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今週の全米アルバムチャート事情 #232- 2024/4/20付

どうやら水原氏の連邦地裁への出廷と審理の結果で大谷翔平本人の無実は明らかになり、連邦捜査当局もそれを認める方針に。やっとこれでここ数週間特にアメリカで渦巻いていた大谷選手への疑惑が晴れたのは本当に喜ばしいね。こうなったら後はプレイに120%集中して、あっと驚く記録を打ち立ててもらいたいものです。もちろんドジャーズもWS制覇を目指してもらいたいけど、まずは大谷選手初のプレイオフ進出を楽しみに今年のMLBを見守りたいですね

"Cowboy Carter" by Beyoncé

雨に打たれてもまだちらほら桜が残ってる一方、本格的な春の陽気になってきた今週の全米アルバムチャート、4月20日付のBillboard 200の首位はやはりビヨンセの『Cowboy Carter』が2週目をキープ。128,000ポイント(対先週比69%減、うち実売20,500枚)と先週予想していた半減をちょっと上回るダウンになってて、2位の初登場アルバム(ちょっとびっくり、これについてはこの後で)に結構迫られてますので、来週入ってくる新譜の勢い次第では早くも首位交代の可能性が。ただ、現在ビヨンセのオフィシャル・サイトでのみ購入できるヴァイナル・バージョンが来週のチャート集計期間開始日(4/12)から一般のリテイラーでも購入できるようになってるので、この売上の動向如何では来週のポイントがあまり減らない(あるいは少し増える)可能性もあり、首位交代は五分五分といったところかもしれません。何しろ、自分のサイトのみの売上でも先週62,000枚を打ってヴァイナル・アルバム・チャート首位取ってたくらいなので

今週の2週目の1位で、『Cowboy Carter』はビヨンセのアルバムで『4』『Beyonce』に続いて、11年ぶりに複数週1位を記録した3枚目のアルバムになってますが、ここで過去の彼女のアルバムのチャート上での成績をおさらいしておきましょう。ポイント数は首位初週のポイントです。

* Dangerously In Love ▲6 (1位1週、2003/7/12、317,000ポイント)
* B’Day ▲5 (1位1週、2006/9/23、541,000ポイント)
* I Am…Sasha Fierce ▲6 (1位1週、2008/12/6、482,000ポイント)
* 4 ▲4 (1位2週、2011/7/16-23、310,000ポイント)
* Beyonce ▲5 (1位3週、2013/12/28-2014/1/11、617,000ポイント)
* Lemonade ▲3 (1位1週、2016/5/14、653,000ポイント)
* Renaissance ▲ (1位1週、2022/8/13、332,000ポイント)
* Cowboy Carter (1位2週*、2024/4/6-13*、407,000ポイント)

5作目『Beyonce』と6作目『Lemonade』の初週ポイント数は飛び抜けてますが、他のアーティストだとコロナ後はコロナ前に比べておしなべて出力がかなり落ちるケースが多いところ、前作『Renaissance』も今回も30〜40万ポイントを維持しているのはさすがですね。『Beyonce』以降は毎回翌年のグラミー賞最優秀アルバム部門にノミネートされてますので(それぞれベック、アデル、ハリー・スタイルズに受賞はさらわれてますが)今回もノミネートは間違いないところ、問題は4度目の正直で受賞なるか?というところですが、今回の作品のジャンル超越性や、社会的メッセージ、そしてフェミニズムを標榜する内容から言って、強力な対抗馬(今週リリースのあのアルバムが強力な対抗馬になる気がしますが…)が出てこない限り結構受賞の確率は高いような気がします。

"Might Delete Later" by J. Cole

そしてそのビヨンセに今回肉薄する115,000ポイント(うち実売9,000枚)で2位に初登場したのは、先週「ひょっとするとトップ10来るかも」と言ってた、J.コールのミックステープ『Might Delete Later(後でデリートするかも)』。先週末発表されたUKのアルバムチャートでも何と7位に初登場してたので「これはトップ10は堅そう」とは思ってたのですが、まさかあわやビヨンセと首位を争うとまでは思ってなかったのでこの勢いはちょっとした驚きです。そしてこの勢いの原動力は、先週もお伝えしたように、フューチャーメトロ・ブーミンの『We Don’t Trust You』に収録されてて今週もHot 100の1位にいる、ケンドリック・ラマードレイクJ. コールをディスった「Like That」に対抗して、ケンドリックをディスり返すトラックとして収録した「7 Minute Drill」の存在。この曲だけで集計期間初日にスポティファイで250万ストリームを記録してます。

