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DJ Boonzzyの第66回グラミー賞大予想#5〜ラップ部門

昨年末公開した、自分の年間アルバムランキング・ブログでも言ったんですが、2023年はヒップホップ全般が今一つで、年間ランキングに挙げたい、と思うような作品が例年に比べて少なかったという感じを持ってました。これ、自分だけではなく、自分の周りの1990年代のヒップホップ全盛期にヒップホップを浴びるように聴いていた洋楽ファンでも同じようなことを言ってる人もいて、ああやっぱりそうだったんだ、と思った次第。2024年がヒップホップにとって盛り返しの年となって、素晴らしい作品に一つでも多く出会えるように、と祈りながら、グラミー賞予想ブログ、ラップ部門行ってみます。


20.最優秀ラップ・パフォーマンス部門

◎ The Hillbillies - Baby Keem featuring Kendrick Lamar
✗ Love Letter - Black Thought

  Rich Flex - Drake & 21 Savage
○ SCIENTISTS & ENGINEERS - Killer Mike featuring André 3000, Future & Eryn Allen Kane
  Players - Coi Leray

最初に言っておくと、今回ラップ部門4部門全てにノミネートされてるのはドレイクと21サヴェージのみ。というか、この2人のコラボアルバム『Her Loss』と収録楽曲が全4部門でノミネートされてるのだけど、せっかく前作の『Honestly, Nevermind』で四つ打ちハウス路線という面白い展開を見せていたのに、全くのトラップ大会に戻ってしまったこのアルバム、シーンでも賛否両論だし、あのジャケだって何だか黒人女性を貶めてるように見えて気分悪いので、なぜこの作品がここまでVIP扱いされてるのかが不可解。そもそもドレイクは、例のグラミーによるザ・ウィークンドのガン無視事件で2022年第64回でノミネートされた2部門を辞退したんで、今回だって辞退するかもしれないのにね。でもことほど左様に2023年のヒップホップシーンが不作だったということの一つの証左なのかもしれないけど。
でもそんな中でも『Her Loss』なんかより遙かに優れた作品はやはりあるもんで、昨年5月にベイビー・キームが従兄弟のケンドリック・ラマーと突然ドロップしたシングルのみトラック「The Hillbillies」は、ボン・イヴェールをサンプリングして、トラップビートが酔っ払ってハイになったような面白いビートに乗せてこの2人がひたすらヒップホップのある意味原点でもある言葉遊びでフロウをやり取りしている、というもの。これ聴いてるとなかなかクセになるな。何しろケンドリックだし、ここはこれが本命◎でしょう

アルバム作品レベルでいうと、去年数少ない評価できるヒップホップ・アルバムの一つだった、元アウトキャスト、現ラン・ザ・ジュエルズキラー・マイクのアルバム『Michael』は骨太のビートとナタのように力強い切れ味のキラー・マイクのオールド・スクールなフロウが腹にズンと来る作品で、自分の年間アルバム・ランキングに入れた数少ないヒップホップ作品でした(年間39位)。そんな中でここでノミネートされてる「Scientists & Engineers」は共作と共同プロデュースにあのジェイムス・ブレイクを迎えて、こちらもTVゲームのSEとか、ドリーミーなシンセ音などオーセンティックでないサウンドをシンプルなビートに乗せてキラー・マイクと、アンドレ3000フューチャー(相変わらず何言ってるかよく判らんw)が不思議な絡み方をするという、ちょっと先進的な感じのトラック。これ、今回ソング部門にもノミネートされてるし、こちらも充分受賞可能性ありということで対抗○を付けます。

そして穴✗(には本当に惜しいのだけど)には、何と一切バックトラックなしで、ザ・ルーツのMCブラック・ソートが今年ヒップホップ50周年ということもあってか、ヒップホップ創世記から今に至るヒップホップの歴史、今売れてるMCはパイオニア達に感謝すべき、といったメッセージを載せたヒップホップへのラブレター、とでも言うべきリリックをひたすら繰り出すトラック「Love Letter」に。これ、もうラップというよりは詩、ポエトリーだね。

21.最優秀メロディック・ラップ・パフォーマンス部門

  Sittin’ On Top Of The World - Burna Boy featuring 21 Savage
○ Attention - Doja Cat
  Spin Bout U - Drake & 21 Savage
◎ All My Life - Lil Durk featuring J. Cole
✗ Low - SZA

ここでもドレイク21サヴェージがノミネートされてますが取り敢えず置いといて(笑)、メロディック・ラップ(歌唱とラップが絡むスタイル、または鼻歌のようなラップ楽曲w)ということで言えば個人的には2023年はこの曲しかないでしょう!というのがリル・ダークJ.コールの「All My Life」。単純にこの曲が売れたからというだけなく(売れるだけの理由はあるのだけど)、子供達のコーラスとピアノのシンプルな伴奏をバックにしたJ.コールの小気味いいフロウが気持ち良くて、ベースになってるトラップビートが全く気にならないのがこの曲のシンプルながら完成度の高さを証明してると思う。文句なし、スラムダンクで本命◎は「All My Life」ですね

