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レティシア書房店長日誌

相原裕美作品「トノバン 音楽家加藤和彦とその時代」
 
 中学校の時だったか、ラジオからヘンテコな歌が聞こえてきた。
「おらは死んじまっただ、おらは死んじまっただ、天国に行っただ」で始まり、「天国よいとこ 一度はおいで 酒はうまいし、ねえちゃんはきれいだ」なんやこれ!?とじっと聴いていた記憶があります。歌っていたのは、はしだのりひこ、北山修、そして加藤和彦の京都出身の学生バンド「フォーク・クルセイダーズ」でした。今でこそインディーズ発の音楽って山ほど存在しますが、当時レコード会社の手を借りずに、若者の企画で生まれた作品は皆無だったと思います。バンド解散後、三人はそれぞれの道を歩み始めます。
 

 そして、加藤和彦は様々な新しい音楽に挑戦していきます。71年に結成した「サディステイックミカバンド」は、日本のロックバンドではずば抜けてサウンドの質が高く英国で高く評価されました。その後ソロ活動をしてからは、おしゃれでセンスのいい男をまるで演じるかのごとく、ダンディでデカダンスの香り溢れるアルバムを発表。音楽だけでなく衣食住に最高のものを求める生活を、私たちに見せてきました。特に「ヨーロッパ三部作」と言われる三枚のアルバムは私の愛聴盤で、哀愁に満ちた音楽は、この上なく贅沢なサウンドでした。
 そんな彼の音楽人生を、彼に関わった多くの人たちの証言と、かつての映像で振り返った映画が「トノバン・音楽家加藤和彦とその時代」です。(京都シネマにて上映中)今回映画を観て涙がでたのは、やっぱり北山修と作り歌った「あの素晴らしい愛をもう一度」でした。この曲が初めてラジオから流れてきたとき、最初のギターのイントロ部分で曇り空がさぁ〜っと晴れてゆくような気分になったことを覚えています。
 オペラの音楽や映画のサントラ、多くのシンガーのプロデュースなど多様な場面でも活躍していました。しかし、2009年軽井沢のホテルで自殺。62歳でした。映画の中で北山修は、加藤の人生をこう述懐しています。「あらゆるレッテルを拒否した、やってみないと分からない、予定のない人生が理想」と。
 私が観に行った平日の劇場はほぼ満員。しかも、音楽ドキュメンタリー映画にしては、かなりご高齢の方ばかり(当然私もその一人ですが)。きっと皆さん、「おらは死んじまっただ、おらは死んじまっただ、天国に行っただ」を歌って青春を過ごしていた人たちです。

●レティシア書房ギャラリー案内
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内
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花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
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若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
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(2530円)
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今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
「本と本屋とわたしの話vol.21」(300円)

今日マチ子初エッセイ集




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