今週の全米アルバムチャート事情 #133- 2022/5/28付
ここのところエンジェルスも大谷選手もやや疲れが出て来たのか、スタートダッシュの頃の勢いにやや陰りが見えて来てたんですが、また大谷選手も月曜日に特大ホームランを打ってチームも連勝を再開しましたね。一方ゴルフでは全米プロで松山選手、星野選手共に残念な失速。次のメジャーは6月の全米オープンなので、そこでの活躍を期待したいところです。暖かくなってきてスポーツを見るのもやるのもいい季節、コロナ感染には注意しながらいい気候を楽しみたいですね。
さて今週の全米アルバムチャート、5月28日付のBillboard 200の1位は大方の予想通り、ケンドリック・ラマーの5年ぶりの新作『Mr. Morale & The Big Steppers』が295,500ポイント(うち実売35,500枚)という今年最大のポイント数を叩き出して堂々1位初登場を果たしてます。これで先々週のフューチャー(222,000ポイント)、先週のバッド・バニー(274,000ポイント)に続いて3週連続20万ポイント超えを達成、今年に入ってからは10万ポイントをも下回る1位のポイント数で推移していたアルバムチャートが一気に活性化してきた感があります。今回のケンドリックのこのポイント数、前作のピューリッツァー賞にも輝いた『DAMN.』(2017年1位4週)の初週ポイント数(603,000ポイント)には遙かに及ばなかったですが、昨年12月のアデル『30』の初週ポイント(839,000ポイント)以来の最多ポイント数なので、まあ堂々1位と言っていいでしょう。
今回のリリースは今のところデジタルとストリーミングのみなので、実売の35,500枚というのも全てデジタルオンリーの売上。5月27日にはCDがリリースされるそうなので、来週はまた別の大型アルバムに1位は譲るとして、再来週には力強く1位返り咲きすることが早くも予想されてます。肝心のヴァイナルですが今のところリリース・スケジュールが不明とのことで、しばらくはデジタルとCDで聴くしかなさそう。で、先週末からさっそくストリーミングで何度か通して聴いた最初の印象は「これ、多分最初の『good kid, m.A.A.d city』以来一番サウンドとしては聴きやすいアルバムだな」ということ。事実、UKのR&Bシンガーのサンファをフィーチャーした「Father Time」や、サマー・ウォーカーと懐かしやゴーストフェイス・キラーを配した「Purple Hearts」といった最初のBig Steppersセクションの何曲かは、オーガニックなR&B的トラックにオールドスクール的なサウンドビットを配した、トラックだけで僕らみたいなオールドスクールなヒップホップ・ファンの気分を高揚してくれる。
しかし一方で5分間を通じて黒人の男女がN***aとB***hというカースワード付で怒鳴り合う「We Cry Together」はギョッとする一方、不思議なシアトリカルさがあるし、「Auntie Diaries」ではトランスジェンダーになった自分の伯母さんと従兄弟のことをラップして、そうした人々への差別を糾弾してるし、更には静謐なピアノのみのトラックをバックに、何と90年代に異彩を放ったUKのトリップ・ホップ・バンド、ポーティスヘッドの女性ボーカルのベス・ギボンズを配して、黒人家庭内での虐待の告白と告発、そしてそこからの救いを求める「Mother I Sober」など、リリックを読み込むとアルバム中盤から後半にかけてはかなりヘヴィーな内容に気持ちが重くなるが、深く考えさせられるトラック満載で、メディアの評価がほとんど軒並み大絶賛なのもうなずける、そういう作品。
アルバムの最後「Mirror」があの映画『Black Panther』の主題歌「All The Stars」を思わせるようなアップリフティングなナンバーなのが救われる感じだけど、このトラックにしても「自分の本当の姿を直視しろ」というメッセージ曲。ジャケに写る、自分の子供を抱いて頭に茨の冠を被るケンドリックの姿に象徴されるような、本作に込めた彼の思いはアルバムを通じて随所からあふれ出ている。このアルバムは更にリリックを読み込みながら繰り返し聴く必要ありそうだし、間違いなく今年を代表する一枚になるね。さあ、来年のグラミーで最優秀アルバム、いよいよ取れるかな?
