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【恒例新年企画#3】Boonzzyの第63回グラミー賞大予想#6〜ジャズ部門

いよいよこの週末で1月も終わり、旧暦的にも来週は節分で完全に新年に移行しますし、この「恒例新年企画」も看板的にややとうがたってしまいそうです。本来ならこの週末、アメリカ時間の日曜日が第63回グラミー賞授賞式のはずだったので、もともとは通常であればこの週末までに全ての受賞予想完了の予定だったのですが、やっと折り返したところ。まあ今年のグラミーは3月に延期になりましたので(そちらの開催の可否についても正直不透明ですが)今年はゆっくりやれてるのでありがたい面はあるのですが。まあそんなこと言わずにどんどん行きましょう。次はジャズ部門です。この部門、去年から予想をはじめた自分的にはまだまだ勉強が足りない部門ですが、昨年は5部門中、本命◎的中2部門、対抗○的中1部門、穴×的中1部門、外れ1部門とまあ最初にしてはまあまあかな、という結果でした。その昨年の予想の時に、この部門の歴史についてもちょっとまとめてますので、下記の昨年のブログ記事がこの部門を知るのにいいと思いますので一度覗いてみて下さい。

26.最優秀インプロヴァイズド・ジャズ・ソロ部門

  Guinnevere - Christian Scott aTunde Adjuah (From “Axiom”)
  Pachamama - Regina Carter (From “Ona” by Thana Alexa)
× Celia - Gerald Clayton (From “Happening: Live At The Village Vanguard”)
◎ All Blues - Chick Corea (From “Trilogy 2” by Chick Corea, Christian McBride & Brian Blade)(受賞)
○ Moe Honk - Joshua Redman (From “RoundAgain” by Redman/Mehldau/McBride/Blade)

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昨年のブログでも書きましたが、この部門はソロイストの演奏を評価するという、ボーカル以外のジャズ・ミュージシャンにとってはある意味花形部門で、過去の受賞者も王道のアーティスト達が多い部門。去年は本命◎予想したノミネート6回にしてこの部門未受賞のブランフォード・マルサリスを抑えて、この部門ノミネート4回目で未受賞(他のジャズ部門で受賞歴あり)のこちらもベテランのランディ・ブレッカーが見事受賞してました。

今年のノミニーの顔ぶれを見ると、やはりどうしても光って見えるし、実際演奏を聴いても、去年のこの部門ノミニーのクリスチャン・マクブライド(b)とブライアン・ブレイド(ds)とのトリオによる、マイルスの有名曲の優雅なスイング感たっぷりのライブ演奏が素晴らしいチック・コリアが頭一つ抜き出てるなあ、という感じなので、この部門ノミネート12回、受賞7回の超大御所の彼に本命◎を付けざるを得ませんね。そしてそのクリスチャン・マクブライドブライアン・ブレイドがサックスのジョシュア・レッドマンとピアノのブラッド・メルドーと組んだクインテットで、ジョシュアが個性的なメロディを複雑なビートに乗せて流れるようにサックスを聞かせる「Moe Honk」(この曲はピアノのブラッド作なんですが、彼がジョシュアのパフォーマンスのバックに徹していながら、かつスリリングなソロも聴かせる展開がなかなかいいです)に対抗○を付けました。ジョシュアはこの部門で過去2016年58回に、同じくブラッドとのデュオアルバムからの曲でノミネートされていて相性もいいのかもしれません。

そして穴×。先日予想した、最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門で3年連続ノミネート、闇夜を切り裂くようなサックスのパフォーマンスがクールなクリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュワーか、ターニャ・アレクサ(次の部門参照)のボーカルアルバムに客演、優美な音色を聞かせているベテラン・黒人ジャズ・バイオリニストのレジーナ・カーターか、若干36歳ながらこの部門2回を含める過去ジャズ部門5回ノミネートの黒人ピアニスト、ジェラルド・クレイトンか、というところですが、NYはヴィレッジ・バンガードでのライブ盤から、このバド・パウェルのナンバーを見事に聴かせるパフォーマンスが素晴らしい、ジェラルドに付けておきます。

