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今週の全米アルバムチャート事情 #237- 2024/5/25付

MLBも開幕から約2ヶ月が過ぎ早くも50試合弱が消化される一方、大谷翔平選手の打撃状況は極めて好調。HRは他の選手も量産していて競争がすでに厳しいですが、打率、長打率、OPS、ヒット数の4つについてはずっとコンスタントにMLBトップを突っ走ってます。6月は大谷の調子が上がる月なので、これにHR、打点量産のアクセルが踏まれればえらいことになりそう。一方、カブスの今永は先週末、メジャーデビューから先発9試合で防御率0.84と、1981年のバレンズエラ(ドジャース)の0.91を上回る史上ベスト記録を達成。これもとんでもないことですねえ。バレンズエラはその年新人賞とサイ・ヤング賞受賞してるんで、すわ今永も?と期待は膨らみます。ダルヴィッシュも無事日米通算200勝を達成して調子も良さそうですし、今年のMLB日本選手の活躍は見てて楽しい限り。

"The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

てなことを言ってる一方、今週の全米アルバムチャート、5月25日付のBillboard 200の首位は予想に反してポイント半減どころか、わずか8%の減で今週も260,000ポイント(うち実売41,000枚)と20万ポイント台を維持したテイラーの『The Tortured Poet Department』が4週連続の首位を記録しています。デビューから4週連続20万ポイント以上、というのは2016年1月2日付チャートでアデルの『25』が4週目で825,000ポイント(うち実売79万枚!この数字もすごいですが)以来8年4ヶ月ぶりの快挙、ということになります。最近のアルバムチャート首位の必要ポイント数はだいたい10万ポイント前後なので、テイラーが20万ポイント台を維持し続ける限りは長期政権は堅い、と言いたいところですが先週金曜日リリースのあの強力なアーティストの新譜がどうも来週はテイラーを下しそうな雰囲気。詳細は後ほど。

しかしこれだけ実売枚数も、ストリーミングポイント(217,500ポイントで、オンデマンドストリーミング2.82億回相当)も高止まりしている割には、今回のアルバムや収録楽曲についてのメディア露出が前作の『Midnights』に比べるとあまり多くない気がするのは自分だけでしょうか?ちょうど今年頭に日本→オーストラリア→シンガポールと渡り歩いたテイラーエラス・ツアーも3月9日で一旦終わり、間隔をおいて今月9日からヨーロッパでのツアーが始まっていて、そこからは今回のアルバムの楽曲をセットリストに組み込んでるようです。これから夏にかけてはヨーロッパツアーが続くので、USメディアでの存在感はやや希薄になってるんでしょうけど、その分ストリーミングのニーズは高止まりしている、という構図なのかもしれません。10月からはまた北米ツアー・パートが再開するみたいなので、そのタイミングで収録曲のリミックス・バージョンとかをドロップするとまたぐっとストリーミングポイントが上がりそう。まあ当分トップ10には長期滞在することは間違いありません。せっかくだったら最近またトップ10に復活して、今週148週目のトップ10という前人未踏の記録を更新中のモーガン野郎の前作『Dangerous: The Double Album』の記録を撃破してもらいたいもんですが。

"One Of Wun" by Gunna

そして今回10万ポイントは堅そうなので、テイラーを上回って首位取るかも、と言っていたガンナの5作目『One Of Wun』は残念ながら91,000ポイント(うち実売1,000枚)と10万ポイントにも届かない出力に終わって初登場2位でした。まあそれでも出せば必ずトップ3には入れてくるというあたり、コロナ以降ポイント出力を落としてトラップメインのラッパー達がトップ10を外すパターンが増えてる中で、堂々たるものということは言えますかね。

うちのヒップホップ・ヘッズの息子が「今回はなごみ系だ」と言ってた通り、冒頭から一貫してムーディなシンセと808系のドラムビートとチキチキハイハットトラックに乗った、エモでチルなトラップ路線は確かに聴きやすい内容。ただ正直言ってどのトラックもよく似た感じで、うっかり聴き流していると今どの曲やってるのか判らなくなってしまうなんてことも(笑)。音楽メディアもおしなべて同じような評が多いようでピッチフォーク誌なんかも「ガンナ、フロウもメロディも手堅くてソツがなくてさすがだけど、正直マンネリの感あり」とレビューしているようです。それでもどのメディアもボロクソには言っておらず、批判しながら何となくガンナへの好意的なトーンも見えるのは、ガンナが今のトラップシーンではかなり愛されてるという証左なんでしょうかね。そんなモノトーンな内容の中でちょっとだけ違う雰囲気を放っているのは、ノーマニをフィーチャーしたセカンド・シングルの「$$$」と、リオン・ブリッジズをフィーチャーした「Clear My Rain」の、R&Bシンガーを配した2曲。この2曲あたりは普通のポップ系のチル・ミュージックのプレイリストに組み込んでも違和感なく聴けそうです。個人的には可もなく不可もなく、といった印象でした。

