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今週の全米アルバムチャート事情 #205- 2023/10/14付

いよいよMLBのポストシーズンもスタートし、今週はアメリカン、ナショナル・リーグ共にディヴィジョン・シリーズで連日激戦を展開中ですね。日本人選手がいるチームはオリオールズツインズだけでしたが、ディヴィジョン・シリーズのロスターから外れてしまった藤浪投手所属のオリオールズは早々と敗退、あとはこのシリーズでもう一回ツインズ前田健太投手の登板があるか、というのが一つ興味のポイントになりそうです。今年もフィリーズブレーブスを叩くのか、ダイアモンドバックスが6年前にやられたドジャーズを叩いて2007年ぶりのチャンピオンシップ・シリーズに進出するのか?いずれにしてもしばらく野球漬けの日々になりそう。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて今週10月14日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが、先週の予想ではエド・シーランが今年2枚目の新譜で1位を取るのでは、と言ってましたが思ったよりポイントが伸びず、先週まで1位だったロッド・ウェイヴオリヴィア・ロドリゴが軒並みポイントを落とす中、何とポイントを対先週比2%あげてきたモーガン野郎の『One Thing At A Time』(74,500ポイント、うち実売2,000枚)がそれこそ消去法的に、何と14週ぶりに首位に返り咲き、通算16週目の1位を記録してしまいました。こんだけ低いポイントで1位を取るのは、去年5月に55,000ポイントで1位になったプッシャTの『It’s Almost Dry』以来のこと。先週1位だったロッド・ウェイヴも88,000ポイントと10万ポイント割れでしたから、先週今週とちょっと強力新譜枯れの状況の中で、モーガン野郎がまんまと漁夫の利を得たということになります。

正直モーガン野郎のこのアルバムについてはもうあまり書くこともないんですが(笑)それにしてももう16週も1位(カントリー・アルバム・チャートは通算25週で1位継続中)を記録していながら、未だにRIAAのゴールド・レコードの認証すらされてないのもある意味特異ですね。要はデジタルで楽曲をダウンロードしたり、CDやヴァイナルなどのフィジカルを買う人は少なくて、ただただカジュアルなストリーミング・リスナーが大半を占めてるのが明らかというわけで。前作の『Dangerous: The Double Album』はそれでもリリースから半年でプラチナ(100万枚売上)認定されてたんで、先月3日でリリースから半年を過ぎたこの『One Thing At A Time』のストリーミング依存度は前作に増して大きいことになります。まあ、どうでもいい話ですが。

"Autumn Variations" by Ed Sheeran

それより残念だったのは62,000ポイント(うち実売46,500枚で今週のアルバム・セールス・チャート1位)で初登場4位に終わったエド・シーランの『Autumn Variations』。本国UKでは当然のごとく初登場1位で、これでエドアルバム7作連続UKアルバム・チャート1位を達成してます。このアルバム、ある意味コンセプト・アルバムらしく、エドがお父さんから教えてもらったクラシックの作曲家、エルガーが作った『エニグマ変奏曲(Enigma Variations)』(1899)が、いずれも異なる友人についての曲14曲で構成されていることにヒントを得たとのこと。その関係もあってか、このアルバムリリース数日後にリリースされた『ファン・リビングルーム・セッションズ・エディション』では収録曲を14人の異なるファンのリビングでエドが演奏するバージョンが収録されてるらしいです。

何曲か聴くとすぐ気が付くのは、収録された14曲のどれもがシンプルな楽器演奏(アコギ、ピアノ、控えめなシンセなど)と、題名通り秋らしい雰囲気を湛えたオーケストレーション・アレンジなども交えて演奏されていて、この5月にリリースされた『- (Subtract)』で見せてくれたメランコリックな路線のある意味延長ではありますが、もっとミニマルなサウンドスケープで統一されているのがある意味印象的です。その前作同様、今回もザ・ナショナルアーロン・デスナーと「Blue」以外の全曲を共作してプロデュースをアーロンが担当していて、前作での共同作業がエドに取ってはかなり気持ち良かったんでしょうねえ。ここでもエドが自然に歌ってる感じがよくて、「American Town」など、ところどころファーストの頃の瑞々しさが感じられるのがいいですねえ。この時期にピッタリです。ただこのアルバム、音楽メディア関係の評価は今一つ。まあそれは置いといて、秋の夜長にゆっくり聴くには絶好の一枚だと、自分は思います。

"20 Number Ones" by Thomas Rhett

さて今週トップ10の初登場はエド・シーランのみですが、圏外11位〜100位には7枚の新譜が登場してます。そのうち一番上に来ていたのが、22位初登場、カントリーのトーマス・レットのベスト盤『20 Number Ones』。その名の通り、彼のカントリー・チャートでのナンバーワンヒット20曲を集めたという触れ込みなんですが、このナンバーワンというのはカントリー・ソング・チャートではなく、カントリー・エアプレイ・チャートのナンバーワン、ということらしいです(ソング・チャートの1位は2015年の「Die A Happy Man」(Hot 100では21位)と2020年の「What’s Your Country Song」(同29位)の2曲のみ)。