思わずケンドリックの力のこもった新譜に筆が走って長くなってしまいました。今週2作目のトップ10内初登場は、当初リリース・スケジュールになく、虚を突かれる格好でいきなり4位に初登場してきた、またしても来たかKポップ!というトゥモロー・バイ・トゥゲザー(TXT)の5枚目のEP『Minisode 2: Thursday’s Child』(68,500ポイント、うち実売65,500枚で今週のアルバム・セールス1位です)。去年の9月に5位に初登場したアルバム『The Chaos Chapter: Freeze』に続く2作目のトップ10アルバムとなったこの5曲入りEP、前回の『The Chaos Chapter: Freeze』の時もそうだったんですが、いろいろ調べてもリリースは5/9で、今回のチャート集計対象期間前のはず。何で今週のチャートに初登場してんだ?うーんわからん。
SMエンターテインメント所属でBTSの弟分バンド的な彼ら、BTSの明るくて誰からも愛されるようなキャラ(注:USブレイク以降)のアンチテーゼっぽい、ちょっとダークでワルっぽいイメージが人気あるようでして。そして今回もKポップマーケティングの常で、8種類のジャケ違い、フォトカード等の同梱グッズのバリエーションでファンにCD買わせるようにやってるのが、セールス爆発の要因ですね。このやり方、いつまで続くんでしょうか。
続いて先週予想通り7位に初登場してきたのは、4年ぶりの新作となるフローレンス+ザ・マシーンの5作目『Dance Fever』(54,000ポイント、うち実売42,500枚で今週TXTに次ぐアルバム・セールス第2位)。今週本国UKでも、ケンドリック・ラマーを押さえて堂々通算4枚目のナンバーワンアルバムを獲得したこのアルバムからは、既に「My Love」が先行シングルとしてリリースされてて、アダルト・オルタナティブ・ソングス・チャートでは今週1位に返り咲いて通算3週1位(5/7-14、28付チャート)を獲得するなど、リリース前から各方面の期待の高かった作品で、メディアの評価もメタクリティックの85点に代表されるように、軒並み高くなってます。
彼女のデビュー・アルバム『Lungs』(2009)はいろんな意味で女性ボーカルによるインディ・ロックの可能性を示してくれた画期的な作品だったし、そこでプロデューサーとしてのキャリアを大きく広げたポール・エプワースが、その後アデルやロード、フローレンスのフォロワー・バンドとも言えるロンドン・グラマー、そして最近ではグラス・アニマルズらを手がけるUKを代表するプロデューサーの一人に育ったという意味ではシーンに大きな影響力ある作品だったと思います。一通り聴いたところファーストで提示されていた、コンセプチュアルで、アーティーで、アンセミックな、ビートの効いたケイト・ブッシュ的な音楽的世界観は今回の作品でも健在。そして今回のアルバムでは、ここ数年テイラーやラナらの作品を多く手がけて、今年のグラミーでは3度目のノミネートで見事最優秀プロデューサーを獲得したジャック・アントノフが過半数の楽曲で作曲とプロデュースに関わっているのも目を引くところ。ケンドリック・ラマーとは違った意味で今年前半を代表する作品となるような、少なくとも個人的にはそんな感じを持ってます。
そして今週4枚目のトップ10初登場は、これも先週予想で想定されていた、ブラック・キーズの通算11作目『Dropout Boogie』が33,000ポイント(うち実売27,500枚)が8位に初登場しています。彼らがミシシッピ・デルタ・ブルースをトリビュートしたブルース・カバー・アルバム『Delta Kream』で6位初登場を決めていたのがちょうど1年前の今頃なので、今回はインターバルを開けずに新譜を投入してきたことになります。こちらもUKでも人気高く、今週アルバムチャート5位初登場。そしてこちらも先行シングル「Wild Child」が好調で、先月から今月にかけて先ほどのフローレンス+ザ・マシーンの「My Love」と交互にアダルト・オルタナティブ・ソングス・チャートの1位を取っていてこちらは先週まで通算4週1位を記録、更にオルタナティブ・エアプレイチャートでは先週まで2週1位記録してました。
今回はいつものブラック・キーズのブルースとR&Bをベースにしたブギー・スタイル(ダンクラという意味ではないです、念のため)のオルタナティブ・ロックをぶちかましてくれていて、ブラック・キーズ・ファンには納得の出来になってますね。今やロイヤル・ブラッドと並んで強力ツーピース・バンドのブラック・キーズ、これから夏に向けて7/9のラスベガスを皮切りに、9/30-10/2のメンフィスでのフェス出場を含め全米33カ所のツアーに突入します。彼らも一度生で見てみたいバンドですね。来年フジロックに来ないかなあ。
