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今週の全米アルバムチャート事情 #156- 2022/11/5付

10/30にソウルで起きた群衆雪崩事故は衝撃でした。150人を超える犠牲者の9割が30歳以下の若者たちだったこと、その6割が女性だったこと、更には日本人の10代女性と20代女性も犠牲者に含まれていたことなど、なぜこんな悲惨な事故が起きたのかを思わず考え込まずにいられません。犠牲者の皆さんの心からのご冥福を祈る以外にありません。こんな事故が二度と起きませんように。

"Midnights" by Taylor Swift

さて10月も終わって今年も残り2ヶ月。今週11月5日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位はもう先週の途中で完全に見えていたように、テイラー・スウィフトの『Midnights』が1,578,000ポイント(うち実売1,140,000枚でトーゼンながら今週アルバムセールス・チャートぶっちぎりの1位)という、2015年のアデル25』のデビューウィークの3,482,000ポイント(実売3,380,000枚)以来のぶっちぎり1位を記録してます。もちろんUKでも今週1位です。これでビートルズ(19枚)、ジェイZ(14枚)に次ぎ、ドレイク、ブルース・スプリングスティーン、バーブラ・ストライサンド(各11枚)に並ぶ11枚目のナンバーワンを決めたテイラー、女性ソロとしてはバーブラと並ぶトップに立ったことになります。しかも今回このアルバムからの曲全20曲(リリースから3時間後に追加リリースされたデラックス・バージョンの『3am Edition』収録曲も含む)がHot 100に登場したのは予想通りとしても、シングル「Anti-Hero」の1位初登場(UKシングルチャートでも1位初登場)を筆頭に、何とHot 100のトップ10を全てテイラーの曲が独占。これ、2021年ドレイクが『Certified Lover Boy』からの9曲をトップ10に入れたのを抜いて史上初です。そしてこれでテイラーのトップ10ヒット数が40となって、マドンナの38を抜いて女性アーティストでは歴代トップ、総合でもドレイクの59に続く歴代2位に躍り出てます。いやいやいくら何でも圧倒的過ぎる。

いやあしかし今回のアルバムも夢見るようなサウンドとウィスパリングっぽいボーカルといい、楽曲の醸し出す夢幻的な雰囲気といい、『Folklore』『Evermore』のスタイルの流れが完成形に近づいた感があります。今回もソングライティングとプロデュースは全面的にジャック・アントノフと組んで、アルバム全体をそのタイトル通り、夜に物思うテイラーの私小説的なイメージで染め上げてます。ジャック以外で目に付くのはヒップホップ系のプロデューサーのサウンウェイヴことマーク・スピアーズと組んだ「Lavender Haze」と「Karma」、これも『Folklore』以来の付き合いのザ・ナショナルアーロン・デスナーと組んだ「The Great War」など3曲、そしてテイラー自身「前からどうしても一緒にやりたかった」と述懐してる、ラナ・デル・レイとのコラボ曲「Snow On The Beach」あたり。ここに至るまでの3作のサウンドスタイルがよく似通っているので、ややマンネリ感もなくはないですが、詞の内容への評価も含め音楽メディアの評判も軒並み高いですね(メタクリティックで85点)。多分このアルバム、しばらく1位を続けるでしょうから、今週書くネタはこれくらいにしときましょう。まだ2回くらいしか聴いてないし、自分ももう少し聴き込んでみます。

"The Car" by Arctic Monkeys

そしてテイラーとは桁が違いすぎて可哀想ですが、37,500ポイント(うち実売28,500枚)で6位に初登場してきているのが、UKのアークティック・モンキーズの7作目『The Car』。UK本国では今回2位初登場で、前作『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018年8位)まで続いていた6作連続UKアルバムチャート1位が途絶えてしまいました。それでもUSでもその前の『AM』(2013年6位)以降必ずトップ10入りしてきて、全米でも安定した人気を確保しています。

