するというやつで、よくこれで人気が持続するもんだなと思いますね。今回のアルバムの話題トラックはニッキー・ミナージュをフィーチャーした「WTF」(当然What The F**kの略ですね)と、ポスティキッドLAROIフィーチャーという豪華なメンツの「What You Say」。

"Give Way" by Pearl Jam

以上今週のトップ10は上位の初登場が大賑わいでしたが、11位以下100位までには3枚のアルバムが初登場。そのうち一番人気は26位に入ってきた、パール・ジャムのライブ盤『Give Way』。これも3位に初登場のテイラーの『Folklore』のアコースティック・ライブ盤同様、4/22のRSD限定リリースのアルバムで、彼らの1998年のアルバム『Yield』のサポートツアーで、オーストラリアのメルボルンで行ったライブから17曲が収められたもの。このライブ盤、実は1998年にパール・ジャムがリリースしたドキュメンタリー『Single Video Theory』のビデオ購入者向けの無料特典として、家電小売チェーンのベスト・バイが配布しようとして5万枚のCDをプレスしたんだけど、レーベルもバンドも承認しなかったのでビデオ発売前日に廃棄された、幻のライブ盤といういわくつきの音源だったようです。当然その後一部廃棄を免れたCDがブートで出回って高値が付いてたらしいですが、無事今回正規盤として日の目を観たということ。

収録17曲は、その『Yield』からのシングルだった「Given To Fly」の他「Animal」「I Got Id」「Alive」「Even Flow」などなど、彼らの『Yield』までの代表曲がズラリと並んだ豪華なセットで、パール・ジャム・ファンにはたまらん選曲。これは今回RSDで買ってもよかったかなあ。ちなみにアルバム・タイトルはアメリカでは「Yield」と表記される「優先道通行車に道を譲れ」という交通標識がオーストラリアでは「Give Way」と表示されることから付けられたようです(ジャケに載ってる標識ですね)。

"One Wayne G" by Mac DeMarco

ぐっと下がって56位初登場は、カナダの脱力系ポップシンガーソングライター(笑)マック・ディマルコの7作目になる『One Wayne G』。2014年の3作目『Salad Days』(30位)でブレイクしてから(自分もこのアルバムで彼を知りました)何枚かコンスタントにチャートインして前々作の『Here Comes The Cowboy』(2019)ではトップ10入りも果たしたんですが、その後音沙汰なくなってどうしたんだろう、と思っていたところ、昨年ロミ&JDベックのアルバムにいきなり参加したりして「ああまだちゃんと活動してたんだ」と思ってたところ。

ところが今年1月にリリースした久々の新作『Five Easy Hot Dogs』は楽曲スタイルはマックお得意の微妙にトーンを外し気味にメロディが展開する脱力系エレクトロ・ポップ・スタイルなんですが全14曲全てインストという意表を突く内容でそれもあってかチャートインせず。しかし今回リリースの『One Wayne G』は更に意表を突く内容で、まず驚くのは全199曲、トータルタイム約9時間に及ぶ膨大な量。しかもそのうちタイトルがちゃんとついてて歌詞が付いてるのは18曲で、あとは「YYYYMMDD」フォーマットで彼のデモ音源かと思われる、インストかデモボーカルだけの曲というまあすごいというか何というか呆気にとられる内容。これでよくチャートインしたなあと感心します。まあインストもチル系のBGMトラックと思えば楽しめないこともないし、一昨年に出た、トム・ミッシュの『Quarantine Sessions』あたりと発想やスタイルは似てるからそう思うと結構いい感じだったりもします。ストリーミング時代だからこそこうしてチャートインするんでしょうが。さあマックの真面目に録音したアルバムはいつ出るんでしょうか(笑)。

"Drive" by Tiesto

そして今週100位までの最後の初登場は87位に入ってきた超ベテラン、オランダ人EDMDJのティエストの7作目になる『Drive』。彼としては5作目『A Town Called Paradise』(2014年18位)以来久々のチャートイン・アルバムになります。コロナ禍の間は2019年に結婚したモデルのアニカ・バックスとアメリカはデンバーに移住して、もっぱら家庭づくりに専念、2人の娘にも恵まれたようですが「やはり常に行ってたクラブに行けなくなったのは苦痛だった」と、2020年以降営業されなくなったクラブライフに戻れない焦燥とフラストレーションがこのアルバム制作をドライブした模様。

結果としてアルバムの内容は、ロックやポップ系のコロナ禍制作作品とは違って、「クラブが再開したらこんな感じで思いっきり弾けるぞー!」的ないい意味でのポジティヴィズムとアップビートさが満載の内容になってるようです。いつになくコラボアーティストもメインストリーム系の最近のポップ、ヒップホップアーティストに寄ってて、ここ数年でブレイクしたエイヴァ・マックス、テイト・マックレー、チャーリーXCXといったところから今旬のカロルGそしてア・ブギー・ウィット・ダ・フディとなかなか多彩。御年54歳のティエスト、2021年に夜間外出が解禁になって以来、クラブライフに復帰して既に200回以上のライブやってるそうでなかなか元気です。

ということで今週の100位までの初登場は以上6枚。ところでRSDがらみでは毎回多くのアルバムがチャートに登場しますが、今回はテイラーパール・ジャム以外にも118位ストーンズの『Beggars Banquet』(RSD限定カラーヴァイナル)、127位スティーヴィー・ニックスの『Bella Donna Live 1981』(あのヒットアルバムのライブ盤)、157位グレイトフル・デッドのボストンのボストン・ガーデンでの1977年のライブ盤、174位トーリ・エイモスの『Little Earthquakes: B-Sides』、179位は今回のRSDのアンバサダーになってるジェイソン・イズベルアマンダ・シャイア夫妻の『The Sound Emporium EP』、そして197位に故マック・ミラーの変名ジャズ・プロジェクト、ラリー・ラヴシュタイン&ザ・ヴェルヴェット・リヴァイヴァルのライブEP『You』と都合8枚チャートインしてます。皆さんはRSD、何か買われましたか?では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (8) One Thing At A Time - Morgan Wallen <149,000 pt/5,500枚>
*2 (-) (1) D-Day - Agust D <140,000 pt/122,000枚>
*3 (-) (1) Folklore: The Long Pond Studio Sessions (Soundtrack) - Taylor Swift <75,000 pt/75,000枚>

*4 (4) (27) Midnights ▲2 - Taylor Swift <62,000 pt/9,662枚*>
*5 (-) (1) Don’t Try This At Home - YoungBoy Never Broke Again <60,000 pt/1,000枚>
6 (3) (20) SOS ▲2 - SZA <59,000 pt/162枚*>
7 (5) (120) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <48,000 pt/1,360枚*>
8 (6) (5) Gettin’ Old - Luke Combs <39,000 pt/3,257枚*>
9 (7) (21) Heroes & Villains - Metro Boomin <37,000 pt/1,449枚*>
*10 (9) (192) Lover ▲3 - Taylor Swift <36,000 pt/7,399枚*>

シュガの惜しい2位初登場やテイラーのアルバムがチャートを埋め尽くした今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか?では最後にいつものように来週1位予想(チャート集計対象期間 4/28~5/4)。今週でモーガン野郎が15万ポイントを割ったので、来週は12~13万ポイントくらいのイメージなんだけど、これに匹敵するポイントを叩き出しそうなのは、ずばりジャック・ハーロウザ・ナショナルジャックは前作で11万3000ポイント叩き出しているので可能性あるのと、ザ・ナショナルはずばりテイラー人気の影響で今回ぐっと伸ばすと見てます。なので来週はこの三つ巴かと。ではまた来週。

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