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レティシア書房店長日誌

友田とん「先人は遅れてくる」

 友田さんは、京都出身の作家で編集者、出版社「代わりに読む人」代表でもあります。最初に名前を知ったのは、2018年に自費出版された「『百年の孤独』を代わりに読む」というヘンテコなタイトルの本でした。ガルシア・マルケスの傑作「百年の孤独」は、二度トライして、結局挫折した文学でした。それをどう書いているのか興味津々でしたが、あいにく、その本は読むことができませんでした。
 ある日、友田さんが「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する」を置いてくださいと、営業に来られました。えっ?何そのタイトル??とは思いましたが、飄々としたご本人の雰囲気に負けて販売を開始。すると、さぁーっと売れていったのです。その後、続編とも言える「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する2」も発売されたので、どちらも読んでみました。ナンセンスというか、かる〜い不条理のような設定から私たちの日常、そして文学に入り込み、クスッとさせる手腕が見事でした。
 そしていよいよ、「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3」として「先人は遅れてくる」(1870円)が出ました。

 いやぁまぁ、ナンセンスさは健在で、そんなことに熱心になるの?と思うような部分もありますが、極めて”真面目”な本でした。オタク的な熱狂さもなく、クールに言葉を見つめてゆく一冊でした。
 「抽象とは複数の時間や場所をまるで一つのこととして眺めた時に発せられる言葉である。町を歩いていると、不意に抽象的な言葉が飛び込んでくることがある。果たして私にそれを受け取ることができるだろうか?と不安がよぎる、しかし、心配ご無用。抽象的な言葉はそれが抽象的であるが故に瞬時に受け取られる。なぜか?それはどういうことかと疑問を人に持たせるからだ。ぼんやりしていても見逃すことはない。そう言えば、私が『パリのガイドブックで東京の町を闊歩する』というよく意味のわからない言葉を受け取ってしまった時もそうであった。私が言葉を受け取ってしまったのは、それがよくわからない抽象的な言葉であるからだったのだ。単に具体的なレベルの言葉であれば、気にも留まらなかったに違いない。」
 長々と引用しましたが、これ、住宅街の中の空いているスペースに、「空いています」という札が立っていたのをみて彼の頭の中でぐるぐる考えたことです。(ご丁寧に写真まで載っています)「空いているのに、わざわざ『空いています』と看板を立てる。そのことによって、そこがただ空いている以上の抽象的な事実を私に伝えていたのだ。」ということだと。
 言葉をめぐる哲学問答みたいな文章ですが、ブラブラと町を歩いていて、フツーなら何にも気にせず通り過ぎるモノを見つけ出して、考える、そして答えを見つけてくる、そんな楽しさに満ちています。
 著者が何度も繰り返してみたNHK「電子立国日本の自叙伝」に登場する電気メーカーの社長との交流をめぐる第3章「繰り返しの効能」は、なかなか泣かせる物語でした。初回分のみ著者サイン入りです!


レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
「古本屋台2」(サイン入り/1650円)
RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(著者サイン入り!)

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