"You Won’t Go Before You’re Supposed To" by Knocked Loose

今週のトップ10内初登場はガンナの1枚のみですが、11〜100位の圏外には今週4枚が初登場してます。そのうち一番人気だったのが23位にチャートインしてきた、ケンタッキー州出身のメタルコア・バンド、ノックト・ルースの『You Won’t Go Before You’re Supposed To』。彼らに取っては前作セカンド・アルバム『A Different Shades Of Blue』(2019年26位)に続く2作目のチャートインで、キャリアベストの更新になりました。

とは言うものの、いやはやこのバンド、メタルコアというよりもただただスクリーモ!とばかりにボーカルはやたら叫びまくるし、どの曲も一様に同じようなハイスピードメタルでひたすら走りまくるというタイプで、正直自分としてはノーサンキューな感じ。普通メタルコアというと、同じスクリーム・ボーカルでも叙情的なメロディの曲が何曲かあったりするんですが、彼らの場合はメカニカル・メタルコアという感じ。しかし音楽メディアの評価は高いんですよねえ(メタクリティックで92点!)。でもファンの方すいません、自分はちょっとこのバンドはアウトですわ(笑)。

"Almighty So 2" by Chief Keef

続いて30位に初登場してきたのは10年ほど前にシカゴ・ドリル・シーンからブレイクして来たラッパー、チーフ・キーフの5作目『Almighty So 2』。ファースト・アルバムの『Finally Rich』(2012)が29位と好調にキャリアをスタートしたけど、その後インタースコープとの契約がなくなったこともあってか、3作続けて100位以下を低迷している状態だったので、今回は久々のトップ30にV字回復で復帰してます。「2」となっているのは2013年リリースのミックステープ『Almighty So』の続編という位置づけのようです。何でも2018年あたりから出すぞ、出すぞと本人が言ってて、途中先行トラックもいくつかドロップしてたようですが、恐らくコロナ・ロックダウンも影響してこのタイミングでのリリースになった模様。ただ時間をかけただけあって、今回自分のレーベルからリリースしてるにもかかわらず、ファースト・レベルのチャート成績だから良しとせい、でしょう。

ただねえ、これはシカゴドリルというジャンルの特性なのかもしれないけど、おしなべてどのトラックも暗いですねえ。この人、こんなに暗かったっけ?と思ったけど、よく考えたらファーストで2012年にブレイクしてから今回まで彼の曲はHot 100にも入ってきてなかったし(その間ヒットがらみは2020年のリル・ウジ・ヴァートBean (Kobe)」(19位)と去年のドレイクAll The Parties」(26位)にフィーチャーされてただけ)、彼自身のサウンドは今回12年ぶりくらいに聴いたことに気が付きました。よく考えたらドリル自体が、数年前にポップ・スモークがブルックリン・ドリルで盛り上がってた最中に他界して、それ以来ムーブメントとして強力な担い手がいなかったんでちょっと最近はジャンルとしてやや脇に追いやられた感がありますね。今回のこのチーフ・キーフのヒットでドリル復活なるか。

"Can We Please Have Fun" by Kings Of Leon

そのすぐ下、35位にチャートインしてきたのは、何となく懐かしい感のあるキングス・オブ・リオンのもう9作目になる『Can We Please Have Fun』。世の中がやれテイラーだ、やれドレイクケンドリックのビーフだ、と騒いでる中で何となくひっそりとリリースされた感のある今回のアルバム(KOLファンの自分も新譜出たの、チャート見るまで知りませんでした)、最大の話題はここ2作ほどマーカス・ドラヴスマムフォード&サンズの一連のヒット作や、フロレンス&ザ・マシーンのプロデュースが有名)に任せていたプロデュースを今回何と、あのキッド・ハープーンに任せていること。

キッド・ハープーンといえば去年ハリー・スタイルズの『Harry’s House』の共作・プロデュースでグラミー賞受賞していたし、最近ではマギー・ロジャースの前作『Surrender』(2022)やマイリーの「Flowers」(2023)など、エレクトロ・ポップ系のサウンドメイカーというイメージだったので、この組み合わせはちょっと意外。でも楽曲を聴いてみると、特にこれまでのKOLのサウンドにエレクトロな味付けしてるとか、ポップ系に引っ張ってるとかいうこともなく、ちょっと哀愁漂うアメリカン・ハートランド系ロック、という従来のKOLのイメージそのままのサウンドが手堅く作り上げられている印象。よく言うと安心して聴ける、悪く言うと新鮮味や大ヒット作『Only By The Night』(2008)の頃のような迫りくる凄みみたいなものはあまり感じられない、そんな感じです(これから聴き込んで印象変わるかもですが)。ただ、音楽メディアの評判も悪くないですし(メタクリティック76点)、よく似たスタイルのサウンドのザ・キラーズ同様、アメリカのバンドにしては相変わらずUKでも人気で今回UKアルバムチャート2位初登場。テイラーのおかげでオリジナル・アルバム6作連続UKナンバーワンは逃しましたが、UKでの9作目のトップ3を記録してます。もう少し聴き込んで見ようっと。