27.最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム部門

○ Ona - Thana Alexa
◎ Secrets Are The Best Stories - Kurt Elling Featuring Danilo Pérez(受賞)

  Modern Ancestors - Carmen Lundy
× Holy Room: Live At Alte Oper - Somi with Frankfurt Radio Big Band conducted by John Beasley)
  What’s The Hurry - Kenny Washington

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この部門、昨年は予想結構簡単だったんですよね。何といってもジャズ界のサラブレッド的存在、エスペランザ・スポールディングの意欲作『12 Little Spells』が燦然と光輝いてたし、去年自分のお気に入りでもあり、マイ年間アルバムランキングの7位に入れていたジャズメイア・ホーンの香り立つようなゴージャスなアルバム『Love & Liberation』もノミネートされていたので。結局去年はエスペランザの横綱相撲で終わりましたが、今年のノミニーは、大ベテランのカート・エリング以外は全て初ノミネート、というフレッシュさ。その中でこの部門過去ノミネート13回、受賞1回(2010年第51回の『Dedicated To You: Kurt Elling Sings The Music Of Coltrane And Hartman』)と圧倒的な実績を誇るカート・エリングがパナマ人ピアニスト、ダニーロ・ペレズと組んだアルバム『Secrets Are The Best Stories』 が受賞最右翼、本命◎でしょう。1995年ブルーノートと契約して以来25年のキャリアを誇る、スタイルとしてはシナトラの系譜を汲む正当派ジャズ・シンガーながら、ブラッド・メルドー、リー・リトナー、ボブ・ミンツァーら他のジャズ・プレイヤー達との共演だけではなく、同じシカゴ出身の元スマパンビリー・コーガンや、ブルースのバディ・ガイなどとの共演経験もあるなどしなやかなキャリア・スタイルがコンテンポラリーな存在感を放ってますね。

残る初ノミニーの中で個人的に気になったのは、今回のノミネート作がまだ2作目という若干36歳のNY生まれのクロアチア系アメリカ人女性シンガー、ターニャ・アレクサの『Ona』。ソロ部門にノミネートされていたレジーナ・カーターの曲もこのアルバムからのカットで、あの曲は比較的オーセンティックなジャズ・ナンバーでしたが、アルバムの曲をいくつか聴いて見ると、彼女が決して「普通の」ジャズ・シンガーではなく、楽曲のスタイルや構成といい、自らのボーカルを楽器の一つとして扱うかのようなパフォーマンスといい、かなりインディー・ロックに近いアプローチの意欲的な制作による作品のようなのです。ダイバーシティの観点からも、そしてクリエイティビティの高い作品ということで今年のグラミーのお題にも沿ってると思うのでこれを対抗○に。

残るはアレサエラに例えられるという大ベテランのカーメン・ランディ、シカゴ生まれでルワンダとウガンダの両親を持つ黒人女性シンガーのソミ(本名:ローラ・カバソミ・カコマ)、そしてバイオ不詳の黒人男性シンガー、ケニー・ワシントンのいずれかですが、ドイツはフランクフルトの旧オペラ座での地元フランクフルト・ラジオ・ビッグ・バンドをバックに行ったライブ盤でノミネートされたソミの、こちらもエスニックな味わいが独得の作品に穴×をつけておきましょう。

28.最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門

  On The Tender Spot Of Every Calloused Moment - Ambrose Akinmusire
× Waiting Game - Terri Lyne Carrington And Social Science
  Happening: Live At The Village Vanguard - Gerald Clayton
◎ Trilogy 2 - Chick Corea, Christian McBride & Brian Blade(受賞)
○ RoundAgain - Redman Mehldau McBride Blade

