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今週の全米アルバムチャート事情 #244- 2024/7/13付

今回の都知事選の「現知事の再選を阻止する」という最大の命題は、残念ながら自民や統一教会とドップリ関係の深い、個人的な政治的売名目的候補のサボタージュ出馬で、反対票が大きく割れて現知事が漁夫の利を得るという、都民として全く忸怩たる結果になってしまいました。ただ現知事は現在刑事告発されている今回の都知事選での公職選挙法違反が確定すれば当選無効になるはず。この後の展開を期待しつつ、待ちましょう。

The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

さてもうここのところ毎週テイラー・ショーの様相を呈している全米アルバムチャート、今週7月13日付のBillboard 200はやはりテイラーの『The Tortured Poets Department』がデビューから11週目の首位をキープしてました。しかも今週も先週からわずか1%減の114,000ポイント(うち実売は何と27%増の35,000枚)というぶっちぎりぶりの首位。何でまたこの期に及んで実売がこんなに増えてるの?と思ってたら、今回の集計対象期間にもテイラーのウェブサイトでアコースティック・バージョンのボートラを1曲追加した新しいCDバリエーションを2種類(一つは「Fortnight」のアコースティック・バージョン、もう一つは「Fresh Out The Slammer」のアコースティック・バージョン)リリースするという、ちょうど先々週やった追加のプチ・マーケティング・ブラストをやっていたからみたいですね。ちょっとやり過ぎの感は否めませんが、このデビューからの11週首位でこの記録ではホイットニーと並んで歴代3位になったテイラー、次のターゲットであるモーガン野郎の『One Thing At A Time』(12週)に並ぶための策だとすれば、自分としては許せるなあ。ただ後でちょっと触れますが来週は久々に強力な対抗馬が首位をうかがってるので、テイラー、このまま2つ目のモーガン野郎も来週とらえて歴代2位になるかはちょっと微妙です。

今週の11週首位で、テイラーが達成した記録をもう一つご紹介。テイラーはこれで『Fearless』(2008/11/29, 12/27-2009/2/7, 2/28-3/14首位)、『1989』(2014/11/15-29, 12/13-20, 2015/1/3-24, 2/14-21首位)に続く11週首位のアルバム3枚目ですが、史上11週以上1位のアルバムを3枚以上持ってるのは、ビートルズ(1964年『Meet The Beatles!』11週、『A Hard Day’s Night』14週、1967年『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』15週、1969-70年『Abbey Road』11週)、ホイットニー・ヒューストン(1986年『Whitney Houston』14週、1987年『Whitney』11週、1992-93年『The Bodyguard』サントラ盤20週)に続く3組目のアーティストとなったんです。こうなってくると来週の激突、そして再来週のエミネムとの激突が今から楽しみですね。

"Megan" by Megan Thee Stallion

一方、先週唯一テイラーと互して戦う可能性あり、とコメントしていたミーガン・ザ・スタリオンのサード・アルバム『Megan』ですが、初週出力64,000ポイント(うち実売16,000枚)というほぼほぼ前作『Traumazine』(2022年4位)並の出力に留まって初登場3位止まりでした。先行シングルで初登場1位を飾った「Hiss」のリリースから半年経ったこのタイミングでのリリースということで、直近のシングル「Boa」(39位)も不発のそしりを免れない中、やや伸び悩んでしまってます。それでも3位ですから上々の初動ではあるんですが。なお今回からデビュー以来のレーベル、1501サーティファイドと袂を分かって、自前のレーベルからのリリースで勝負してます。

内容的には、彼女一流のオープン・フェミニズムを基調にした小気味のいいフロウで迫ってくる作風は顕在で、サウンド面もグウェン・ステファニWhat You Waiting For?」をサンプルした「Boa」や、ジューシーJプロデュースでUGK(懐かしい名前です)をフィーチャーしたエモなサザン・ラップ風の「Paper Together」、去年から旬のヴィクトリア・モネと組んだR&Bテイストの「Spin」、更には彼女に取っては妹分的なグロリラとの「Accent」などなど、それなりに気合いを入れていろんなスタイルを聴かせてくれてます。しかし今回それよりも話題なのは、従来より日本/アニメびいきで有名なミーガンが、日本人MCの千葉雄喜をフィーチャーしてミーガンも一部日本語でラップしてる「Mamushi」と、皆さんご存知アニメの『呪術廻戦』のジングルやUS版声優のセリフが入った「Otaku Hot Girl」の日本好みを前面に押し出した2曲が収録されていること。特に前者での千葉雄喜(彼は以前KOHH名義で活動していて、フランク・オーシャンの「Nike」やマライア・キャリーの曲に客演)でのフィーチャーのされ方はほぼミーガンとタメで、フロウは全面的に日本語だし、これはかなりの露出ですね。そういえば確か2019年のフジロックKOHHを見たのを思い出しました。