"Atavista" by Childish Gambino

今週最後の初登場はぐっと下がって62位にチャートインしてきたチャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァーの『Atavista』。タイトルの最初の3文字が自分の苗字と同じだってだけで親近感が湧きますが(笑)、このアルバム実は彼の2020年のデジタル・オンリー・リリースのアルバム『3.15.20』のリローンチ盤で、もとのアルバムで数字表示だった曲名を通常の曲名に直して、更にサマー・ウォーカーをフィーチャーした「Sweet Thang」やラッパーのヤング・ヌーディをフィーチャーした「Little Foot Big Foot」など新たに曲を追加した上に、LPでもリリースした(のはずなんですが、ネットではどこ探しても見つからないんですよねえ。どこか売ってるところご存知の方、情報求む)というもの。

冒頭、「This Is America」でも共作していた映画『ブラックパンサー』のスコア作曲でも知られるルドウィッグ・ゴランソンとの共作のタイトルナンバーからしていきなりレトロなグルーヴ満点のR&Bナンバーで「おっいいねえ」と思わせると、ジャネイの「Hey Mr. DJ」使いの「Algorhythm」、そしてアリアナ・グランデのボーカルが涼し気なメロウファンク・ナンバー「Time」、そしてエレクトロなスロー・グルーヴがひたすら気持ちいい「Psilocybae (Millennial Love)」(最初のアルバムでは「12.38」というタイトルでした)などなど、エレクトロなメロウファンク・モードを基調にした無茶苦茶気持ちのいいナンバーが並んでます。いやあこれヴァイナル欲しいなあ。どこかで売ってないかなあ。

ということで今週の100位までの初登場は計5枚でした。一方Hot 100の方ではポスト・マローンモーガン野郎という、まあ今の全米では絶大な人気を誇る(それぞれ意味合いがちょっと違いますが)二人によるデュエット・ナンバー「I Had Some Help」が突如初登場1位、ケンドリック・ラマーのビーフ・トラック「Not Like Us」を首位から蹴落としています。カラオケナイトやってるカントリー・バーに現れたポスティが、この曲のファースト・ヴァースを歌ってると、何故か店から放り出されて、それをピックアップトラックに乗ったモーガン野郎が助けにやってくる、というMVのコンセプトに合わせるかのように、ステディビートなカントリーポップと、ポスティ独特のメロディ感覚のいいとこ取りをしたような曲で、まあこれは受けますよねえ。可哀想なのは「Million Dollar Baby」のトミー・リッチマンで、これで初登場2位から2週連続2位の後、今週は3位に後退。来週はあのアーティストの強力新譜リリースがチャートに反映してくるので、来週も1位は厳しいか?ではここで今週のトップ10、おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (4) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <260,000 pt/41,000枚>
*2 (-) (1) One Of Wun - Gunna <91,000 pt/1,000枚>

*3 (3) (63) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen 75,000 pt/1,506枚*>
4 (4) (8) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <53,000 pt/195枚*>
*5 (7) (175) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen <44,000 pt/504枚*>
6 (9) (77) Stick Season ▲ - Noah Kahan <41,000 pt/4,116枚*>
7 (10) (75) SOS ▲3 - SZA <38,000 pt/1,716枚*>
*8 (12) (38) Zach Bryan - Zach Bryan <38,000 pt/2,804枚*>
9 (11) (6) Fireworks & Rollerblades - Benson Boone <35,000+ pt/798枚*>
10 (8) (7) Cowboy Carter - Beyonce <35,000 pt/3,935枚*>

テイラーが余裕の4週目の首位を確保した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後はいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:5/17~23)ですが、冒頭にちょっと触れたように、来週のチャートの首位は先週金曜日にどーんとリリースされて、5/17付のSpotifyデイリーチャートのトップ10にも既に5曲チャートインしているビリー・アイリッシュの新譜がまあ間違いなく20万ポイントは出力してくるので、テイラーとかなりいい勝負になるでしょう。さすがにテイラーも来週は20万ポイントは割ってくると思うので、予想としてはビリー1位、ということにしておきましょう。その他トップ10に来そうなのはファースト以来トップ10入りを継続しているア・ブギー・ウィット・ダ・フディーの5作目ぐらいでしょうか。ではまた来週。

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