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「本屋」の話をしたら、「人」の話になった。 - 本屋博実行委員長インタビュー 後編-

2020年1月31日(金)・2月1日(土)の2日間、約40の個性あふれる本屋が一堂に会し、その魅力と可能性を発信する本屋のフェス「二子玉川 本屋博」を開催します。それに先立って、本屋博実行委員長・北田博充に「企画に込めた想い」、「本と本屋にまつわる自身の記憶について」など、いろいろと語っていただきました。「本屋」の話を聞くつもりが、いつしかそれは「人」の話になっていき…。聞き手は、同じく実行委員の中田がつとめました。

(前編はこちら

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◎北田博充(きただ ひろみつ)
1984年生まれ。出版取次会社に入社後、マルノウチリーディングスタイルを立ち上げ、その後リーディングスタイル各店で店長を務める。2016年にひとり出版社「書肆汽水域」を立ち上げる。現在は、二子玉川 蔦屋家電でコンシェルジュを勤める。本屋博実行委員長。


自分にできることはまだいっぱいある

― ちょっと話は変わって抽象的な質問になってしまうかもしれないのですが、業界に対する危機感みたいなものってありますか。本屋博がその危機感に対する1つの「答え」になっているのかお聞きしたいです。

北田:なるほど。ぼくは全く危機感とかないです。感じたこともないし、危機だとも思ってないし、ネガティブなことを一切考えたことがない。なので、本屋博がそれに対して何かをしようとした「答え」ではないですね。

― なるほど!

北田:だから、なんていうんでしょうね。業界的に数字が落ちてきているというのも、まあよく言われていることですけど、だからこそ、チャンスがいっぱいあるし、自分ができることもいっぱいある。誰かがやってくれるとか、誰かが業界を変えてくれるとか、そういうことを考えずに、それぞれが自分のできることをするのが一番ですね。
今って組織に所属している人もいれば、そうじゃない人もいますよね? 個々人が自分の持ち場でできることをやっていかないと。ぼくも自分ができることをやればいいと思っているから、悲観的に思ったことはないですね。

― ニュースではいろいろ言われていたって…

北田:その分、個性的な新しいお店だって、いっぱい増えています。出版業界が落ち込んでいるのに、独立系書店は増えていて、年に何回も雑誌で「本屋特集」が組まれたりするわけですし。そういう一種の矛盾に見えるようなことも、そういう状況だからこそチャレンジする人が増えているという証左ではないでしょうか。
もちろん、個人の人が店をやるのになかなか取次と口座を開けないとか制約もありますけど。でも、出版流通も多様化してきていて、いろんなところから本を仕入れられるようになっているし、新たな業態を模索して収益がでるよう工夫しているお店もあるから、きっとチャンスもあると思います。
それに本屋業界の外から入ってきている人もいますよね。そういうのが健全だと思うんです。きっと何かイノベーションが起きるときって、その業界の外から来た人の知恵とか、今までやったことがないやり方で切り開いていくわけですから。そういう人の存在がすごく大きいと思います。

― そういう方がいる限りは北田さんは業界に対して、ネガティブなイメージにはならない。

北田:そうですね。本屋がなくなるってことに感情的になったり、感傷的になったりするのは、なんていうんでしょう、誤解を恐れずに言うと、一種のノスタルジーに浸っているだけなのかもしれないな、と思ったりもします。本当にお客さんが求めているものは必ず残るはずですよ。本屋だってビジネスですから、やっぱりそういうものだと思います。海外に比べると日本の本屋はびっくりするくらい多いから、まだまだ減っていくかもしれないです。けれど、その分、今までになかったような新しい本屋が出てくるかもしれない。

― 新しい本屋さん。

北田:そうです。吉祥寺のブックマンションさんとか、ユニークな本屋さんが増えてきました。本棚を月額利用料3,850円(税込)で利用者に貸し出す、レンタルボックスの本屋版のようなお店ですが、すでに棚は埋まりつつあるようです。従来の「本を仕入れて本を売るのが本屋」という固定観念から脱却すれば、まだまだいくらでも本屋で商っていく方法はあるはずです。お客さんや読者にちゃんと目を向けていれば、いくらでもヒントが転がっているでしょうし、これからはお客さんや読者の力を借りることも大事だろうと思います。

―読者の力。

北田:そうです。だって今まで、我々の業界っていうのは読者の方を向いてこなかったわけですから。読者を置き去りしてきたところはありますよね。粗利ミックスという、本と雑貨とカフェを掛け合わせて利益率を上げるという考え方だって、それが目的になっちゃうと変ですよね。お客さんに本屋の利益率なんて関係がないわけですから。何かをやるときに、自分のところの利益率とか自分のところの都合を考えちゃうんですよね、この業界って。行き詰っているからだと思いますけど。
売上が下がって、利益が下がってジリ貧になると、自分のことしか考えられなくなっちゃう。すると読者が置き去りになって、そこから読者の意向と離れたところにいっちゃう。そうじゃなくて、読者のことを最優先で考えてやっていくと、絶対に勝機はあると思うんです。

仲間を増やしていく感じ

― ここからは、本屋博を企画して実行に移そうと思った北田さん個人の話を少し聞きたいなと。北田さんって「本」と聞いたときに浮かぶ原風景と「本屋」と聞いたときに浮かぶ原風景ってどういう記憶があるんですか?

