見出し画像

英語を勉強しようとしたら、人生の勉強をしてしまった話

実は先週、英語を勉強しようとHelloTalkというアプリを入れて、海外の人と英語でチャットを交わしていた。

ランゲージエクスチェンジというもので、僕のように英語を学びたい日本人と、日本語を学びたい英語話者とがマッチして、メッセージを送り合うというものだ。

僕が登録直後のためか、色んな人から挨拶が送られてきたが、結局続いたのはその中の1人だった。

相手はシンガポール出身の女性で、アメリカの大学を出て、今はシンガポールで働きながら、母と妹と暮らしているとのことだった。

メッセージも毎日ではなく、送ったり送らなかったりで、いまいち続かなかったが、先週土曜日あたりから、急にお互いのやり取りの頻度が増えていった。

お、なんだ、いい感じじゃん。初回メッセージでよくあるHello, how are you?以外の色んな会話ができて、結構充実感を感じていた。

日曜日、乗馬の後に哲学対話のイベントがあり、そのイベントの間も「忙しいの?ごめんね」と言いながら次々メッセージが来る。

うい奴め・・・と思いながらも、別に心まで持っていかれることはない。会ったこともない人に恋をしたりはしないのだ。でも英語で色んな会話のパターンを試せるのがただ楽しかった。

「今日は何時に帰るの?」とメッセージが来る。おいおい、束縛系かよ。
イベントの後結構飲んでから、家に帰った後もメッセージは止まなかった。

早く寝たいんだけどな、と思いながらとりあえず返信する。

夜でだんだん向こうのテンションが上がってきたのかそっち系の話題になる。性的な映画が好きだの、プレイは好きかと聞いてくるのと、向こうは絶賛発情中である。

こういう迷惑メールあるよな、とうんざりしていたら

「お互いのソロプレイを見せ合わない?寂しくて眠れないの」

と使い古されたフィッシング詐欺みたいな文言が来た。

普段なら理性が働いてここでシャットアウトである、多分。
しかし相当酔っていて理性が飛んでいたのだろう。そういうことにしておきたい。
決して相手のプロフィール写真がホットなアジアンガールだったからではない、はず。

この時なんと、僕は


応じてしまった。


引いたでしょう、僕も自分でも思い切ったことをしたものだなと思っている。
よしんば応じたとしてもわざわざこんなところで告白する意味はない、けれど書きたい。書かせてほしい。でも全部読まなくていい、引き返すなら今です。


メッセージが来る。「今脱いでいるから、あなたも脱いで待っててね」
どうしてだろう、脳が勝手に相手の語尾にハートマークすらつけそうな勢いだ。
僕は今、顔も知らない相手と初見で独奏を見せ合おうとしている。

文字通りスマホの前スッポンポンで待つ。これが噂の全裸待機か。


相手からLINE電話が届く。ドキドキしながら応じる。

初めて相手の姿を目の当たりにする。想像以上にホットである。素晴らしい。
相手の指示でなぜか音声は切ったままだったが、お互いを無音で見せ合い、完走した。


通話が切れる。いい時間だった。

賢者の静寂に浸るところで、LINEの通知が鳴る。画像だ。


そこには、だらしない顔と体をした全裸の男、もとい、僕がいた。

続いたメッセージには

この画像はあなたで間違い無いですね?
ばら撒かれたくなかったら、即刻お金を振り込みなさい。


と、あった。


あれ・・・?


およ・・・?


おい!撮ってんのかよ!!

とんだハニートラップである。関係性を形成するまでに数日もかけた、こんな罠ってあるだろうか。
急にシリアスな展開になってきた。今問題なのは尻でもAssでもなく、主に僕の前方がモロ見えなことではあるのだが。

続いてまた画像が届く。

Instaで僕の知人に僕の醜態をDMし始めたようだ。

あなたの所属も、職場も私は知っています。全員にこれをばら撒かれたくなかったら、お金を!