それ以外ここで目に付くのはSZAドジャという、二人の女性シンガーがラップと歌唱の両方をやってる、という作品くらいなのですが、この2曲のうち、正直言ってラッパーとしての存在感を感じるのはドジャの「Attention」の方。SZAの「Low」は歌のようなラップのような、という感じで終始SZAが歌っていてそれなりのグルーヴを醸し出しているんですが、ラップ部門の受賞対象として考えた場合、わずかにドジャに軍配が上がるような気がします。この曲、次のソング部門でもノミネートされてるし、対抗○ドジャ、✗SZAにしておきましょう

22.最優秀ラップ・ソング部門(作者に与えられる賞)

○ Attention - Doja Cat (Rogét Chahayed, Amala Zandile Dlamini & Ari Starace)
  Barbie World (From Barbie The Album) - Nicki Minaj & Ice Spice featuring Aqua (Isis Naija Gaston, Ephrem Louis Lopez Jr. & Onika Maraj)
  Just Wanna Rock - Lil Uzi Vert (Mohamad Camara, Symere Woods & Javier Mercado)
✗ Rich Flex - Drake & 21 Savage (Brytavious Chambers, Isaac "Zac" De Boni, Aubrey Graham, J. Gwin, Anderson Hernandez, Michael "Finatik" Mule & Shéyaa Bin Abraham-Joseph)
◎ SCIENTISTS & ENGINEERS - Killer Mike featuring André 3000, Future & Eryn Allen Kane (Andre Benjamin, Paul Beauregard, James Blake, Michael Render, Tim Moore & Dion Wilson)

ラップのソング部門というのは、毎回他のラップ部門にノミネートされてない曲が突然ノミネートされてたりすることが多いんですが、今回も他のラップ部門では影も形もないリル・ウジ・ヴァート(正直、彼の『Pink Tape』がアルバム部門にノミネートされなかったのはちょっと意外でしたが)とニッキー・ミナージがノミネートされてます。いずれもメジャーなアーティストなんだけど、ノミネートされてる曲はどちらも「これ、ソング部門ノミネートなの?」という感じなのでこの2つは速攻で対象外。残る3つのうち、やはり一番存在感と楽曲としての完成度から言って、キラー・マイクの「Scientists & Engineers」しかないだろうな、というのが自分の感じですね。本命◎はキラー・マイク

残るはドジャドレイク&21サヴェージ。どちらも楽曲の出来としては似たようなレベルなんですが、ドジャは後半ラッパーに徹して歌唱部分とスタイルを微妙に変えるあたりがなかなかだと思うので、対抗○はドジャに付けます。ドレイク&21サヴェージはトラップ・ナンバーとしては手堅い楽曲ですが、これまで述べた理由もあり、穴✗ということにさせて下さい。

23.最優秀ラップ・アルバム部門

  Her Loss - Drake & 21 Savage
○ MICHAEL - Killer Mike
  Heroes & Villains - Metro Boomin
✗ King’s Disease III - Nas
◎ Utopia - Travis Scott

トラヴィス・スコットが他のラップ部門では一切ノミネートされず、このアルバム部門ノミネート、というのは凄くよく理解できるところ。何しろこの『Utopia』というアルバム、先進的でキャッチーで、意欲的な内容なんだけどもはや「ラップ・アルバム」ではあってもいわゆる一般的な「ヒップホップ・アルバム」ではない、そういうジャンルの枠を飛び出してる作品だからなあ。でもこの作品の存在感というか、アルバムが発信する「圧」みたいなものは凄いので、作品として一番はどれか、というとこの『Utopia』に本命◎を付けざるを得ないですね。正直このアルバム、主要4部門の最優秀アルバム部門ノミネートでもおかしくない、そんな作品だと思うので。

対抗○は、シリーズの一作目『King’s Disease』(2020)でこの部門しっかり受賞している御大ナズの、シリーズ三作目『King’s Disease III』。最近の相棒であるヒットボーイのトラックメーキングもタイトでドウプで、それを軽々と乗りこなすナズのフロウもさすがの一言。冒頭の「Ghetto Reporter」でいきなり斬り込んでくる鋭いフロウや、「Michael & Quincy」や「Reminisce」のプリモっぽいトラックでのレイドバックしたフロウも素晴らしいので、先の2作がなければこのアルバムが本命◎でもいいところ。実際自分の2022年の年間アルバムランキングでは16位に入れてました。

そして穴✗は自分が唯一年間アルバム・ランキングの上位40位に選んだ、アメリカン・ヒップホップ・アルバムということでキラー・マイクの『Michael』に付けておきます。

さてR&B・ヒップホップ系のジャンル部門は以上で終わり。次は問題のモーガン野郎が今回初めてノミネートされているカントリー部門の予想です。引き続きお付き合い下さい。


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