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この前のジャズ・ボーカル・アルバム部門と並んで、ジャズ部門のアルバム・カテゴリーでは双璧といってもいい王道部門であるこの部門、昨年は予想したブランフォード・マルサリス・カルテットの作品ではなく、この部門5回目のノミネートでブラッド・メルドーが大天使ガブリエルを題材にした意欲作『Finding Gabriel』で初受賞を果たしてました。さて今年はというと、これがまたソロ部門にもノミネートされていた、クリスチャン・マクブライド(昨年は自分のバンドでこの部門にノミネートされてました)とブライアン・ブレイドが、チック・コリアとのトリオアルバム『Trilogy 2』と、ジョシュア・レッドマン+ブラッド・メルドーとのカルテット・アルバム『RoundAgain』がここでもまたまたノミネート。いやいやこの凄いメンバーの2組と、それぞれの演奏内容の素晴らしさからいって本命◎、対抗○はこの2枚しかないでしょう。で、どちらが本命◎というと、これも同じメンバーのトリオでの前作、その名も『Trilogy』が2015年第57回のこの部門で受賞してるので、ここはやはり『Trilogy 2』これが来るんだろうなあ。今回もソロ部門ノミネートのマイルス他いろんな人の曲をやってるんですが、スティーヴィー・ワンダー本人に勧められてやることにしたという、『Pastime Paradise』がかなりカッコいいことになってますし、こういうライブを生で見れたファンは幸せだったろうなあ、と思うのです。なので『RoundAgain』は対抗○。いや、こっちもなかなか素晴らしいですが。

そして対抗×は、かなりエッジの立った前衛的な作品をここ数年発表、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』(2015)のラスト・ナンバーで、フェラ・クティをサンプルした「Mortal Man」にフィーチャーされるなど、ジャンルを問わない活動で注目を集めるトランペッター、アンブローズ・アキンムーシリの作品に。この作品、年末の『ミュージック・マガジン』のベスト・アルバム2020号ではジャズ部門で見事一位に選出されていたのも印象的だったので。

29.最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル部門

  Dialogues On Race - Gregg August
○ Monk’estra Plays John Beasley - John Beasley’s MONK’estra
  The Intangible Between - Orrin Evans And The Captain Black Big Band
× Songs You Like A Lot - John Hollenbeck with Theo Bleckmann, Kate McGarry, Gary Versace and The Frankfurt Radio Big Band
◎ Data Lords - Maria Schneider Orchestra(受賞)

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この部門の予想では、去年はかなり盛り上がってました。何と言っても日本の挟間美帆さんが『Dancer In Nowhere』で初ノミネート、過去にこの部門がまだ「最優秀ビッグ・バンド・ジャズ・パフォーマンス部門」と呼ばれていた時代に第19回〜24回の6回連続を含む通算10回ノミネートされながら、無冠に終わっている秋吉敏子さんの無念を晴らしてくれるのではないか!と期待してましたからね。でも蓋を開けてみると残念ながら受賞はプエルトリコ系ラテンジャズ・トランペッターのブライアン・リンチのビッグ・バンドにさらわれてしまい、かなり残念な思いをしたものです。で、今年はどうか。今年のノミニーの顔ぶれを見ると、これも圧倒的に存在感を示しているのは、この部門で1995年以降ノミネート6回のうち受賞2回というマリア・シュナイダー率いるマリア・シュナイダー・オーケストラ。同じくこの部門で受賞経験のあるレジェンド、ギル・エヴァンスのアシスタントとしてキャリアをスタートしたマリアは、1993年に結成した自らのオーケストラを中心にしたこの20年近くのキャリアの課程で、ビッグ・バンド・ジャズだけでなくクラシック部門でもグラミー受賞(2013)、更には2015年に最優秀インストゥルメンタル&ボーカル部門で、デヴィッド・ボウイの「Sue (Or In A Season Of Crime)」のアレンジャーとしてグラミーを受賞。この時共演者として彼女が紹介したダニー・マッキャスリン(sax)やマーク・ジュリアナ(ds)は後にボウイの遺作となったダークなジャズ・ロック・アルバム『★』(2016)のバンドメンバーとしてアルバムに参加することになるという、現代音楽界における先進的トレンドセッター的才媛でもあるマリア。今回の作品は、その彼女が常々疑問視しているビッグ・データをビジネスに利用する企業に対する問題意識を音楽で表現するといった意欲的なもの。こうなってくると本命◎はこの人しかなさそうです。このアルバムも、年末の『ミュージック・マガジン』ではジャズ部門年間2位に挙げられていました。