急転直下、酔いも覚める勢いで、攻め立ててくる相手。

OMGって、こういう時に使うのかな。

あまりのことに思考が巡らない頭で、考える。

これはまずいな、バレたら辞めさせられるかな。という懸念や。
人にばら撒かれても、猥褻物陳列罪って言われるんだろうか、とか。
見た人どんな顔するだろうな、とか。

「さあ!一回払うだけだぜ、兄弟!」ともはや別人のテンションでドカドカメッセージを送ってくる相手。
「10万円を一回払うだけでいいんだ!」僕の将来、10万で買い戻せるのか・・・。

だんだん腹が立ってきた。
騙されたことに?いや、僕が怒ったのはそこじゃない。

自分の全裸の画像や映像をばら撒かれることを人はきっと恐れるだろう、というその陳腐な前提に、だ。

相手のメッセージを読みながら、こんな事を思った。
自分の動画がネットに出回ったり、リベンジポルノに遭ってしまった人の苦しみは、こんなもんじゃ無いんだろうな。

僕は男だから別にいい。男子校時代の愚かなノリが根底にある。笑ってもらえるなら、それでいい。でも、そう割り切れない人も絶対に、いる。

この相手を止めるとするなら、相手の常識を上回る狂気をぶつけた方がいいんじゃないかなという直感から、こんな言葉を返した。

いいよ、シェアしなよ。おかげで俺の世界は変わるだろうね!Let‘s Share!

相手が引いてるのが伝わってきた「酔ってるの・・・?」

俺は本気だぜ!さあ、シェアしなよ!

相手からしたらお金を払えば止めないと言えば、十中八九応じると思ったのだろう。
これに応じないのはただ画像を撒かれたい変態である。誰も好き好んでキモい男の写真と動画を一人一人にちまちま送りつける手間を負ってでも、人の人生を壊したいとまでは思わないだろう。

そしてそのまま相手をブロック。返す刀でInsta、LINEの両方で速やかに相手を通報するのも忘れず、床に着いた。が、案の定、興奮してあまり眠れなかった。結構動揺していたのだ。

翌朝恐る恐るメッセージが送られていたはずの友人に探りを入れる。何も届いていないとの事。良かった、間に合ったか・・・。もしくは、友人が気を遣ってくれたかだ。


その後、特に周りからは何も言われていない。相手のアカウント削除が間に合って無事消えたのか、それとも大人の対応をしてくれているのかは、藪の中である。

今週はずっと、今回もし、本当に画像と動画が広がってしまった場合についても考えていた。

確かに僕の気持ち悪い瞬間がデータに残されてしまっており、今後なんらかの機会に再浮上してくる可能性は一応、ある。
ただその内実は、普段人には見せないだけで、僕の日常のB面が高解像度で漏れてしまっただけに過ぎない。
誰かを傷つけようとしたり、嫌がらせをしようと思って残したものではない。
だからそれを見た、という人が現れても、僕は恥ずかしながら苦笑いを浮かべればいいのではないだろうか。

相手の想像以上の狂気を以って迎え撃つ。そんなアイデアが浮かんだのは、その頃ちょうどこれを読んでいたからだ。

命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也。この仕末に困る人ならでは、艱難を共にして、国家の大業は成し得られぬなり。
『南洲翁遺訓』
西郷南洲

おそらく考えうる限り最低の文脈で引用しているのはわかってる。

まさか西郷さんも後世の変態の弁明に使われようとは思わなかっただろう。
でもあの局面で、確かに僕は、仕末に困る人間に成る必要があった。

国家の大業どころか、スキャンダルで死にかけた奴にはおよそふさわしくない言葉かも知れないけれど。

ただ、あらゆる有名人が、勝手に聖人性を押し付けられ、いい時ばかり持ち上げられ、飽きたらベールを剥がされて片っ端から堕とされたり、逆に堕とすことで成り上がった人間が、国会議員にまでなってしまえる世の中のことを思うと、自分の汚い所は早々に開示しておいた方がいいとも思ってしまうのだ。それを弱みとさせないためにも。露悪趣味が過ぎるだろうか。

堕とすための目線はそこら中に張り巡らされている。自分が上がれなければ、その代わり人を落としてやろうという悲しさが、貧しさと共に蔓延し始めた。関係ない人間を槍玉に挙げては処刑の如く燃やし尽くす。炎上する阿呆も悪いが、だいたいのことに首を突っ込んで燃やすのは全く関係ない群衆である。

今回、僕は自分の中に、ちゃんとアホでスケベな中高時代の自分が生きていること再発見して嬉しくなった。

そして、そんなことすら過去にして、生きていていいんだなとも思った。
状況は簡単ではない。けれど、あなたを傷付けようと思って悪意を振りかざす人の意図に、そのまま乗ってやる必要もないのである。世間様が後ろ指刺すような過去があったとしても、その経験を経て、変わった現在の姿があるのなら、いつまでも恥じる必要なんてない。常識や世間体を盾にして、あなたを傷つけてくるような人に、傷ついてやる必要なんてないのだ。

かくして、こんなしょうもない話題からでも、哲学の扉は開かれる。

奇しくも僕が飲み過ぎたこの事件の当日、参加していたイベントは、哲学対話に関するものだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?