北田:それが特にないんですよ。子どもの頃なんか、ほんとに本を読まなかったし。

―そうなんですか?

北田:親がそんなに本を読むほうじゃなかったから、ほんとになくて。みんなが言うような「小さいときから図書館に通い詰めて」とか「お小遣いを握りしめて本屋に」とかいうのは全然ないんです。でも本屋に行くのは好きだったから、中学生とか高校生のときとかはよく本屋に行っていたと思います。地元の神戸にジュンク堂サンパル店という書店があって。そこで本を立ち読みしていました(笑)。

― そうだったんですね。じゃあ本が好きになったきっかけは、特別にこれというよりは。

北田:はい。でも大学の頃からでしたね、すごく本を読みだしたのは。人より読みだしたのは遅いし、でもそこからすぐ本屋でアルバイトをするようになりました。最初は東梅田の清風堂書店、その次に神戸元町の海文堂書店。ぼくの書店のキャリアのスタートです。
あと、大学生の頃は、アメ村のヴィレッジヴァンガードが好きでした。そこからですね、大阪屋への就職を決めたのも。

―大学生のときに本の業界で働こうって。

北田:決めました。自分で本屋をやろうと決めていましたね。

― それってけっこうな決めだと思うんですけど。

北田:たまたまです。自然とそうなっていきました。なんかきっかけがあってとかではなく自然に。でも本屋さんをやりたいと20歳くらいからずっと思っていましたね。24、25歳で独立して自分のお店をやっていこうと決めていましたけど、いまだにできてないですね(笑)。

― それも強烈なきっかけがあったとかではなく。

北田:そうです。だいたい、何かきっかけやエピソードを語る人って、ほとんどが後付けだと思うんですよ。ぼくには何も強烈なエピソードはないです。ただ、本屋をやりたいと思い始めただけです。ただ、店をやるにはどうやらすごいお金がいると気づき、取次というところから本を仕入れないといけないんだと分かり、取次と口座を開くには莫大なお金がかかるとわかり(笑)。

― わかり(笑)

北田:とりあえず取次に入社したら、退職して独立するときに、その取次で口座を開いてもらえるのでは、という浅はかな考えで取次に入社しましたね。取次とコネさえ作っておけば大丈夫だろうと。

― いずれ本屋を作る前提だったんですね。

北田:そうです。3~4年で辞めるつもりだったのが、結局10年いましたね。辞めようかなと思っているときに、リーディングスタイルのプロジェクトができて、自分がやらせてもらえたから……ほんとラッキーでした。そのおかげで本屋を自分で作れましたし。だからそんな大したエピソードはないんです。

―本をつくることを決めたのは。

北田:それは2016年頃です。前の会社を辞める時に思いついたので。せっかく退職金が入るから、それで本でも作ろうかなと。本の世界で働いて10年の節目だったので、今まで考えてきたことを整理しておこうと思い立ちました。
ゆくゆくは本屋がやりたいという想いは変わっていなかったんですけど、この業界で働けば働くほど、独立して本屋をやるのは厳しいということが分かってくるから、本を売るだけではなく、他の能力を増やさないといけないなと。本を仕入れて売るだけではなくて、文章を書いたりとか、本をつくったりとか、そういう技術も習得していかないと、これから生き残っていけないなと感じました。するとまあ、やってみると楽しいし、気づくことも多くて。やっぱり、作り手をやることで売り方が変わったりとかもありましたよ。きっと逆もあるんでしょうけど。自分と違う立場を経験することで見えてくることがいっぱいあるので、やってみてよかったと思います。

― また新しく作ってますしね。

北田:作っている瞬間より、書店に営業に行っているときの方が楽しいですけどね。

― 反応をもらったりとか。

北田:そうですね。仲間を増やしていく感じでしょうか。何事も一人ではできないですから。賛同して自分と同じ熱量で売ってくれる仲間を何人増やせるかにかかっていると思います。なので、推薦文とか解説も書店員の方に書いてもらっているし。そういう方たちが自分事のように売ってくれるので、そういう人をいっぱい増やしていくことが大事ですね。本屋博の仕事もそうですし、書店での仕事もそうだと思いますけど。本屋博はすでに中田さんの企画になってるでしょ?