それ以外の4つの候補のうち、それぞれ過去この分野のノミネート経験がありながらも受賞のない2組に対抗○と穴×を。対抗○は、70年代はセルジオ・メンデスのバンド、その後フレディ・ハバードのバンドに所属、2016年からは自らのバンド、モンケストラを率いたアルバムで今回も含めて3回ノミネートされているピアニストのジョン・ビーズリー。そして穴×はジャンルに囚われない自らのバンド、ザ・クローディア・クインテットを率いて、よく知られた楽曲をジャズ風にアレンジしたシリーズの3作目『Songs You Like A Lot』で今回ノミネートのドラマー兼バンドリーダーのジョン・ホレンベックに。彼らがやっているジェイムス・テイラーの「Fire And Rain」の大胆なアレンジ、聴いてみて下さい。

30.最優秀ラテン・ジャズ・アルバム部門

  Tradiciones - Afro-Peruvian Jazz Orchestra
○ Four Questions - Arturo O’Farrill & The Afro Latin Jazz Orchestra(受賞)
  City Of Dreams - Chico Pinheiro
◎ Viento Y Tiempo - Live At Blue Note Tokyo - Gonzalo Rubalcaba & Aymée Nuviola
× Trane’s Delight - Poncho Sanchez

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さてこの部門、去年は御大チック・コリアが正面からラテン・ジャズに改めて取り組んだ意欲作『Antidote』がノミネートされてて予想しやすかったんですが(事実チックが受賞しました)、もともとラテン・ジャズの造詣は全く深くないBoonzzyとしては、今年はなかなか予想が難しいノミニー・ラインアップになっとります、はい(汗)。そうなってくると、過去のグラミーでの実績を参考にしながら予想するしかないわけで、それをベースに考えると、この部門過去に6回ノミネート中2回受賞経験あり、キャリアとしても申し分ない実績を持つ、アフロ・キューバン・ジャズ・ピアニストの第一人者、ゴンサロ・ルバルカーバが、昨年グラミーの最優秀ラテン・トロピカル・アルバム部門を受賞したキューバの歌姫、アイメー・ヌヴィオラと共に来日してブルーノート東京で行ったライブを収めたアルバムが本命◎かな、と。アルバムタイトルはスペイン語で「風とテンポ」という意味らしく、確かにキューバの風と楽しげなラテン・リズムが満載の一枚のようです。なかなかジャケもベタでいいですね(笑)

対抗○は、アフロ・キューバン・ジャズのレジェンド、チコ・オファリルの息子で(といっても自分と同い年の大ベテランですが)過去この部門でも3回ノミネート中2回受賞、そのキューバン・ジャズに囚われず、汎ラテンな音楽スタイルで、その他ジャンル横断の最優秀インストゥルメンタル部門でも過去2回グラミー受賞経験のある、アーテュロ・オファリル率いるアフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラの『Four Questions』に。そして穴×は、こちらもこの部門で過去3回ノミネート中、2000年第42回に受賞している、御年69歳の大ベテラン、ラテン・ジャズ・パーカッショニスト(メインはコンガ)のポンチョ・サンチェスが、14歳の時に始めて買ったジョン・コルトレーンのレコードを聴いて以来ジャズの虜になったことについての長年の感謝を込めた、彼なりのコルトレーンへのトリビュートだというアルバム『Trane's Delight』へ。

ふう。何とかジャズ部門の予想フィニッシュしました。毎年言ってますがBoonzzyはまだまだジャズ勉強中の身ですので、今回の記事について、ジャズにより造詣の深い諸兄の厳しいご指導・ご指摘等、お待ちしております。さて続いてこちらも昨年から予想スタートした、ゴスペル部門を次回はいきますのでお楽しみに。

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