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今週の全米アルバムチャート事情 #243- 2024/7/6付

女子バレーチームの銀メダル獲得に続いて、男子バレーチームもネーションズリーグ決勝ラウンドで連日素晴らしい試合を展開、惜しくもフランスに敗れて金は逃したものの、昨年の銅を上回る銀メダルを獲得、おめでとう!決勝ラウンドではもう一人のエース、髙橋藍を怪我で欠きながらもエース石川をはじめ、大塚西田らのアタッカーやセッターの関田、ミドルの高橋健、リベロの山本らすべての選手が100%役割を果たした結果で勝ち取ったこの銀メダル、今月後半からもう始まるパリオリンピックでも活躍が期待できますね!男子女子のゴルフもオリンピックメンバーが決まり、今まであまり盛り上がらなかったパリオリンピック、これで一気に興味が増しそうです。

"The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

さて2024年も折り返しとなって、今週の全米アルバムチャート7月6日付のBillboard 200の首位ですが、やっぱり来ました10週目の首位。テイラーの『The Tortured Poets Department』は今週もが先週からわずか9%しかポイントを下げずに115,000ポイント(うち実売は28,000枚)でデビューから連続10週目の首位を記録。この間からお伝えしているように、歴代ではこれでモーガン野郎の『Dangerous: The Double Album』(2021)を捉えて歴代4位タイとなりました。もうこの上には11週のホイットニー、12週のもう一つのモーガン野郎(笑)、そして歴代1位13週のスティーヴィー・ワンダーしかいないという、なかなか凄い領域に入って来ています。今後2週間のリリーススケジュールをざっと見たところ、先週金曜日やや強力なリリース(来週のチャートに反映、後ほどご説明)がある他は、7/12(3週先のチャートに反映)リリースのエミネムまでは強力な新譜はなさそうなので、少なくとも歴代2位のモーガン野郎One Thing At A Time』を捉える12週首位まではどうやら行きそうな気配になってきました。いいぞいいぞ(笑)

テイラーエラス・ツアーは先週末6/28〜30のダブリンでの3日連続公演で再スタートしてますが、折しも全く同じ日程でイングランド南西部ではグラストンベリー・フェスティバルが開催されてたんで、客足には多少影響が合ったんでしょうか。特に今年のグラストンベリーは、ピラミッド・ステージ(フジロックでいうグリーン・ステージ)の初日ヘッドライナーがデュア・リパ、日曜日のヘッドライナーがSZAフジには来ないのにグラストンベリーは行くんかい!)と、何となく開催側がテイラーエラス・ツアーを意識したのではないか、と思われるようなパワー女性アーティストのブッキングになってたんでねえ。なかなか興味のあるところです。

"The Secret Of Us" by Gracie Abrams

それより今週ちょっとビックリしたのは、89,000ポイント(しかもうち実売50,000枚は今週のアルバム・セールス・チャート堂々1位)という、通常であれば1位初登場でもおかしくない出力で堂々2位に登場してきた、グレイシー・エイブラムスのセカンド・アルバム『The Secret Of Us』。『スターウォーズ:フォースの覚醒』(2015)など一連のスターウォーズ・シリーズや『ミッション・インポッシブルIII』(2006)などの監督で知られるJJエイブラムスの実娘の女性シンガーソングライターなんですが、デビュー・アルバム『Good Riddance』(2023)は52位でしたし、今特にシングルヒットがあるわけでもなく、今回の躍進はビックリです。しかも今週のUKアルバムチャートでは、テイラーの8週目1位を阻止して堂々ナンバーワン初登場ですから「何があったの?」と思ったんですが、よく考えると彼女はテイラーエラス・ツアーのオープニング・アクトとして、ハイムフィービー・ブリッジャーズら共々、去年夏くらいまでに29公演にフィーチャーされてましたから、この間に特に全米ではかなり露出が上がったのは間違いないところ。彼女の後を受け継ぐようにメインのエラス・ツアー・オープニング・アクトを務めたのが大きな要因で今大ブレイク中のサブリナ・カーペンター同様、テイラー効果の申し子ということなんでしょう。