―なってますね(笑)。 きっとみんな、けっこう自分の企画になってるかも。

北田:それが一番いいんです。

―出店頂く本屋さんにもそう思っていただけたら。

北田:そうそう。出店者さんがそう思ってくれたら最高ですね。本屋博はそういうフェスにしたいと思っています。出店者さんもお客さんも全員が主役になるフェス。脇役が一人もいないお祭りです。

本当の「偶然の出会い」が起こる場所に

― そろそろ終わりに近いのですが、本屋博の楽しみ方を語ってもらいたいです。本好きな方はご自身で楽しみ方を見出して楽しめるかと思うんですが、なんかおもしろそうなことやってるなと外から来てくれる人たちには、どう楽しんでいただくと嬉しいですか。

北田:興味のあるところから入ってもらえればと思います。出店する本屋さんも多種多様ですからね。絵本の本屋もあれば、女性向けの本屋もあれば、植物の本屋もある。自分の興味のある店に足を向けてほしいです。それに、本じゃなくても食べ物や飲み物もあるし、ライブやトークイベントもあるわけですから。ひとつでも興味のあるものに足を運んでもらえたら、そこから芋づる式でいろんなところをぐるぐる回ってもらえるのではないかなと思います。
普段本を読まない人や、本屋に足を運ばない人に、本や本屋に興味を持ってもらうことが目的の一つなので、店内でイベントをやったって意味がないんです。本や本屋に興味がない人は本屋に行きませんから。通行量の多い屋外でフェスをし、興味のなかった人たちを巻き込まないといけないんですよね。だからキッチンカーや音楽ライブをコンテンツに含めているんです。

第二次出店者


― そこで新しい本屋や書店員の方との出会いとか。

北田:会話とかが生まれると思うんですよね。

― そういうハプニングが起きるといいですよね。

北田:そう、「偶然の出会い」が起きてほしいです。「偶然の出会い」ってよく書店の場でも言いますけど、そういうのってやっぱり「つくられた偶然の出会い」ですよね。だって、そうなるように書店員は本を並べているわけですから。こういう風に買ってほしいなというのを、偶然の出会いを演出して、さも偶然のように仕立てあげるのが書店員ですよね?
そうじゃなくて、本屋博は「リアルな偶然の出会い」にしたいんです。ふらっと立ち寄った人が、なんかおもしろそうだなって感じるような。そこには計算もなくて、いい匂いがしてきたから行ってみよう、音楽が鳴っているから行ってみよう、なんか楽しそうだから行ってみよう、そういうのが自然でいいんじゃないかなと。そういうのって、普通に書店を営業しているだけではなかなかできないですからね。

― そういう偶然の出会いの作り方はなかなか難しかったりしますよね。

北田:そうです。本屋博は、いろんな店の方がいるし、その日限りなので。

― 狙わない事故が。

北田:そう。

― ひとつずつ面白いものをつくって。あとは勝手に何かが起こる。

北田:何かが起こる「かもしれない」。

― かもしれない。

北田:そう。それがいいなあと思っていて。そういうのがいろんなところで起こったら、成功かなと思います。

― いいですね。最後に、本屋博の今後のイメージってありますか。

北田:継続して開催したいという思いはあります。あと、場所を変えてやるのもありかもしれませんね。その時は、やりたい人がやればいいのかなと思います。

― 本屋博は看板であり集合場所のような。

北田:そうです。ただ唯一条件があるとしたら、本屋だけが集まるという点にはこだわりたいですね。

― いいですね。むしろ、第2回はお客さんとしていきたい。ビールとか飲みながら(笑)。

北田:それはいいですね。楽しいだけのフェスが一番です(笑)。

(おわり)

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二子玉川 本屋博は、二子玉川 蔦屋家電のBOOKコンシェルジュ・北田博充が企画した、約40の個性あふれる本屋が一堂に会し、本屋の魅力と可能性を発信するフェスです。

あの店主に会いたい、あの本屋でしか出会えない本がある、あの本屋は私のために存在するんじゃないか……そんな風に思える本屋こそ、私にとっての「唯一の本屋」です。

私の物語をより豊かなものにしてくれる、私にとっての「唯一の本屋」
あなたがあなたと出会える、あなたにとっての「唯一の本屋」
貴くて、愛らしくて、ちょっぴり憎らしい。
そんな「唯一の本屋」と、二子玉川で出会いましょう。


<開催概要>
日時:2020年1月31日(金)11:00~20:00、2月1日(土)11:00~19:00 ※雨天決行・荒天中止
場所:二子玉川ライズ ガレリア (二子玉川駅直結 東京都世田谷区玉川2-21-1)
参加費:無料
主催:本屋博実行委員会
協力:二子玉川ライズ・ショッピングセンター、二子玉川 蔦屋家電
ホームページ https://store.tsite.jp/futakotamagawa/bookshop-expo/

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