このますます盛り上がるかと思われたディス合戦、実は思わぬ展開になってます。『Might Delete Later』をデジタル配信した翌々日に当のJ.コール本人が地元のノース・カロライナで開催された自分のレーベルのフェス、ドリームヴィル・フェスティバルのヘッドライナーのステージで「生まれてこの方サイテーにダサいことした」と言ってケンドリックに謝罪しちゃったんですわ。謝るくらいなら最初からやらなきゃいいのにね、と思うのですが「7 Minute Drill」のリリックを読むと、コールの反撃もあんまり強力でなくて「どうしようかな、何か言われたから言い返さなきゃだめかな」みたいなトーンなんで、既にヒップホップ系の音楽メディアからは批判的なコメントが出てたみたい。コールは謝罪に加えて、当の「7 Minute Drill」をストリーミングから外す指示をしたらしく、今このアルバムのうち、「7 Minute Drill」 だけ聴けない状態になってますね(YouTubeでは一部聴けるリンクあり)。ということは来週のチャートではストリーミング・ポイントがガタッと落ちるでしょうから、アルバムも急降下、ということになりそうです。何だかなあ、って感じですね。他の曲はいつものコールのテンション高いクオリティ高いトラックが結構並んでるのでこのマッチポンプ騒ぎはいかにも残念です。

"minisode 3: TOMORROW" by TOMORROW X TOGETHER

そしてその2位のコールにこちらも肉薄する107,500ポイント(うち実売103,500枚で今週のアルバム・セールス・チャート1位)で何と3位に初登場してきたのが、Kポップの5人組ボーイズ・グループ、トゥモローXトゥゲザー(TXT)の『Minisode 3: TOMORROW』。彼ら初の全米ナンバーワンとなった『The Name Chapter: Temptation』(2023)に始まる初週10万ポイントの出力を今回も維持してます。今週みたいにビヨンセとかJ.コールとか大御所がいない週だったら充分1位を狙える出力だったんですが今回も前作同様3位止まりでした。

今回も前2作以上に、初期のエッジの立ったヒップホップよりのスタイルから、思いっきり80〜90年代メインストリーム・ダンス・ポップの線に寄せた楽曲7曲(1曲は7秒のインタールードなので、実質6曲)が並んでます。シングルの「Deja Vu」や「Miracle」なんて本当に王道メインストリーム・ダンス・ポップ!って感じで横で聴いてたKポップファン(彼女はEXOのファン)のカミさん曰く「これだったらKじゃなくていいじゃん」(笑)。まあそれでも相変わらず日本でも人気が高いようで、今年の紅白あたりTXTが出場、なんてことも予測させる(悪く言えば)マスプロ路線を突き進むTXT。あとはそろそろ2枚目の全米ナンバーワンを達成したいところでしょうね。

"Fireworks & Rollerblades" by Benson Boone

一方こちらは予想通り58,000ポイント(うち実売4,000枚)で堂々6位に初登場してきた、現在「Beautiful Things」がHot 100で大ヒット中、西海岸はワシントン州モンロー(シアトルから北東40kimの都市)出身、若干21歳ベンソン・ブーンのデビュー・アルバム『Fireworks & Rollerblades』。なかなか相次ぐ初登場1位曲に阻まれて1位にたどり着けない「Beautiful Things」は、久しぶりにエモでシャウト系ポップ・ロック曲でなかなか気に入ってます。同じようにスリーパーヒットになっていたテディ・スイムズLose Control」も1位を決めたことだし、テディ同様、今年第1四半期のワーナー・レコードのレーベルシェア1位(従来はユニバーサルの一人勝ち)に大いに貢献したベンソン君にも来週くらいには1位をゲットしてもらいたいものです(既にUKでは1位取ってますしね)。