ただその肝心のグレイシー自身の音楽性ですが、正直言ってここ数年既にシーンにあふれている感のある「浮遊感のあるトラックに乗って浮遊感あるボーカルで聴かせる意識高い系の女性シンガーソングライター」のステレオタイプから踏み出せていない感じが。その元祖的存在のビリー・アイリッシュが今回の新作で見事にポップ寄りに軸足を動かせてみせて新境地を見せていたことを思うと、どの曲もどの曲もウィスパー・ボーカルで歌うグレイシーのこのアルバム、それぞれの楽曲の個性があまり見えない感じがして自分的には今ひとつかな、と。歌詞の内容もよく聞き込むと違うのかも知れませんが。今年後半にエラス・ツアーがヨーロッパから全米に戻ったら再びグレイシーがオープニング・アクトに復帰するようなので、今後ここから何曲かシングルヒットが出てくるかどうか、要注目です。

"Éxodo" by Peso Pluma

今週トップ10にもう1枚初登場してきたのは、ここ数年の全米音楽シーンのトレンドの一つでもある、リージョナル・メキシカン・ミュージック、コリドーの旗手の一人、ペソ・プルーマの2作目のチャートイン・アルバムとなった『Éxodo』。昨年の『Génesis』(全米3位)に続いて、64,000ポイント(デジタル・ダウンロードのみなので、うち実売は1,000枚以下、Hits Daily Doubleによると382枚w)で5位初登場と、2作連続トップ5を達成しています。

今回は2枚組のアルバムで、ディスク1の16曲はこれまで同様、哀愁のスタッカート・リズムにホーンサウンドのコリドー・ミュージック全開の内容ですが、ディスク2はプロデューサーにモーガン野郎とヒップホップのハイブリッド仕掛人のチャーリー・ハンサムや、今超売れっ子のアンドリュー・ワットサーカット、メイジャー・レイザーの「Lean On」などでお馴染みのEDM系プロデューサー、DJスネイクらを配して、ラテン・トラップやレゲトン、更にはエレクトロ・ダンス・ミュージックにも挑戦しているという、意欲的内容のようです。そのチャーリー・ハンサムが手掛けて、カーディBをフィーチャーしてる「Put Em In The Fridge」は確かにラテン・トラップだし、アンドリュー・ワットサーカットが手掛けてクウェイヴォをフィーチャーした「Pa No Pensar」はコリドーの風情を残したトラップ・ポップといった感じの楽曲だけど、何となく中途半端感は否めないかな。いっそのこと、DJスネイクをフィーチャーして一気にバウンス系に振り切った感じのラスト・ナンバー「TEKA」とかの方が「おっ、バッド・バニーに勝てるかも」と思わせるからいいんじゃないかな。いずれにしてもメキシコ移民系のリスナーが聴いてるだけにしてはポイントかなり稼いでるんで、よりリスナーの間口を広げようという試みは正しい戦略なのかも知れません。ただこの手のパーティー・ミュージック系は飽きられるのも早いので今後どうなりますか。

"Crash" by Kehlani

以上トップ10内初登場は2枚でした。あと初登場ではないですが、先週の23位から大きく8位にジャンプアップしてトップ10に復活しているのがアリアナの『Eternal Sunshine』。何でも、期間限定でアリアナのウェブサイトで販売されたサイン入りCDの売上が貢献してのジャンプアップのようです。さて11位以下100位までの圏外ですが、今週も多めの5枚が初登場してます。その一番人気は25位に初登場してきた、ケラーニの4作目『Crash』。初期のミックステープ『You Should Be Here』(2015)のディストピア感満載の世界観をエレクトロでアップビートなサウンドで表現した内容にやられてから個人的なファンですが、その後のヒットアルバム2枚でのストリート感をにじませたR&B路線から前作『Blue Water Road』(2022年13位)では初期の清冽な音楽性に回帰したかな、と思っていたのでこの次作は期待してました。冒頭の「GrooveTheory」ではちょっとレトロな感じの曲調とエレクトロ処理したと思われるボーカルの感じが「おや?」と(いい意味で)思わせる楽曲ですが、2曲目の「Next 2 U」ではいつものケラーニ節R&B全開。シングル・カットの「After Hours」はちょっとダンスホール系のビートに乗ったしなやかなR&Bと、ジャケのイメージどおり今回は前作よりややアクティブな印象ですね。

