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レティシア書房店長日誌

萬屋健司「ヴィルヘルム・ハマスホイ静寂の詩人」
 
 ヴィルヘルム・ハマスホイという名前の画家を知ったのは、NHKの日曜美術館でした。ドアの向こうに後ろむきに佇んでいる女性、あるいは扉を開けっ放しにした部屋の向こうを描いた作品など、孤独感と静謐な雰囲気のある作品に魅せられました。残念ながら作品展を実際に観ることは叶いませんでした。本も探してみたのですが、あまり見当たらないのです。
 

 「19世紀末から20世紀にかけて活動したデンマーク人画家、ヴィルヘルム・ハマスホイ。静謐な室内画をはじめ、独特の詩情を讃える風景画や建築画、モデルの内面を鋭く捉えつつも、共感に満ちた肖像画など、およそ30年間の活動を通じて優れた作品の数々を世に送り出しました。」と本書の冒頭に書かれています。本書はハマスホイの歴史や、当時のデンマークの画壇の実情などを解説しながら、豊富な作品を見せてくれます。
 私が好きな作品も載ってました。彼が住んでいた場所から目と鼻の先にある「旧アジア商会」を描いたものです。曇天の空、全く灯のない建物。後ろに見える船のマスト。ゴシックロマンの世界と言うか、かのドラキュラ伯爵の出てきそうな雰囲気です。恐ろしくもあり寂しくもある絵ですが、目が離せない力を持っていると思いました。

旧アジア商会

 1902年の地元の新聞はこう書いています。
「四方を壁に囲まれたこの小さな部屋で、ハマスホイは彼の慎ましやかな芸術家としての人生を送っている。彼はここで描くのを好むが、時には古い建物や宮殿、かつてのアジア商会の前にイーゼルを立て、過ぎた時代の美しい、消えゆくシルエットに落ち着いた色彩の詩情を重ねていく」
 窓から差し込む朝日の柔らかさ。重厚でシンプルな家具が醸し出す美しさ。それらが相まって独特の世界を作り出しています。

背を向けて若い女性のいる室内

 代表作と言われている「背を向けた若い女性のいる室内」。シックな黒い装いの女性、背を向けた彼女の白い首筋が印象的な作品は、静寂感の漂う作品ですが、彼が生きていた時代にはほとんど無視されていました。その後、20世紀の半ばまで人知れず眠っていたそうです。
 首都コペンハーゲンの古い建物にすみ、その室内を執拗に描き続けた画家の作品は、没後、時代遅れの作家として見なされていました。多種多様な絵画の波に飲み込まれそうになりながらも生き続け、今日高い評価を得るようになったのです。実物を見たい!!

●レティシア書房ギャラリー案内
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
村松圭一郎「人類学者へのレンズ」(1760円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
森田真生「センス・オブ・ワンダー」(1980円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
上野千鶴子「八ヶ岳南麓から」(1760円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
「たやさないvol.4」(1100円)

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