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店主と、本のある暮らし January 2023

こんにちは。いどうほんやKOKOです。
Instagramにて連載中の、【店主と、本のある暮らし】を
noteにも投稿していきたいと思います。

本との出会いや、交流のきっかけになればとても嬉しいです。


わたしのワンピース

January 1, 2023

明けましておめでとうございます。

今年の干支は卯ですね。

うさぎは、絵本にもよく登場する生き物の一つですが、皆さんは、うさぎの絵本と聞いて思い浮かべるものはありますか?

昨年、いくつかの出店の際にお客様に書いていただいた「思い出の本」でも、複数の方があげていた、大人気のうさぎの絵本があります。

それが、にしまきかやこさんの『わたしのワンピース』です。

主人公はうさぎの女の子の「わたし」です。
「わたし」がミシンで縫った真っ白なワンピースは、「わたし」が歩く道や時間の経過で、模様が変化していきます。

繰り返し登場する、ララランロロロンというフレーズを口ずさみながら、1、2歳からでも楽しめる、かわいらしい絵本です。

ララランロロロンと楽しんでいた我が家の娘は、そろそろ小学校生活も折り返しなのですが、わたしは最近初めて、この絵本を読んで切ない気持ちになっています。
楽しそうに歌いながら向こうへ歩いていく、主人公の「わたし」。

その後ろ姿を、そっと見守ることができる、あるいはその背中を優しく押してあげることのできる、大人でいられますように。

主人公はわたし。
この絵本は、きっと、読む人を主人公にしてくれます。

全ての子どもたちが、自分が主人公の、素敵な素敵な一年を過ごせますように!
子どもだけじゃなく大人もみんな、主人公は「わたし」です。

***
『わたしのワンピース』
著:にしまき かやこ
発行:こぐま社 1969年初版


夜の木

January 6, 2023

来週の木曜から3日間開催される「本と睦む月に」
繊細な手仕事によって生み出された、あたたかい品々に出会うことができます。
タイミンングが合えば、とっても素敵で気さくな作家さんたちのお話が聞けるかもしれません。

さて、本でも手仕事を感じてみませんか?

『夜の木』は、インドの小さな出版社Tara Booksが手がける絵本です。
紙を漉くところから全て手作業で作られた絵本は話題を呼び、2012年に初めて刊行された日本語版は、昨年12月に待望の第11刷が販売開始となりました。

描かれているのは、インド中央部の先住民族であるゴンドの民族画による、木をめぐる神話的な世界です。
ゴンド画、ゴンドアートとも呼ばれるこの絵は、もともとは家の土間や壁面に描かれるもので、紙に描かれるようになったのは、ほんの数十年前なのだとか。

美しい絵を見る者には幸運が訪れると信じているゴンドの人々が描く、神秘的で力強く、茶目っ気も見え隠れするような絵は、なんだか心地よく、いつまでも眺めていたくなるほどです。

『夜の木』は、版ごとに表紙の絵が変わるのも特徴です。
展示期間中は、店主の私物にはなりますが、第10刷も見本として展示します。
手触りや印刷の匂いも楽しみながら、隅々までじっくりご覧いただければと思います。

この他にも、手製本や装丁が美しい本をお持ちしますので、お楽しみに!

***
『夜の木』
著:シャーム/バーイー/ウルヴェーティ
訳:青木 恵都
発行:タムラ堂 2012年初版(2022年第11刷)


ぼく にげちゃうよ

January 9, 2023

まだまだ赤ちゃんだと思っていたら、いつの間にか顔も凛々しくなって、やんちゃもするようになった年中さんの長男。

『ぼくにげちゃうよ』は、そんな年頃の子どもに読んであげてみてほしい一冊です。

ある日、どこかへ行ってみたくなったこうさぎは、かあさんうさぎに言います。
「ぼく にげちゃうよ」
すると、かあさんうさぎは、「かあさんはおいかけますよ」と返します。

こうさぎは、まるでかあさんうさぎの反応を試すかのように、思いつく限りの逃げる方法を次々と挙げていきますが、かあさんうさぎも負けてはいません。
どこまでもどこまでも追いかけるつもりのようです。

過保護かな?とも思えるかもしれないストーリーですが、良いのです。

本当に逃げるとか追いかけるとかは別として、お母さんはいつでも見ていてくれるという安心感があってこそ、やんちゃもできるようになるし、いろいろなことに挑戦できるようになる。
のびのび自由に羽ばたけるのですよね。

もし、かあさんが「知らない。すきにしなさい」なんて言ったとしたら、こうさぎはとっても不安になって、かあさんの愛情を確かめようと、本当に外に飛び出してしまうのではないか、なんて思います。

同じ外に飛び出すのでも、それはわくわくするような冒険とは程遠いものです。

安心や信頼って、行動するためにとても大切です。
大人にとっても同じこと。
わたしがこうして本屋を始められたのも、家族や周囲の方々の応援や、信頼関係があってこそだと、感謝しています。

そうそう
ふーんと思って読んでくださっている方の中にも、恋愛で似たようなほろ苦い思い出をお持ちの方、きっといらっしゃるのではないでしょうか?