3年位前の『アメリカン・アイドル』にもコンテスタントとして参加したこともあるらしいですが、彼のブレイクは、彼が自分のオリジナルを歌ってるビデオをTikTokにアップしていたのを、今所属しているナイト・ストリート・レーベルのオウナー、イマジン・ドラゴンズダン・レイノルズが見留たのがきっかけらしいです。確かにイマジン・ドラゴンズにも通じるような、エモで力強いロック・サウンドを軸に力強く歌い上げるベンソン君の楽曲とそのスタイルは、イギリスのサム・スミスダーモット・ケネディあたりも思わせますが、彼の場合はエモといってももう少しマッチョ寄りの感じがちょっと70年代や80年代のクラシックな感じもあります。ちょっと褒めすぎかもしれませんが、初期のエルトン・ジョンを思いっきりコンテンポラリーなメインストリーム・ロック寄りにしたようなというか。この勢いが続くか興味を持ってウォッチしていこうと思います。

"Bryson Tiller" by Bryson Tiller

さて思わぬ高位置での初登場ラッシュになったトップ10ですが、今週は11位以下圏外100位までの初登場も合計8枚といつになく賑やかです。この11位以下圏外に8枚初登場というのは、昨年9/30付チャートで9枚初登場して以来の大量初登場。最近1枚とか2枚とか、年末なんか4週連続ゼロ、なんて週もありましたからね。ただ本来ならトップ10に入ってきてもおかしくない作品も何枚かトップ30止まりになってるのもあるのが気になるところ。ということでちょっと走り目に行きます。まず12位初登場と惜しくもトップ10を逃したのは「トラップソウル」なるニッチジャンルを標榜して10年ほど前に登場したR&Bシンガー兼ラッパーのブライソン・ティラーの4作目『Bryson Tiller』。彼も前の3作はいずれもトップ10(セカンドの『True To Self』(2017)は全米ナンバーワン)でしたから、彼もコロナ後に出力を落としてしまっているアーティストの一人のようです。

ブライソン・ティラーっていうと個人的にはかなりニッチなイメージが強くて「ヒット曲って何だったっけ?」と調べると、実はDJキャレド・フィーチャリング・リアーナの、あのサンタナMaria Maria』使いの「Wild Thoughts」(2017年2位)にフィーチャーされてたのが最大ヒットだったりする人で、まあそういう立ち位置の人ですよね(笑)。今回はコロナ期に手をつけていたアルバム制作を棚上げにして(サンプルのクリアランスを待ってたらなかなか取れなかった、というのも理由らしい)その代わりに昨年はサウンドクラウドにデトロイト・ラップにインスパイアされたミックステープを3作続けてアップしたりしてたらしいです。その中の一曲、自らラップしまくる「Whatever She Wants」(Hot 100 19位)がTikTokでバズったのがきっかけで今年になって久々のピンのヒットになったんで、それも収録して今回のアルバムリリース、という運びになったようです。多分アルバムのそれ以外の売りは今旬のヴィクトリア・モネが参加してDマイルが共作・共同プロデュースしてる「Persuasion」なんですが、全体トラップのビートがやや鼻についてちょっと自分的にはイマイチでした。それにしてもこのジャケの怪しい「千古不易(永遠に変化しない、の意)」という漢字熟語は何なんでしょうかw

"Found Heaven" by Conan Gray

続いて14位は日米ハーフの新世代ポップ・シンガーソングライター、コナン・グレイの3作目『Found Heaven』。彼もやはり前2作はトップ10でしたから、今回もトップ10は堅いと思ったんですがねえ。その前2作はいずれも、今やオリヴィア・ロドリゴの相棒として知られるダン・ナイグロが、オリヴィア以前に共作・プロデュースで全編サポートしてたんですが、今回はマックス・マーティンやら、グレッグ・カースティンやら、イリヤ・サルマンザデーやらといった、当代一のポップ・メイカーなプロデューサー達をてんこ盛りで起用して、こりゃ売りにかかったな、という感じなんですが結果は残念ながらトップ10ミス、ということになりました。

で、聴いてみると冒頭の自作のタイトル・ナンバーから何やら重厚なドラム・ビートが響いてきて何かこれまでのコナン・グレイのイメージとちょっと違う感じ。続くマックス・マーティンイリヤ作のシングル「Never Ending Song」は80年代UKエレクトロ・ポップみたいな感じでうーんこれもイメージ違うなあ。その次の「Fainted Love」も何だかOMDみたいだし。彼は今のZ世代のポップ・センスとサウンドでそれなりのキャラを作り上げてたはずなのに、ここでイメチェンかあ?という感じですねえ。