全体の中で目(耳)を引くのは、何とアギレラの「What A Girl Wants」のフレーズをかなりエフェクト処理したものをサンプリングした「What I Want」と大御所ジル・スコットと共作・フィーチャーした「Sucia」。前者はややノベルティ感ある変則R&Bで、後者はもう一人フィーチャーしているプエルトリコの女性シンガー、ヤング・マイコのラップが存在感あって、何やらシアトリカルな感じの曲。いずれにしても今回はいろんなことにトライしてみた、的な作品になってるので前作を聴いてファンになった人はちょっと面食らうかもな。そういう人には後半の「Better Not」や「Tears」「Vegas」あたりが良いかも。誰にでもおすすめはできないけど、コンテンポラリーなR&Bファンなら楽しめる内容だと思います。

"Greatest Hits" by Avril Lavigne

ぐーーーっと下がって76位にチャートインしてきたのはアヴリル・ラヴィーンの『Greatest Hits』。あの鮮烈なデビューから20年以上経つアヴリルのちゃんとしたベスト盤って実は今回が初めてだったんですね。現在「グレイテスト・ヒッツ・ツアー」でヨーロッパをツアー中のアヴリル、8月後半には北米に戻ってくるのでその間このベスト盤でつなごうということかな。

選曲的には、デビュー以来のHot 100ヒット2曲くらい以外はすべてカバー、トップ40ヒット10曲は完全カバーと、ベスト盤ファンにはいうことない内容で(笑)、日本盤には元の旦那のチャド・クリューガーと共作した「Hello Kitty」も収録されてるというファンサービス満点の内容です。いやあ「Complicated」とか今聴くとあらためて名曲だなあと思いますね。

"I Want To Disappear" by The Story So Far

続いて78位に初登場しているのはサンフランシスコ・ベイエリアを拠点に活動するポップ・パンク・バンド、ザ・ストーリー・ソー・ファーの5作目で4枚目のチャートイン・アルバム『I Want To Disappear』。コロナ前にリリースした前作『Proper Dose』(2018年19位)が初のトップ20入りを果たすブレイク作だっただけに、コロナ後このタイミングまで次作をリリースできなかったのがこの順位に反映しているという、ロック・ヒップホップ系では典型的なパターンですね。

グループ名はニュー・ファウンド・グローリーの曲のタイトルから取ったという彼ら、コロナの間にベースのケレン・ケイプナーが脱退したりとやはりいろいろあったようですが、アルバムの内容はよく言えば外連味のないポップ・パンク・サウンド、悪く言えば特に彼らでなければという個性らしいものはあまり見当たらない、まあ気持ちよく聴けるサウンドではあります。ブリンク182のツアー・サポートが予定されてる、と報道されてたんだけど、調べるとあのツアーのオープニングはピアス・ザ・ヴェイルらしく、彼らの名前はなく。うーんこの人たち大丈夫なんでしょうか。

"Petty Country: A Country Music Celebration Of Tom Petty" by Various Artists

今週圏外初登場でケラーニの次に個人的に注目してたのは、84位チャートインの、トム・ペティのカントリー・トリビュート盤『Petty Country: A Country Music Celebration Of Tom Petty』。フィジカルは既に5/31にリリースされてて、アップル・ミュージックからティーザー的に一曲だけストリーミングされていた、リアノン・ギデンズの「Don’t Come Around Here No More」が、彼女の幽玄的な音楽性と原曲のオーラが見事にマッチしてたので、全体聴くのを楽しみにしてたところ、今回全曲ストリーミングが始まったのを受けてこの順位にチャートインしてきました。