しかもさらに看板に偽りありで、ここに収録されてるうちの2曲、リバ・マッキンタイアキース・アーバンらとの共演シングル「Be A Light」(2020, Hot 100 42位)と「Slow Down Summer」(2021, 同43位)はどちらもカントリー・エアプレイチャートでも2位の曲。まあ堅いことは抜きにして、ファンにとっては楽しめる1枚でしょう。

"Mor, No Le Temas A La Oscurida" by Feid

続いて31位に登場したのは、南米コロンビア出身のアーバン・ラテン・シンガー、ファイド(本名:サロモン・ヴィヤーダ・ホヨス)初の全米トップ100アルバムとなった『Mor, No Le Temas A La Oscurida』。タイトルは「MOR(人名?)、暗闇を怖れるな」という意味ということで、こういうジャケになってるんですね。同郷の先輩、Jバルヴィンバッド・バニーの後を追ってブレイクしてきたレガトン・シンガーという感じで、アルバムの楽曲を聴く限りなるほどいかにも今どきのR&B/ドリーミー・ポップ的サウンドでレガトンやってる、いかにもアメリカのラテン系若者達に受けそうな感じ。

まだクロスオーバーの大ヒットはないんですが、Hot 100では昨年「Normal」が42位まで上がるヒットになってたのが、彼の知名度を上げたに違いなく、今回のこのアルバムのブレイクに繋がったと思われます。レガトンというと結構テンション高く叩きつけてくるような歌唱スタイルのアーティストもよくいますが、彼のスタイルはバッド・バニー同様「まったり」レガトン。聴いてると気持ちがちょっとゆったりしてくる、そんなところも受けてるのかもしれません。

"Tha Fix Before Tha VI" by Lil Wayne

40位には、リル・ウェインが現在取り掛かってる次のメジャー・アルバムの期待も高い『Tha Carater VI』のおそらくアウトテイク集と思われるミックス・テープ『Tha Fix Before Tha VI』が初登場してます。

とはいえ、冒頭からこの間初来日公演で評判を呼んだジョン・バティーストのピアノをフィーチャーしたオープニングの「Act Up」を聴いていると、えらくドラマティックなトラックに乗ってスリリングなリル・ウェインのフロウが聴けるという、なかなかアウトテイクにしては完成度高いクオリティ。「Kat Food」や「To The Bank」など既にスポティファイで人気集めてるトラックなんかもリル・ウェインのスキルが目一杯発揮されてて、この感じだと本番の『Tha Carter VI』はかなり凄い内容になりそうだな、と思いました。

"Cousin" by Wilco

ぐっと下がって65位には、孤高のアメリカーナ・ロック・バンド、ウィルコの通算13作めになるスタジオ・アルバム『Cousin』が初登場。自分たちの出自の一つであるカントリー・ミュージック的側面を掘り下げた前作『Cruel Country』がチャート的にはまったく振るわなかったので(190位)このままウィルコもフェードアウトしちゃうのかなあ、と思ってたところに届けられたこの新譜、これが結構凄いんです

オープニングからノイズの雨が降ってくる「Infinite Surprise」でまず思い出したのがあの名盤『Yankee Hotel Foxtrot』(2001年13位)。2曲め、うって変わってシンプルながらヒリヒリした緊張感ある「Ten Dead」、ポップなメロディとは裏腹に不安感を醸し出すようなコーラスやバックのビートに乗るジェフ・トウィーディ―のボーカルが耳に残る「Levee」など、『Yankee〜』がそうだったように、微妙にアバンギャルドなサウンドスケープが散りばめられ、楽曲構成も微妙に予定調和を外してて、でもそんなの関係ないわ、的にジェフが淡々とボーカルを載せてる、そんな感じ。シングルリリースされた「Evicted」は一転初期のウィルコを思わせる瑞々しさで、新たな「Jesus, Etc.」的定番ナンバーとして今後ライブでも繰り返し演奏されるだろうな、と思わせる素晴らしさ。今回始めてプロデュースにウィルコジェフの名前がなく、アンダーグラウンドなオルタナ・ロック・シーンで名を知られたケイト・ルボンデュランデュランサイモン・ルボンをオマージュした芸名のようです)にプロデュースを任せたジェフ、その試みが成功してるみたい。これ、自分の年間ベスト・アルバム・ランキングの上位に来る予感大です

"Golden Age: The 4th Album" by NCT

さて、来週はNCT 127をはじめKポップのリリースがいくつかあってトップ10に飛んで来そうな感じがあるんですが、今週一足早くNCTの4枚めのフルアルバム『Golden Age: The 4th Album』が66位に入ってきています。

本国韓国では8月末にリリースされたこのアルバム、先週のリリーススケジュールには名前がなかったし、正式リリースへの反応にしては順位が低いので、どうも韓国からのインポート盤をNCTのアーミーがガッと買いに行った結果、この順位に入ってきた、というような状況なんじゃないかと思いますが、この辺の事情に詳しい方、ぜひご教示下さい。内容的には王道メインストリームポップ路線にR&B/ヒップホップ風味がほどよく振りかけられてるって感じです。