"Cowboy Carter (Vinyl Deluxe Version)" by Beyonce

今週のトップ10内初登場はミーガンだけなんですが、今週圏外50位から10位に急上昇、トップ10に復帰してきてるのがビヨンセの『Cowboy Carter』。これは今回リリースされたヴァイナルLPのデラックス・バージョンの売上(23,000枚)によるもののようです(ポイントは39,000ポイント、実売は24,000枚ですからほぼ全てのポイントはこのLPセールスですね)。

"C,XOXO" by Camila Cabello

一方圏外11〜100位に目を向けると今週は6枚のアルバムが登場。まず圏外トップでチャートインしてきたのは、カミラ・カベロ(今更でなんですが、スペイン語読みだとカベーヨのはずですけど、日本のメディアはカベロ表示なのでこちらに合わせておきます)の4作目のアルバム『C, XOXO』、13位初登場でしたからその前3作がすべてトップ10だったのに今回トップ10入を惜しくも逃してます。アルバム・タイトルの「XOXO」はアメリカ人が手紙やメールで最後にキスマーク代わりに書くサインですよね。カミラからのキスマーク入りのご挨拶、といったところでしょうか。

前作『Familia』(2022年10位)の時に、「ロサリアのブレイクに影響を受けたらしく、それまでのカミラらしいメインストリーム・ポップ路線は維持しながらもスペイン語楽曲を取り入れて自分の出自(彼女はキューバ出身)に寄り添ってる」と書いたんですが、今回は「寄り添ってる」どころではなくて一気に行っちゃってますね。あ、スペイン語系に、ではなくてロサリアのような、アバンギャルド・ポップ路線に(笑)。大体先行シングルの「I Luv It」がプレイボーイ・カーティをフィーチャーした、明らかにロサリアを意識した曲調。それもそのはず、今回のカミラのこのアルバム、そのロサリアのブレイクアウト・アルバム『Motomami』(2022年33位)を手掛けたエル・グインチョことパブロ・ディアズ・レイクサが全面的にプロデュースしてるんですわ。カミラ自身「あたしもグインチョも(もう一人のプロデューサー)ジャスパー・ハリスも変なヤツなんで、変な音楽大好きなんだよね。だからその3人でヤバいな、と思う音楽を今回やってみた」と言ってるので意図は明らかです。とはいえ、カミラのボーカルは涼し気なコントラルトなんで、結構アバンギャルドにハイパーにやってても、リル・ナズXシティ・ガールズとかのゴリゴリしたヒップホップ軍団とやっててもちゃんとメインストリーム感は残ってるというあたりが面白いところ。そして後半に収録されたドレイクと組んだ「Hot Uptown」でちゃんとコマーシャル性も確保してるあたりもソツがないな、という感じ。トップ10は逃しましたが、面白さ、という点でいうと前作よりこっちの方が上かもです。

"The Great American Bar Scene" by Zach Bryan

そのすぐ下の17位にはザック・ブライアンの新作『The Great American Bar Scene』が初登場。あれ?意外と今回は売れてない?と思ったあなた、違うんです。普通アルバムリリースって、チャート集計期間の初日、金曜日リリースのパターンが多いんですが、このアルバムは今週のチャートの集計期間(6/28〜7/4)の最終日(7/4)にリリースされたんですよ。なので今週のチャートでは1日分の売上・ストリーミングしか反映してないんです。それでこの順位ですから、来週フルウィーク分のポイントが入ったらかなりの上位に来ると思うので、このアルバムについては来週解説させてください。先ほどテイラーと来週激突する可能性あり、と言っていたのはこのアルバムですが、どうなりますか乞うご期待。

"Loom" by Imagine Dragons

そのちょっと下、22位にはイマジン・ドラゴンズの3年ぶりになる新作『Loom』が初登場。今回アルバムに先行してのヒットシングルが出てるわけでもなく、コマーシャル的にどうかな、と思ってましたがそれでもちゃんとこれくらいの順位にアルバムを送りこんでくるあたり、ファーストアルバム『Night Visions』(2012年2位)と、2021年にザ・ウィークンドBlinding Lights」に破られるまではHot 100最長滞在記録を誇っていた大ヒット「Radioactive」(「Blinding Lights」もその後一昨年グラス・アニマルズの「Heat Wave」に破られましたが)が築いたファンベースはかなり底堅いものがあるんだな、という感じですね。