しかし、前作を聴いた時も思ったけど、デビュー・アルバム『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』(2006年24位)で鮮烈にシーンに登場してきた時のアークティックスと今のアークティックスは完全に別物で、いい意味でもそうでない意味でも、「おとな」のロックバンドになったなあ、という感慨を感じさせる、そんなアルバム。冒頭の「There’d Better Be A Mirrorball」を聴くだけで、全体を包み込むようなオーケストレーションや、抑えられたビート、そしてアレックスのマチュアなボーカルでそれは如実に感じさせますね。ある意味で21世紀のキンクス的な立ち位置を意識してるんじゃないか、そんなことを思わせるアルバムだと思いました。

"Ma' I Got A Family" by YoungBoy Never Broke Again

それに続いて37,000ポイント(うち実売500枚)で7位には、相変わらず多作なヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(YBNBA)の19作目のミックステープに当たる『Ma’ I Got A Family (A Gangsta Grillz Special Edition Hosted By DJ Drama)』が初登場。今年だけでこれがアルバムやコラボ作品を含めて5作目のトップ10。8人の女性と10人の子供を作ったYBNBAだけに、タイトルどおり「家族養わなきゃいけないから大変なんだわ」って感じだからのこの多作ぶりなのかもね。稼がなきゃいかんだろうし。今回はこの後ジージーとのコラボ作でも登場する、アトランタのDJ、DJドラマが監修する特別エディション、という形になってるようで、DJキャレドさながらに曲の頭で「DJ Drama!」と怒鳴ってる声が入ってるのがご愛嬌(笑)。

一方、先日彼のNever Broke Againレーベルが、それまでのアトランティックとの契約が終わって、新たにモータウンと契約したというニュースが報道されたので、この多作ぶりはアトランティックとの契約条件をクリアするためなのかも。いずれにしても今回もいつものトラップビートビンビンのトラック満載で、トラップ好きのティーンエイジャー以外にはアピールしそうもない内容なんで、モータウンの移籍後バーンアウトしなければいいんだけどね。

R.IP. Takeoff

というところで今突然入ってきた、ミーゴスのテイクオフがヒューストンで銃撃事件の犠牲者になったというショッキングなニュース。つい先々週叔父さんのクエイヴォとのコラボアルバムをこのトップ10に叩き込んだばかりだったというのに。ミーゴスはトラップ勢の中でも数少ないお気に入りだっただけに個人的にもとてもショックです。R.I.P.テイクオフ…

"Snofall" by Jeezy & DJ Drama

そんな中、今週トップ10最後の初登場は、31,000ポイント(うち実売2,500枚)で9位に入ってきた、アトランタ・ヒップホップシーンのベテランラッパー、ジージー(元ヤング・ジージー)とT.I.のDJとしてキャリアをスタートした同じくアトランタのDJドラマのヒップホップ・コラボアルバム『Snofall』。DJドラマとは2004年の『Tha Streets Iz Watchin』以来6作のミックステープでコラボしてる長い付き合いだけど、正規アルバムは今回初でしかも初チャートイン。ジージー自身はT.I.グッチ・メインと並んでアトランタでトラップをヒップホップのメインストリームにした立役者の一人で、2006年の『Thug Motivation 102: The Inspiration』をはじめ3枚の全米ナンバーワンアルバムも持ってるまあトラップの大御所ですよね。

そんなジージーが昔よく組んでたDJドラマと正規のコラボアルバムを作ったのはある意味原点回帰の意図もあったのかもしれません。大御所でこれまで数々のR&Bヒットにもフィーチャーされるなど(一番有名なのはアッシャーの2008年のナンバーワンヒット「Love In This Club」)芸風も間口の広いジージー、このアルバムでもゴリゴリのトラップだけでなく、R&Bなトラックをバックに2パックっぽいフロウを聴かせる「Still Havin」やラストのエモな感じのR&Bヒップホップ「One Hunnid」などさすがに聴いてて飽きさせません。ベテランの円熟味を感じるヒップホップ、ここにありって感じです。

