レティシア書房店長日誌
柏澄子「彼女たちの山」(新刊1870円)
サブタイトルに「平成の時代、女性はどう山を登ったか」とあり、第1章では平成時代に活躍した女性クライマー5人を取り上げています。第2章では、「山ガール」「山小屋の女性たち」「山岳ガイド」「大学山岳部」「スポーツクライミング」「アルパインクライミング」というテーマ別で、山に関する所で活動する女性たちを追いかけたノンフィクションです。著者自身、日本山岳ガイド協会認定の登山ガイドで、山に関する本を多く出しています。
5人のクライマーの一人、遠藤由加さんは1966年生まれ。1988年、ナンガパルバット無酸素登頂に成功。1994年(平成6年)チョ・オユー南西壁に登頂。その後、フリークライミングに傾倒し、国内外の壁を登っています。因みにナンガパルバットとは、ヒマラヤ山脈のパキスタン側にある山で標高は8126 m、世界第9位の山です。
次々と8000メートル級の山を制覇し、クライミングの国内年間チャンピオンの座を狙うことも十分可能だったけれども、「年間チャンピオンの座よりも、登りたいルート、登りたい岩の方が大切だった。自分の思い描くクライマーとしての姿があり、それに沿わないもの、自分が好まないもの、関心がないものは、なんの迷いもなく切り捨てた。」ということです。まだまだ男性中心だった山の世界に挑んだ女性たちには、それぞれに越えていかねばならない壁があったはずです。そこでは遠藤由加さんのように、自分のやりたいこと、生きてゆく方向をきっちりと見据える必要があったのでしょう。
田部井淳子さん。1939年生まれ。1975年、女子登攀クラブ隊でエベレストに女性として初登頂しました。晩年、腹膜癌で苦しみましたが、
「病気にはなるが病人にはならない」と言い続け、最後まで山に向かいました。「田部井はいつでも『女性』を大切にし、女性が山に親しめる環境を、私たちに差し出してくれた。いや性別に限らず、朗らかに登山の歓びを伝えた。」と著者は彼女のことを書いています。
「山ガール」の項目では、日本初の山ガール向け雑誌「ランドネ」でモデルを務めていた仲川希良が登場します。現在、子育て真っ最中の彼女。子育てに家事に忙殺される彼女にとって、自分の思考を広げてくれるのが山だったと告白しています。
「子どもには夫と一緒に留守番をしてもらって、仕事で山に行ったとき、静かな世界に戻ってこられたと思いました。けれど、それは違ったんですよね。山には山の音がある。風の音、鳥のさえずり、水の流れる音。静かになるのは、それに耳を傾ける私自身。山を歩き心が整い、自分自身に静けさが訪れる。それが私の好きな瞬間です。」
最初に登場する5人のクライマーの話では、病気、怪我、あるいは命を落とした方など壮絶な人生も語られます。しかし、山を愛し、ともに生きてきた女性たちの物語を、苦闘の物語ではなく、好きなことを楽しんでやってます的な雰囲気で表現してくれた著者の筆運びが、印象的でした。
●レティシア書房ギャラリー案内
4/10(水)〜4/21(日) 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
平田提「武庫之荘で暮らす」(1000円)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)