"Ehhthang Ehhthang" by GloRilla

そのすぐ下、18位にエントリーしてきたのはメンフィスのどすこいクランク・ラップ娘、グロリラの2本目のミックステープになる『Ehhthang Ehhthang』。既に「Yeah Glo!」(35位)が先行ヒットしてて、今週はこのミックステープからの2曲目、ミーガン・ザ・スタリオンをフィーチャーした「Wanna Be」がHot 100の11位に初登場と、ミックステープにしてはやたら調子のいいチャートパフォーマンスを見せています(ほとんどはストリーミングですが)。

Wanna Be」では何とリリックで日本のアニメ『進撃の巨人(英語タイトル:Attack On Titan)』についての言及があるというプチ話題性のあるこのミックステープですが、それよりも何故かは個人的にはなかなか理解できないですが、デビュー以来結構人気を集めているのがこういうチャートアクションにつながってるということなんでしょうね。やたらアグレッシヴでトワーク(お尻をブンブン振り回すこと)やりまくりの彼女、ちょっと天然なキャラのミーガンに比べると自分なんかは苦手な部類なんですいません、ここはスルーでお願いします(笑)。

"Ohio Players" by The Black Keys

さて、ブライソン・ティラーコナン・グレイがトップ10を外したのも意外ではあったんですが、ブラック・キーズの新作『Ohio Players』(あの70年代ソウル・バンドではないw)が今回トップ10を外して26位初登場だったのにはちょっと驚きました。前々作の前編デルタ・ブルースのカバーという激渋アルバム『Delta Kream』(2021年6位)ですらトップ10だったのに、今回はベックノエル・ギャラガーなどメジャーなゲストも迎えて前作の『Dropout Boogie』(2022年8位)のお得意ブルースロック路線で迫って来ているのに一気にこの順位というのはどうしたことか、と思ってしまいます。

強いて言うと前作に比べて各楽曲がブラック・キーズにしてはやや洗練されすぎてる嫌いがあるように聞こえてしまう点が影響しているのかもしれませんが、シングルの「Beautiful People (Stay High)」(ベックが共作)なんかは相変わらずのブラック・キーズ節全開だし、あのビリー・アイドルが「To Be A Lover」(1986年6位)とタイトル変してカバーしたウィリアム・ベル1969年のソウル・クラシック「I Forgot To Be Your Lover」ではまったりとしたメンフィス・ソウル・マナーを聴かせてくれるし、何が今回のチャート順位不振の原因なのかは不明です。ひょっとするとダサいジャケか(笑)?

"Only God Was Above Us" by Vampire Weekend

それよりもそれ以上にもっとビックリしたのは、間違いなくトップ10(というかトップ5)は間違いないと思っていたヴァンパイア・ウィークエンドの新譜『Only God Was Above Us』が何と27位初登場と、ファーストの『Vampire Weekend』(2008年17位)以来のトップ10逃しで彼らのキャリアで最低のチャート順位になっちゃったこと。というか、彼らこの前の3作、『Contra』(2010)『Modern Vampire Of The City』(2013)
Father Of The Bride』(2019)って全て全米ナンバーワンですからね。先週末のコーチェラでもいいステージを見せてくれていたって言うのにいったいどうしちゃったんだろうって感じです。

友人のサンパウロ在住の洋楽ジャーナリスト、沢田太陽くんによると「VWはストリーミングが弱い」「リリース間隔が空きすぎた」「フェスで目立ってない」「そもそもこれまでの1位もラッキー」というのが今回の不振の理由ということなんですが「ストリーミングが弱い」というのにはアグリー(彼のブログにあるようにアメリカのインディロック系バンドは概してストリーミングは強くないのは事実)するものの、それ以外のポイントについてはそれぞれ異論があります。まずリリース間隔ですが、前作から5年というのは短くはないものの、要はコロナ前後という観点からは他のアーティストについてもよく見られるパターンだし、その前は6年空いてる訳なのでそれが理由じゃないだろう(コロナ前後でそもそもロック系アーティストは総じて出力が落ちているので)と。