"Antifragile (EP)" by Le Sserafim

ということでトップ10内初登場4枚でした。11位以下100位内初登場も今週は4枚。その先頭を切っているのが、またまた出てきました今年5月にデビューしたばかりの新しいKポップ・グループ、ル・セラフィム(Le Sserafim)という5人組のガール・グループの2枚めになる5曲入りEP『Antifragile (EP)』が14位に初登場。BTSトゥモロウxトゥゲザーエンハイプンらが所属するハイブ・コーポレーション(旧ビッグ・ヒット・エンターテインメント)所属の彼女達にとってはこれが初のUSチャートインです。

TWICE同様、メンバーに2人の日本人、サクラ(宮脇咲良)カズハ(中村一葉)を含むル・セラフィム、日本でも既に人気みたいです。ちなみにサクラは自分と同じ鹿児島出身で元AKB48のメンバーだった時期もあるらしい。知らんかったけど。いやしかしKポップ、もう最近何でもありですね。特定の人気グループだけでなく、こんな風に新人グループがいきなり全米TOP20入りですよ。いやすごいわ。5曲しか入ってないからストリーミングで稼いでるわけがなく、CD実売で結構売ってるんでしょうね。タイトル曲とか聴く限りは、2000年代のR&Bヒップホップ・フレイバーのエレクトロ・ダンス・ポップって感じで正直あまり新しさも感じないんですけどね。

"Takin' It Back" by Meghan Trainor

そのすぐ下16位初登場は、何だか随分お久しぶり感満載なメーガン・トレイナーの5作目になる(前作は2020年のクリスマス・アルバム)『Takin’ It Back』。2016年の3作目『Thank You』(3位)を最後にトップ10どころかトップ20からも遠ざかっていて毎回チャート的には下降トレンドに入っていたので久しぶりのトップ20復帰で本人もホッとしているのでは。ここ数作はエレクトロ・サウンドにも色目を使った今どきのダンス・ポップ路線が不発だったところに、マイリー・サイラスの「Wrecking Ball」の共作者として有名なモゼラから、ドゥーワップR&Bスタイル満載のデビュー・アルバム『Title』(2015年1位)のサウンドをみんな真似したがってるのよ、と言われたのがきっかけで今回は『Titles』の頃のドゥーワップ・スタイルをベースにした楽曲に回帰した内容にしたようです。で、本人曰く「これまででベストかも。『Title 2.0』みたいなアルバムに仕上がったわ」。

その言葉に違いなく、冒頭の「Sensitive」からシングルの「Made You Look」へと続く全16曲、正に「All About That Bass」の頃のケレン味のない、ひたすら楽しいドゥーワップR&Bポップ・スタイルで統一された内容になってます。彼女も2017年に俳優のダリル・サバラと結婚、昨年2月には長男出産後めっきりスッキリ体型になってるようで、「All About That Bass」で自分のポッチャリ体型を恥じることなく、外見にとらわれないで内なる美しさとありのままの自分を見てほしい、と歌っていた頃からかなりいろんな人生経験を重ねてきた結果が今回のこのアルバムなんだろうな、と感じる作品で好感度は大ですね。ペリー・コモの往年のヒット曲(1954)「Papa Loves Mambo(パパはマンボがお好き)」のオマージュ的な「Mama Wanna Mambo」ではラテン・ジャズ・トランペットの大御所、アーチュロ・サンドバルまで担ぎ出してくるなど、楽しい作品です。

"The Loneliest Time" by Carly Rae Jepsen

同じように久しぶりに名前を聴く感のあるカーリー・レイ・ジェプセンの6作目『The Loneliest Time』が19位に初登場。例の「Call Me Maybe」(2011年1位)の世界的大ヒットで自分の音楽がコマーシャル・ポップに類型化されるのを嫌ったカーリーは、2014年にブロードウェイのミュージカル『シンデレラ』での主役を2週間務めて新しい自分の側面を追求したり、元ヴァンパイア・ウィークエンドロスタムや彼らのプロデューサー、アリエル・レクトシェイド、ブラッド・オレンジ、シェルバックといった個性派のポップ・ロック・R&Bサウンドメイカー達に自らメールしてコラボを申し入れて作ったアルバム『Emotion』(2015年16位)が高い評価を受けたりと、ここ数年独自の立ち位置を模索し続けて来ました。