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『ぼく にげちゃうよ』
作:マーガレット・ワイズ・ブラウン
絵:クレメント・ハード
訳:いわた みみ
発行:ほるぷ出版 1976年初版


ペレのあたらしいふく

January 12, 2023

今日から、丸井今井札幌本店大通館3階にて、「本と睦む月に」がスタートします。

異なる素材を扱う4人の作家と、その作品をもとに1冊ずつ絵本を選び、それぞれのブースに一緒に展示させていただいています。

その中から、『ペレのあたらしいふく』をご紹介します。

とても大好きなこの本は、羊を飼っている少年ペレが、自分で羊の毛を刈り取り、さまざまな人の手を借りながら、自分のための新しい服を仕立てていくまでのお話です。

あたたかで穏やかな物語なのですが、服が完成するシーンでは、いつも激しく胸を打たれてしまいます。

自分で作らずとも、衣食住の全てが手に入ってしまう今の暮らし。
でも、作ることは、暮らしの基本なんじゃないかと感じます。

だからと言って、全部自分で作る必要はないのです。
ペレも、自分でできるところは自分で、お願いするところはお願いし、その代わりに、手伝ってくれた人の役に立つことをしていきます。

ああ、それもまた、暮らしの基本なのだなと感じます。

どんなものも、誰かが作ってくれています。
全てが手仕事かもしれないし、複数の人が分業しているのかもしれない。
誰かが発明した機械で、加工したり製造しているかもしれない。

私たちは、作ってくれた人たちの何か役に立つことをする代わりに、ちょうど見合うような価値を交換するために、お金を払っているのですよね。

今そこに当たり前にあるものは、どんなふうに、どんな思いで作られたものなのか。
この展示会をきっかけに、改めて意識を向けていこうと思います。

***
『ペレのあたらしいふく』
作:エルサ・ベスコフ
訳:おのでら ゆりこ
発行:福音館書店 1976年初版


ふゆ

January 14, 2023

「本と睦む月に」本日最終日です。

異なる素材を扱う4人の作家と、その作品をもとに1冊ずつ絵本を選び、それぞれのブースに一緒に展示させていただいています。
北国の冬を暖かく彩り、温もりを添えるような、素敵な作品が揃っています。

さて、今日は雨模様の札幌ですが、「ふゆ」はまだまだ続きます。

小さい頃、冬になると、祖父や母と家の裏山にスキーで登るのが恒例でした。
山の上に着いたら、おやつを食べたりジュースを飲んでひとやすみ。

行きは大変な山登りも、帰りはあっという間です。
森の木々の間を縫うように滑り降りるのは、爽快でした。

そんな自然の中でのスキーには慣れていたので、ゲレンデでもうまく滑れるはずだと思っていたのですが、いざ始まった小学校のスキー学習では全く勝手が違い、子どもながらにショックだったのを覚えています。

雪山登りでは、動物たちの足跡をいくつも見つけました。
ウサギやキツネ、鳥の足跡もありました。
動物たちがここを通ったんだ!
もしかすると、たった今、通ったばかりかもしれない!

見えない動物の姿を、足跡から想像するのが楽しく、もしも出会ったらどんなふうに挨拶しよう?なんて、空想を巡らせていました。

楽しくて愛おしい、冬の思い出です。

『ふゆ』は、そんな幼い日の冬を思い出させてくれます。
イタリアで長く読み継がれてきたという、この物語。
きっと、自分と同じような子ども時代を過ごしたたくさんの人がいるのだろうなあ。

あの日、見えない動物たちとの出会いを思い描いていたように、今も、まだ見ぬ友人と、冬の日の思い出を共有できるかもしれない未来を想像して、楽しんでいます。

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『ふゆ』
著:こうの あおい
発行:アノニマ・スタジオ 2012年初版


ももたろう

January 16, 2023

次回の出店は、1月23日のブランチ札幌月寒です。
選書テーマは、節分にちなんで鬼の絵本を集めてみようと思っています。

鬼といえば、やっぱり外せないのは「桃太郎」ではないでしょうか。

先日、フランス人YouTuberの方がTwitterで、日本には「桃が川を流れる音」の擬音語が特別に存在するらしいと綴ったところ、たくさんのコメントが寄せられたというのが話題になっていました。

そう、「どんぶらこ」です。

でも、実は「どんぶらこ」は桃専用ではなく、水の中に飛び込む音や、波の音などにも用いられていた言葉です。
ということは、桃太郎を語るとき意外にも、どんどん使っていい表現だということ。
例えば、2014年まで毎年開催されていた、豊平川のイカダ下り。
あれは、「どんぶらこ」だったなあという感じがしています。

