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AI感が足りない芥川賞受賞作「東京都同情塔」

最初のページで「?」が頭の中に浮かび、3ページほど進んだところで最初の眠け。6ページ目でパタンと本を閉じました。ここで一旦離脱。古本屋の仕事を少し片づけて、眠気を覚ましてから再度挑戦することに。この本のタイトルは芥川賞受賞作「東京都同情塔」。生成AIが話題となった作品です。その第一印象は少しとっつきにくい感じでした。

思い返せば、前年度の芥川賞受賞作「ハンチバック」も冒頭で「?」と感じていた。でも、あのときとはちょっと違います。紐解くとはよく言ったもので、難しい小説や意味不明な小説には、たいていヒントのようなものが垂れ下がっている。それを引っ張ると内容が見えてくる。ところがこの「東京都同情塔」からはその大事な紐がみつからない。

とはいえ、物語が進み、世界観が見えてくると、ページをめくる手は徐々に加速します。集中力も高まり、両手を差し出し、著者から話を受け取る準備が整うと、本は俄然面白くなる。

しかし、同時に物足りなさも感じます。なんといっても読書前に期待していたAI感がない。読者としては、いかにも人工知能が書いた文章を期待していたし、物語にどのように組み込まれるかにも興味がありました。しかし、それらの影が薄いのです。

小説の舞台は国立競技場がザハ案で通った後の東京都。つまりそれはパラレルワールド。その仮想世界の東京で、犯罪者を匿う新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」の建築計画が発表されます。その設計コンペに招待された有名建築家・牧名沙羅が主人公。沙羅は頭の中に言葉の検閲官を住まわせているにもかかわらず、喋り出したら止まらない。そんなアンバランスな沙羅がひとりの孤独な青年・拓人と出合います。この拓人が新しい刑務所の名前を「東京都同情塔」と名付けたところからストーリーが動き出す。

そして「犯罪」や「言葉」などのいくつものテーマが同時に進行し、作者の意向にそって最終的に集約します。このラストが芥川賞選考委員の作家より「完成度が高い」と高評価を。ただ、店主にとっては掴みずらい感じでした。

とはいえ、この小説が面白いか、面白くないかと聞かれたら、「予想しているよりは面白いよ」と答えたい。あっという間に読み終わりましたので。とはいえ、色々なことがこみこみなので、読書ブログは書きづらい。読者によっては無力感を感じてしまうかもしれないのでご注意を。

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