フェスでの存在感も、他の人の経験は判らないですが自分が3年前フジロックで見たVWはPA事故をものともせずガッツリと存在感あるステージを見せてくれてましたし、この間のコーチェラのステージもYouTubeで見る限りは観客の反応も含めて安定感を感じるものでした。だから今回のアルバムだけ人気が低い理由にはならないような気が。過去の1位アルバムについても、3枚ともそれぞれ初週13〜14万ポイントと通常1位に充分な出力だし、今回同様のポイント出力であれば問題なく今週の1位だったはずなので、過去のアルバムがどうこうではなく今回のアルバムの出力が少ないのが問題なのです。27位ということはおそらくポイントは3万ポイントくらいだと思いますが、そもそも初週で今回のVWのアルバムがなぜこれっぽっちしか出せないか、というところが問題です。アルバム・セールス・チャートでも5位ですから通常VWのアルバムが出れば取り敢えず買いに走る層が今回はゴッソリ抜けている上に、ストリーミングで稼ぐという今チャートで強い連中の勝ちパターンが取れないタイプのアーティストであることが災いしてますね、どうも。じゃあなぜ初週で飛びつく層がゴッソリ抜けたか。これはさっきのブラック・キーズもそうですがインディ系ロックバンド全般がコロナ以降軒並み出力を落としているのと同じ傾向で、もはや実売を意識したマスマーケティングをやらないロックバンドの初週の大きなポイント出力は望めない、ということでVWに限ったことではないのかもしれません。それにしてもVWの場合はギャップが大きすぎてショッキングではありますが。

もう一つ。今回のアルバムを聴いて思ったのは、前3作に比べてアルバム作品自体にオーラのようなものが希薄だなあ、ということ。何となくエズラのホーム・レコーディングに音を重ねて作った宅録の延長戦みたいな。これまではもっと「バンド感」とかがあってそれにテンション上がる部分もあったのに、今回はすーっと流れていってしまうような感じでちょっと一回聴いただけでは肩透かしされたようなイメージでした。いずれにしてももう少し聴き込んで更にこの件、掘り下げて考えてみたいと思います。

"A La Sala" by Khruangbin

思わず気持ちが入って長くなったので急ぎます。次は38位初登場、クルアンビンの『A La Sala』。この人たちも結構多作な上に、いろんなジャンルのアーティスト達とのコラボも積極的にやってるのでもうかなり長いことやってるようですが、まだファーストから10年経ってなくて、今回が5作目のオリジナル・アルバムです。クルアンビンも個人的に大好きなバンドで、3年前のフジロックフィールド・オブ・ヘヴンでのステージはほとんど夢のような素晴らしいステージだったので、やはり毎回新作が出るたびに期待して聴いてしまいますね。

前作『Ali』(2022)がアフリカはマリのギタリスト兼シンガー、ヴィユー・ファルカ・トゥーレとのコラボ盤だったんですが、だからといってアフリカン・ミュージックに引っ張られると言うわけでもなく、変わらずクルアンビンはクルアンビンだった、というアルバムでしたが、今回も良くも悪くもいつものクルアンビン節が満載のアルバムになってます。それもそのはず、ベースのローラのインタビューによると「今回は私たち3人のもともとの出自に立ち返って、そもそも自分達のサウンドとフィーリングが何だったか再確認したかった」ということのようです。微妙に中近東や東南アジアのイメージを漂わせて、マークのペナペナギターとローラの心地よいアタックのベースが今回も唯一無二のクルアンビンワールドを繰り広げるこのアルバム、また自分の精神安定剤的に繰り返し聴ける作品になりそうです。

"It's Us, Vol. 1" by Concrete Boys

さてぐーんと一気に下位に移動して87位初登場は、コンクリート・ボーイズの『It’s Us, Vol. 1』。コンクリート・ボーイズとは、昨年突如テーム・インパラ的なロック・アルバム『Let’s Start Here』をリリースしてシーンを驚かせたリル・ヤッティがリーダーとなって作ったラッパー5人組らしいです。あれ?リル・ヤッティ、『Let’s Start Here』出した時「もうラップはやらない」って言ってなかったっけ?というツッコミをしたくなりますが、まあ去年そんなことを言ってるヤッティの言葉を信じなかった人も多かったと思うのでいいんですが(笑)。