今回のアルバムも基本リーダーのダン・レイノルズを中心にしたバンド3人(ドラマーのダニエルは健康上の問題から現在バンドから離れてる状態)と、サード・アルバム『Evolve』(2017年2位)以降タッグを組んでるプロデューサー・チームのマットマン&ロビンで作り出す、ひたすらドラマティックでエモなシアトリカルなロック・アンセムの世界観は変わらずですが、それぞれの楽曲のサウンドの感じが従来よりかなりオルタナ寄りというか、いろんな他ジャンルの要素を微妙に取り入れてるような気がします。シングルの「Eyes Closed」なんて、聴いてるだけで疲れてきそうな(笑)エモ・ドラマティック・ロックですが、今回これのリミックス・バージョンに何と「Despacito」で知られるあのJバルヴィンをフィーチャーしているあたり、その他ジャンル要素の取り込みの試みの一環かも知れません。まあ全体悪くないですが、個人的にはもう少し肩の力を抜いた曲もあってもいいんじゃないの?(笑)と思いました。

"God Said No" by Omar Apollo

ぐーっと下がって55位初登場は、去年の第65回グラミー賞で新人賞部門にノミネートされていて、今年のフジロックでは(自分も参戦する)初日のグリーン・ステージに立つオマー・アポロのセカンド・アルバム『God Said No』。ここ数年のラテン系アーティストの台頭をバックドロップにして、メキシコ移民の両親の元にアメリカインディアナ州で生まれ育ったという環境をベースにオルタナR&Bポップのスタイルを、SMSやフェス参加などの活動を経て作り上げてきたオマーのこのセカンド、なかなか良いですね

楽曲の構成も、共演したこともあるジョージにも通じる耽美系R&Bバラードの「Be Careful With Me」や、クラシック・ロック的R&Bグルーヴ満点の「Spite」、ジョルジオ・モロダーもビックリのシーケンサー・ビートで迫ってくる「Less Of You」、そしてトーチ・ソング的なバラードの「Plane Trees」などなど、アルバム前半聴くだけでも「次は何が出てくるのか」という期待感と、その一曲一曲のクオリティが高いことによる満足感がかなり高いアルバムになってる感じ。今回は前作以上にメディアの評価も高いようですし(メタクリティック84点!)これ、フジロック参戦までかなり聴き込んで、グリーン・ステージではSZAの敵を取ってくれるような盛り上がりを楽しめるのではないか、と今から楽しみになってます。

"Keep Me Fed" by The Warning

さて、その近年のラテン・ブームのロック・ポップ・シーンへの影響ですが、また新しいアーティストが登場。59位にチャートインしてきたのは、メキシコ北部のモンタレー出身のダニエラ、ポーリナ、アレハンドラヴィラレアル・ヴェレーズ家3姉妹によるロック・バンド、その名もザ・ウォーニング(=警告)の初チャートイン・アルバム『Keep Me Fed』。この3姉妹、相当子どもの頃からバリバリのメタルなバンドをやってたらしく、10年前にメタリカの「Enter Sandman」を完コピした動画がYouTubeでかなりバズって、カーク・ハメットが感心したというツワモノらしいです。その時のバズった動画をまず見てください。

凄いっすねー。特にドラムスのポーリナの演奏がカークも含めて多くの称賛を集めて2000万ビュー超えたそうです。この評判を受けて2020年にはアトランティック系のラヴァ・レーベルとの契約を獲得、パパ・ローチブリング・ミー・ザ・ホライズンなどのプロデュースを手掛けたデヴィッド・ベンデスのプロデュースで、曲も自分たちで書いて3枚ほどアルバム出したものの売れず。今回は4作目になりますが、若手のカナダ人プロデューサーのアントン・デロストという人を起用して、曲は姉妹とアントンが基本共作、2曲ほど有名プロデューサーのマイク・エリゾンドが共作するという、心機一転コマーシャルも意識したアルバム作りが、これまで積み上げた人気と相まってこのチャートインにつながった、ということのようです。最初の動画から二十歳前後の女性ロッカーに成長した3人の存在感と実力や、堂々とした楽曲の力強さたるやあっぱれという感じ。ハードロック・メタル・ファンの間では既に有名なんでしょうが、今後要注目ですね。