今回も、そのロスタムの共作・プロデュースによる「Western Wind」「Go Find Yourself Or Whatever」や、あの孤高の吟遊詩人シンガーソングライター、ルーファス・ウェインライトをフィーチャーしたタイトルナンバーなど、独特の個性を漂わせるポップ楽曲がいい感じでスパイスになっている、一味違うポップ・アルバムになってますね。多分「Call Me Maybe」のようなメガヒットは今後もう出ないかもしれないけど、聴く者の耳と心に残る作品だろうし、多分いくつかの音楽メディアの年間アルバムランキングにも顔を出してきそうだな、そんな感じを受ける作品です。

"I Love: 5th Mini Album (EP)" by (G)I-DLE

そして今週100位までの最後の初登場は、ここにも出てきたよ!って感じでKポップの新しいガールグループ5人組、ジー・アイドゥル((G)I-DLE)の5枚目にしてこちらも初チャートイン作品になった6曲入りEP『I Love: 5th Mini Album (EP)』が71位に入ってきてます。こちらは韓国、中国、台湾、タイと4カ国出身のメンバーによるコスモポリタンなメンバー構成ですね。

こちらも先程のル・セラフィム同様、日本でも既に人気なようなんですが、冒頭の「Nxde」をはじめ、リード・シンガー/ラッパーのソヨンやミンニらメンバーが曲作りに関わっている、というのがこのグループのおそらく強みであり特徴なんでしょうね。「Nxde」のPVなど観ると、楽曲スタイルもコケティッシュなスタイルのノスタルジックさを感じさせるダンス・ポップで、他のKポップのガールグループのヒップホップ風味のダンス・ポップとは一線を画しているような気がします。この曲なんてかなりクリスティーナ・アギレラあたりを意識してるな、という感じ。いずれにしても新しいグループでも出せば必ずチャートインする、最近のKポップ、改めて恐るべしです

以上、今週の100位までの初登場は都合8作。あとトップ10では、あまりにもテイラーが圧倒的なので目立たないですが、先週1位のリル・ベイビー、今週もまだ11万ポイントでかなり頑張ってるのが目に付きます。普通の週だったら2週連続1位、余裕だったんでしょうがね。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Midnights - Taylor Swift <1,578,000 pt/1,140,000枚>
2 (1) (2) It’s Only Me - Lil Baby <110,000 pt/764枚*>
3 (2) (25) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <67,000 pt/2,834枚*>
4 (4) (94) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <43,000 pt/998枚*>
5 (5) (89) The Highlights - The Weeknd <39,000 pt/662枚*>
*6 (-) (1) The Car - Arctic Monkeys <37,500 pt/28,500枚>
*7 (-) (1) Ma’ I Got A Family (A Gangsta Grillz Special Edition Hosted By DJ Drama) - YoungBoy Never Broke Again / DJ Drama <37,000 pt/500枚>

8 (8) (23) Harry’s House ▲ - Harry Styles <32,000 pt/5,486枚*>
*9 (-) (1) Snofall - Jeezy & DJ Drama <28,000 pt/2,500枚>
10 (6) (13) Renaissance - Beyonce <30,000 pt/3,625枚>

ということでアルバムチャートでもHot 100でもテイラー祭だった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。さて最後にいつもの来週の1位予想ですが、まあ100万ポイントが7割減っても30万ポイントですから、来週のテイラーの2週目の1位はまず安泰として、対象期間の10/28~11/3のリリースでトップ10に入ってきそうなのは、ジャイルズ・マーティンビートルズ・リミックス・シリーズ第5弾の『リヴォルヴァー』のリミックス盤、ヒップホップのベイビー・キームコダック・ブラックあたりでしょうか。ではまた来週。


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