"A Symphonic Celebration: Music From The Studio Ghibli Films Of Hayao Miyazaki" by Joe Hisaishi / Royal Philharmonic Orchestra

そして今週一番ビックリしたのが、74位に初登場してきた久石譲とイギリスのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の共演によるクラシック・アルバム『A Symphonic Celebration: Music From The Studio Ghibli Films Of Hayao Miyazaki』。そう、久石といえばジブリ、ということで「となりのトトロ(My Neighbor Totoro)」「風の谷のナウシカ(Nausicaä Of The Valley Of The Wind)」「千と千尋の神隠し(Spirited Away)」などなど、ジブリ主要作品のおなじみのスコア楽曲をクラシック作品としてリリースしたもの。

このアルバム、7月にクラシックの名門レーベル、ドイツ・グラモフォンと契約した久石譲がリリースしてビルボード誌のクラシック・アルバム・チャートでは既に1位を記録してたもので、今週おそらくストリーミング・リリースがあった関係でこちらのチャートにも飛び込んで来たんじゃないかと。これを受けて今週のクラシック・アルバム・チャートでは先週11位から1位に返り咲き、2週目の1位を記録してます。いやあ何だかうれしいですね。これで今週の全米アルバム・チャート100位内に日本人アーティストがらみのアルバムが2枚(もう一枚は中本悠太が所属してるNCTのアルバム)も登場してることになります。先々週はミツキのアルバムも登場してたし。グローバル・チャートで快進撃を続けているYOASOBIなんかも全米アルバムリリースをすればチャートインしてくるんでしょうか。楽しみではあります。

"Gangsta Art 2" by V.A.

そして今週100位までの最後の初登場は、78位に入ってきた、メンフィス・ラップ・シーンの大立者、ヨー・ゴッティ率いるCMG(コレクティブ・ミュージック・グループ)の所属アーティストのコンピレーション・アルバム・シリーズ第2弾『Gangsta Art 2』。シリーズ第1弾は去年11位を記録して惜しくもトップ10を逃してたんですが、今回はこの順位。

今回も御大ヨー・ゴッティをはじめ、レーベル配下のマニーバッグ・ヨ、ESTジー、42ダッグ、そして最近ブレイクしたグロリラとトラップ軍団によるトラック満載ですが、前回一人R&Bバラードで場を和ませてくれてたリーラ・サミア、今回は「You Want It」でアーリヤ風に迫ってくれててなかなかグッドです。

ということで今週のアルバムチャート100位までの初登場は合計8枚。一方Hot 100の方に目を向けると、今週もドジャの「Paint The Town Red」が通算3週目の1位をキープしているちょっと下の5位にBTSジョングクジャック・ハーロウの共演シングル「3D」が初登場、7月に初登場1位を果たしたラットとの「Seven」に続く2曲めのトップ5入りを果たしてます。最近ではレディ・ガガビヨンセ、ちょっと前はヴァンパイア・ウィークエンドポスティの楽曲を手掛けてた21世紀注目のソングライター/プロデューサー、ブラッドポップがメインで作曲/プロデュースしてるこの曲、90年代R&Bっぽいアップでキャッチーなナンバーでなかなかいい曲です。来月にはソロ・アルバムリリース予定のジョングク、アルバムチャートでも暴れてくれそうですね。では今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (3) (31) One Thing At A Time - Morgan Wallen <74,500 pt/2,000枚>
2 (1) (3) Nostalgia - Rod Wave <71,000 pt/334枚*>
3 (2) (4) Guts - Olivia Rodrigo <67,000 pt/15,484枚*>
*4 (-) (1) Autumn Variations - Ed Sheeran <62,000 pt/46,500枚>
5 (5) (6) Zach Bryan - Zach Bryan <59,000 pt/889枚*>
6 (6) (43) SOS ▲3 - SZA <48,000 pt/2,280枚*>
*7 (7) (10) Utopia - Travis Scott <46,000 pt/5,184枚*>
*8 (10) (50) Midnights ▲2 - Taylor Swift <43,000 pt/7,719枚*>
9 (4) (2) Scarlet - Doja Cat <41,000 pt/1,062枚*>
10 (9) (15) Génesis - Peso Pluma <41,000 pt/89枚*>

何だかモーガン野郎がラッキーしちゃった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:10/6~12)ですが、いやあ来週は簡単ですわ。何といっても先週金曜日にドレイクの新譜がドロップされてて、同日のスポティファイ・デイリーチャートでは、ドレイクのこの新譜からの曲が1位~19位独占も含めて全23曲が上位26位までに初登場というドカ盛り状態なんで来週の1位はドレイクで間違いなし。噂によると40万ポイント超えという勢いらしいので、この間のトラヴィスUtopia』並ですね。それ以外でトップ10来そうなのは、Kポップの(G)I-DLE、NCT 127、そして久しぶりのウィズ・カリファあたりでしょうか。ではまた来週。


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