"Songwriter" by Johnny Cash

今週最後、100位ギリギリの92位に初登場してきたのは、カントリー・レジェンド、故ジョニー・キャッシュ通算72作めのスタジオ・アルバムになる『Songwriter』。これで2003年のキャッシュ没後5枚目のアルバムになる今回の企画は、ちょうどキャッシュが1990年代初頭リック・ルービンと会って一連の『American Recordings』シリーズのアルバムで現代への見事な復活を果たす前の1993年に録音していたデモを発見した息子のジョン・カーター・キャッシュが、父のボーカルとギターの音だけを取り出して、これに長年キャッシュのバンドにいたギターのマーティ・スチュワートらのミュージシャン達がバンド演奏を加えてリリースしたというものらしいです。

おそらく今回の企画に当たってジョンが意識したんだと思いますが、敢えてリック・ルービンとの『American Recording』シリーズのような覚醒した、それでいて重厚な感じのサウンドではなく、基本60〜70年代のキャッシュの作品を彷彿させるような、ちょっとレトロで適当に隙間のあるサウンドで統一された感じで、カントリー・シンガー、キャッシュをじっくり味わうにはいいミックスになってるような気がします。ブラック・キーズダン・オーワバックがギターを弾いてる「Spotlight」や、ヴィンス・ギルがバックボーカルに入ってる「Poor Valley Girl」あたりはそんな中でもちょっとモダンな感じはありますが、ここで聞こえてくる歌声はあくまでもオーセンティックなジョニー・キャッシュの歌声。「Ring Of Fire」や「Folsom Prison Blues」、「I Walk The Line」といった彼の代表曲を纏めたディスク2の付いた「アイコン・エディション」も同時リリースらしいので、ジョニー・キャッシュの入門編としてはなかなか良いのではないでしょうか。

ということで今週の100位までの初登場は計7枚(うち1枚の解説は来週までお待ち下さい)。一方Hot 100の方を見ると、何と今週もポスティモーガン野郎が首位かな、と思っていたら伏兵シャブージーの「A Bar Song (Tipsy)」が何とチャートイン12週目にしてチャートを昇り詰めて首位を獲得してます。今週アルバムチャート10位に再上昇したビヨンセのアルバムにフィーチャーされたことで一気に全国区に名前が知れ渡ったヴァージニア州出身のシャブージー、そのヒップホップとカントリー、ロックなどなどジャンル横断な音楽性が独得の魅力を持ってますが、この曲もアメリカーナな感じのアコギベースのグルーヴィーなトラックに、シャブージーのアフリカン・アメリカンなボーカルが乗ってる、R&B/ヒップホップとアメリカーナの両方がツボの自分なんかは結構気にいってたんでなかなかうれしい1位です。よく考えると今年はチャートイン初ヒットがトップ10(そのうちテディ・スウィムズとこのシャブージーは見事1位)というアーティストが例年に比べて何だか多いような気がします。これってヒットチャートの新陳代謝的にはすごく健全なことですよね。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (11) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <114,000 pt/35,000枚>
2 (3) (70) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <74,000 pt/1,292枚*>
*3 (-) (1) Megan - Megan Thee Stallion <64,000 pt/16,000枚>
4 (4) (7) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<63,000 pt/9,073枚*>
*5 (6) (15) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <60,000 pt/9,503枚*>
6 (7) (182) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <44,000 pt/310枚*>
7 (5) (2) Éxodo - Peso Pluma <40,000+ pt/150枚*>
8 (10) (5) Where I’ve Been, Isn’t Where I’m Going - Shaboozey <40,000 pt/1,440枚*>
9 (11) (84) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <39,000 pt/2,665枚*>
*10 (50) (14) Cowboy Carter - Beyonce <39,000 pt/24,000枚>

余裕でテイラーが11週目の首位をキープしていた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。では恒例によって来週の1位予想(チャート集計対象期間:7/5~11)ですが、文中でもコメントしていたように、今週はザック・ブライアンのアルバムがフル・ウィーク分の売上(デジタルのみですが)・ストリーミング・ポイントが加算されるので、リリース2日目以降の出力次第ではテイラーを撃破して首位になる可能性もあり。読みは難しいですが、予想としては7:3の確率でザックが首位を取る、と見ます。ではまた来週。

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