で、全体聴いてみての感想。まず評価できるのは、モーガン野郎を排除してること(笑)。プラス、「Southern Accents」という渋ーい選曲でドリー・パートン姉御がさすがの圧倒的な存在感を見せていることと、やはり今乗っているルーク・コムズが「Runnin’ Down A Dream」でトムのオーラをリスペクトするようないいパフォーマンスを見せてることと、スティーヴ・アールが「Yer So Bad」といういかにも彼らしい選曲で彼らしさを発揮してること。一方残念なのは、それ以外の若手カントリー・ミュージシャン(トーマス・レットとかディアークス・ベントリーとか)の人選が正直中途半端で、単なる彼らの余興の域を脱してないことと、マーゴ・プライス以外の女性シンガーの存在感も正直薄いこと。でも個人的に決定的にダメダメだったのは、トムが亡くなった直後に来日公演でジャクソン・ブラウンが見事にトリビュートしてくれた「The Waiting」や代表曲「Don’t Do Me Like That」が取り上げられてないこと。いやもうこれは片手落ちでしょう。あと、今だったら何でザック・ブライアンとかケイシーとかブランディ・クラークとかタイラー・チルダーズとか、実力ある人たちを選ばなかったかなあ。あとルシンダ姐さんとか。全体的には今ひとつ残念な企画に終わってると言わざるを得ません。残念。

"Kygo" by Kygo

今週100位までの最後の初登場は97位にチャートインの、ノルウェーのEDMDJ、カイゴの5枚目『Kygo』。故ホイットニー・ヒューストンのボーカルをフィーチャーしたスティーヴ・ウィンウッドのカバーヒット「Higher Love」(2019年全米63位、全英2位)収録の前々作『Golden Hour』(2020年18位)以来久々のBB200チャートインになります。UKではエイヴァ・マックスをフィーチャーした「Whatever」がヒットしてるようですが(15位)、USではスポティファイHot 100にも曲が顔を出しているわけではないようです。

ただ、シャキーラの「Whatever, Whenever」の歌詞をループしてる「Whatever」以外では、ジョナス・ブラザーズをフィーチャーした「Healing (Shattered Heart)」とか、ナイル・ロジャーズが参加してプロデュースもしてる「For Life」など、US市場を意識した曲なんかもあって、前者は普通にポップでなかなかいい曲だし、後者はカイゴのEDM風味とナイル・ロジャーズの刻むビートがマッチしてスケールの大きい気持ちのいい曲になっていて、どれも現在ホット・ダンス/エレクトロニック・ソングス・チャートを上昇中(それぞれ9位、16位初登場、40位)。クラブ・コミュニティで結構強い支持を受けているのかも知れませんね。

以上100位までの初登場、今週は計7枚でした。一方Hot 100の方では何と、サブリナ・カーペンターの「Please Please Please」がわずか1週で、ポスティモーガン野郎の「I Had Some Help」に首位明け渡し。「I Had Some Help」はこれで通算6週目の首位になってます。「ソング・オブ・サマー」チャートでも依然強く、一回も首位を渡さず5週間首位継続中。と、言ってるとカントリー付いてるポスティ、今度はベテラン・カントリー・シンガーのブレイク・シェルトングウェン・ステファニの旦那です)と組んだ「Pour Me A Drink」をリリース、今週12位に初登場してます。更に一弾と「カントリー・シンガー・ポスティ」路線を突っ走ってるこの曲で来週こっちもトップ10入りか?では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (10) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <115,000 pt/28,000枚>
*2 (-) (1) The Secret Of Us - Gracie Abrams<89,000 pt/50,000枚>
3 (4) (69) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <73,000 pt/1,261枚*>
4 (2) (6) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<70,000 pt/13,000枚>
*5 (-) (1) Éxodo - Peso Pluma <64,000 pt/382枚*>
*6 (8) (14) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <61,000 pt/15,000枚>
7 (10) (181) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <43,000 pt/306枚*>
*8 (23) (16) Eternal Sunshine - Ariana Grande <41,000 pt/17,000枚>
9 (9) (3) Brat - Charli XCX<41,000 pt/5,223枚*>
*10 (12) (4) Where I’ve Been, Isn’t Where I’m Going - Shaboozey <41,000- pt/2,114枚*>

テイラーがデビュー以来連続10週首位を決めた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週1位予想(チャート集計対象期間:6/28~7/4)ですが、今週リリースの中で唯一テイラーに張って10万ポイント近く叩き出せそうなのはミーガン・ザ・スタリオンくらいか。ただスポティファイあたりで曲が上位に来てるわけでもないし、期間中独立記念日前の週末も入ってショッピング消費も増えることを考えると、テイラーの11週目の首位はほぼ間違いないかな、と思います。ではまた来週。


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