ということで4枚初登場と、何とも賑やかで重厚な顔ぶれが躍動している今週のトップ10ですが、圏外11位から100位までの初登場は今週はわずか2枚のみ。その一つが、61位に初登場しているローリング・ストーンズの『Live At The El Mocambo』。これ既にストーンズ・ファンのみならず、シニアなロックファンの間ではリリース前から評判になってましたね。カナダはトロントの有名ライブ会場、エル・モカンボでストーンズが、1977年にザ・コックローチズ(ゴキブリw)名義で、ハードロック・バンドのエイプリル・ワインの前座としてサプライズ・ライブを行った時の音源をまとめたライブ盤。CD2枚組、ヴァイナル盤は4枚組で、通常の黒盤の他、4色ネオンカラーの特別盤も出たということで飛びついたシニア・ロック・ファンの人も多いのでは。
音源のうち4曲ほどは既に1977年のライブ盤『Love You Live』(全米5位、全英3位)に収録されてますが、このライブにはこの後ミック・ジャガーと付き合うことになる、当時のカナダのトルドー首相夫人が観に来ていたという曰く付きのイベント(その後トルドー首相夫妻は離婚w)だけに、歴史的価値もかなり高い音源、まあ買って損はないということでしょう。今週全英でも24位に初登場。
そして今週もう一つの圏外初登場は、92位に登場してきた、カリフォルニア出身のラテン系アメリカ人ポップシンガー、ベッキーGの2作目『Esquemas(スキーム、という意味のようです)』。彼女にとっては2019年のファースト『Mala Santa』(85位)に続く2枚目のチャートイン・アルバムになってます。
2014年にDr.ルーク作・プロデュースの「Shower」(Hot 100最高位16位)でいきなりブレイクした後はポップチャートでは影も形もなく、もっぱらラテン・チャートにいくつかチャートインしていた程度でしたが、今年に入って、コロンビア出身の女性レガトン・ラッパー、キャロルG(Gつながりですな)とのコラボ・シングル「MAMIII」(「Despacito」を思わせるようなダンスホール風哀愁ラテン歌謡です)がラテンチャートで大ヒット。これがポップチャートにも飛び火して15位を記録、彼女にとって2曲目にして最大のヒットに。その「MAMIII」を収録して満を持してリリースしたのがこの『Esquemas』というわけです。しかしこの後ヒットが続くか、それは不明ですねえ。
ということで今週のトップ10ならびに圏外100位までの初登場は以上6枚。ここでいつものように今週のトップ10おさらい行ってみましょう。しかし初登場以外で順位を下げながらなお星付けてるモーガン・ウォーレンのこの強さは何なんでしょうね(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) Mr. Morale & The Big Steppers - Kendrick Lamar <295,000 pt/35,500枚>
2 (1) (2) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <182,000 pt/2,475枚*>
3 (2) (3) I Never Liked You - Future <89,500 pt/729枚*>
*4 (-) (1) Minisode 2: Thursday’s Child (EP) - Tomorrow X Together <68,500 pt/65,500枚>
*5 (4) (71) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <55,500 pt/1,436枚*>
6 (3) (2) Come Home The Kids Miss You - Jack Harlow <55,000 pt/1,080枚*>
*7 (-) (1) Dance Fever - Florence + The Machine <54,000 pt/42,500枚>
*8 (-) (1) Dropout Boogie - The Black Keys <33,000 pt/27,500枚>
9 (5) (52) Sour ▲3 - Olivia Rodrigo <32,000 pt/7,000枚>
10 (7) (10) 7220 ● - Lil Durk <29,000 pt/64枚*>
というところで今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。なかなか今週は盛り上がったチャートでしたね。さて最後はいつもの来週の1位予想。ケンドリックも初週ポイントが30万を超えてくるようだと、来週1位キープも可能性あったんですが、このポイントだとなかなか微妙です。来週のチャート対象期間、5/20-26のリリース作品だと何といっても5/20にリリースされたハリー・スタイルズの新譜、これが英米でガツーンと1位に来るのはまず間違いないところでしょう。多分最低20万ポイントは堅いところだと思います。ではまた来週。
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