コンクリート・ボーイズを構成する残りの4人はカモ!、ドラフト・デイ、紅一点のカラーブードク2トリル。全体的にトラックは90年代あたりのヒップホップの雰囲気を漂わせるクラシックな感じのものに、味付け程度に時々トラップ・ビートがまぶされている、という感じ。サウンド的には聴きやすいので、90年代ヒップホップ・ファンには抵抗なく聴けるかもしれません。ただ音楽メディアの評価は高くなく、ピッチフォーク誌などは「彼らは自分らがクールだと思ってるようだが、その音楽はクールでも何でもない。聴き終わって唯一ソロのミックステープを聴きたい、と思うのはカラーブーだけだ」と毒づいてます(笑)。しかしリル・ヤッティ、この5人で何がしたかったんでしょうかね。

"Older" by Lizzie McAlpine

今週最後の100位までの初登場は93位にチャートインしてきた、フィラデルフィア出身の今年24歳の女性シンガーソングライター、リジー・マカルパインのサード・アルバム『Older』。前作の『Five Seconds Flat』(2022年145位)に続く2枚目のチャートインで、今回がキャリア・ベストになります。前作からのシングル「Ceilings」がTikTokでバズったこともあってHot 100で54位まで上昇するヒットになったことからアルバムもヒット、今回そのフォローアップでリリースしたアルバムが初めてアルバムチャートの100位内に入ってきたということのようです。

今回彼女の音楽は初めて聴きましたが、ピアノやアコギといったオーガニックな楽器中心のバックが奏でるトラックに、浮遊感満点の彼女の優しい歌声が乗って心地よい世界観を織りなす、チルな雰囲気のインディ・フォーク、といった趣ですね。ボーイジニアスとかが気に入った方であれば違和感なくすっと入っていけるタイプのアーティストだと思います。ただあのボーイジニアスの音楽の底に蠢くエッジのようなものはあまり感じられません。そういう意味でいうと、ニューイングランドの寂寥感がないノア・カーンの女性版、という感じの方が本質的なところは当たっているかも。いずれにしてもここに出てきたようなアーティストが好きな自分は問題なく気に入りました。音楽メディアの評価も高く、メタクリティックでは80点が付いてますね。今後要注目のアーティストの一人だと思います。

ということで今週の初登場はトップ10に3枚、11位以下圏外に8枚といつにない大量初登場でした。一方Hot 100の方は、1位を取るか、と思われたJ.コールのディス返しトラック「7 Minute Drill」は本人の急転直下の謝罪とストリーミングからの引上でポイントが積み上がらず、今週6位初登場に留まってます。もう一曲の1位候補だったホージャーの「Too Sweet」は1位は取れなかったものの、順調に先週の4位から2位に上昇。1位は先週同様、フューチャー、メトロ・ブーミン&ケンドリック・ラマーのディス曲「Like That」が3週目の首位をキープしています。それにしてもベンソン・ブーンの「Beautiful Things」、来週くらいいい加減に一位してあげられないもんでしょうか。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) Cowboy Carter - Beyonce <128,000 pt/20,500枚>
*2 (-) (1) Might Delete Later - J. Cole <115,000 pt/9,000枚>
*3 (-) (1) minisode 3: TOMORROW - TOMORROW X TOGETHER <107,500 pt/103,500枚>

4 (2) (3) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <99,000 pt/384枚*>
*5 (3) (58) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <72,000 pt/1,453枚*>
*6 (-) (1) Fireworks & Rollerblades - Benson Boone <58,000 pt/4,000枚>
7 (4) (5) Eternal Sunshine - Ariana Grande <48,000 pt/4,876枚*>
8 (7) (72) Stick Season ▲ - Noah Kahan <45,000 pt/2,977枚*>
9 (6) (31) Guts - Olivia Rodrigo <43,000 pt/3,841枚*>
10 (9) (70) SOS ▲3 - SZA <40,000 pt/2,401枚*>

J.コールのディス返しトラックがストリーミングを集めて収録されたミックステープが思わぬ躍進を見せた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:4/12~18)ですが、これももう圧倒的なストリーミングを集めそうなフューチャー&メトロ・ブーミンのシリーズ第2弾がビヨンセを下して来週は余裕で首位を確保しそうです。それ以外にはひょっとしたらマギー・ロジャースの3作目がトップ10に来るかもしれません。ではまた来週。

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