さて、それほど日本人にとって馴染み深い桃太郎ですが、絵本で読んだことはありますか?
今と昔とでは結末が違うなど、何かと話題になったりもしますが、いろいろと読み比べてみるのも面白いはずです。
昔話の変遷となると、論文が書けるほどの壮大なテーマになってしまいますが、絵本を比べて考察するなら、自由研究にもぴったり。
この手の調べ物は図書館の得意分野ですので、ぜひ、利用してみてください。

KOKOで取り扱いがあるのは、松居直さんと赤羽末吉さんによる『ももたろう』です。
松居さんが桃太郎の再話にとりかかった背景には、他の昔話に比べて物語としての構成力が弱く、それ故に、時の権力に利用され、語り変えられがちだった桃太郎を、文学的な作品としてきちんと形にしようという思いがあったそう。
また、画を担当されている赤羽さんにも、鬼をきちんと恐ろしく描くという、確かな思いがありました。
「鬼の赤羽」と呼ばれていたこともあるという、赤羽さんの描く鬼は、桃太郎がわざわざ退治しにいく必要がわかるほどに、恐怖を知るに足るほどに、きちんと恐ろしいのがミソなのです。

さあ、こんな思いの詰まった『ももたろう』。
おばあさんが かわで せんたくをしていると、かわかみから、ももが……
あれ!!どんぶらこじゃない!!!

どんぶらこと流れてこない桃から生まれた桃太郎、どんな音で流れてきたのか、ぜひ、確かめてみてください。

***
『ももたろう』
文:松居 直
画:赤羽 末吉
発行:福音館書店 1965年初版


モカとつくるホットチョコレート

January 22, 2023

子どもたちとスキーに行ってきました。

スキー場の一番の楽しみは、もしかするとロッジで休憩することかも。
寒さも忘れるくらい楽しんで心地よく疲れたあと、ロッジに戻ってきたときのホッとした気持ち。
そこに、温かいココアがしみわたります。

雪遊びの後って、無性にココアが飲みたくなります。
子どもたちは「わかるわかる!」と共感してくれましたが、夫は「どっちかというと甘酒かな」とのこと。
でも、ちょっと甘いものが欲しくなるのですよね。

さて、『モカとつくるホットチョコレート』は、レシピつきの絵本です。
作者の刀根里衣さんは、イタリアの出版社からデビューし、ミラノを拠点に活動されている作家さんです。

以前、YouTubeで『モモ』の飲めるチョコレートの再現レシピを投稿した時、イタリアのホットチョコレートは、コーンスターチ入りでもったりしているのが特徴ということを知ったのですが、モカのホットチョコレートもコーンスターチ入り!

ちょっとビターなチョコレートの表紙をめくると、そこには幻想的で繊細で、ほわほわあったかいイラストが迎えてくれます。
まるでゲレンデから暖かいロッジに入った時のような、あのホッとした空気感がそこにあります。

***
『モカとつくるホットチョコレート』
著:刀根 里衣
発行:NHK出版 2022年初版(新装版)


スーツケース

January 28, 2023

先日、おおきな木 @ookinaki.ehonさんが主催する「大人のための英語の絵本読み聞かせ会」に参加しました。
前回参加したのは、確か妊婦だった頃なので、かれこれ10年近く前です。

その後なかなか機会に恵まれなかったのですが、たまたま用事があって中央図書館に出かけたところ、「本日開催中」の看板を見つけました。

プログラムを見ると、気になっていた『THE  SUITCASE(邦題:スーツケース)』の文字が!
時間を確認すると、大丈夫、午後の仕事にも十分間に合いそうです。
これは参加するしかない!と、少し予定を変更して、扉を開きました。

大きなスーツケースを大事そうに引きずる、見知らぬ不思議な動物。
それを不審に思ったトリとウサギとキツネは、正体や真相を確かめようと、その動物が疲れて眠っている隙に、スーツケースをこじ開けてしまいます。
目を覚ました動物の目に映ったものは何だったのでしょう。

作者のクリス・ネイラー・バレステロスさんは、難民や移住者を思い、この絵本を描いたそうですが、子どもたちには、それにとらわれず、見知らぬ人との接し方について考えてもらえたらとお話しされていたそう。

自分とは異なる他者との信頼関係を結ぶというのは、小さな子ども同士の友人関係でも、大人のビジネスシーンでも、どんな時にも起こる状況ですよね。

『スーツケース』に登場する動物たちの心のあり方には、深い感動を覚えます。

また、今回、英語での読み聞かせをお聞きしたのですが、
目覚めた動物が発する台詞「perfect」に、ぶわっと鳥肌が立ちました。

この先わたしが日本語で読む時には、あの「perfect」の感動を思いながら読むことになりそうです。

***
『スーツケース』
著:クリス・ネイラー・バレステロス
訳:久保 美代子
発行:化学同人 2022年初版

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