見出し画像

レティシア書房店長日誌

角幡唯介「旅人の表現術」

冒険家角幡唯介は、2010年に発行された「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」で鮮烈なデビューをしました。これは、本当に面白かったです。その後、「漂流」「極夜行前」と続けて読みました。今回ご紹介するのは、著者が様々な媒体に発表した書評や対談をまとめた「旅人の表現術」(古書/1600円)です。

書評で、う〜んと唸ったのは開高健「夏の闇」論でした。戦後、「現代人は死から切り離されることで自らの生を見失い、行き場をなくした閉塞した人生を送らざるをえなくなったのだが、そのことに最も敏感だったのが開高健だった。『輝ける闇』で一貫して提示されたのは、いかにその漂流した生から脱却し、自己の身体をこの世界に対して主体的に打ち立てるかという、開高健個人と世界との関係の切り結び方の問題であり、作中ではそのことに対する煩悶や自問をキリがないほど繰り返している。」
若い時に読んだのですが、ひたすら暑苦しさと閉塞感に悩まされた記憶が蘇りました。もう一度、読んでみようと思いました。

対談に登場するのは、沢木耕太郎、石川直樹、鈴木凉美、三浦しおんと様々なジャンルの方が登場します。冒険の定義、旅とは何か、と自由に語っています。なんで前人未到の危険な場所に行くの?という疑問お持ちの方には、ぜひ読んでいただきたい。笑ったのは、小説家の増田俊也との対談。著者が北極に行った時のことです。

角幡「行ってしばらくの間は環境が過酷だから、性欲がすごかったんです」
増田「性欲が?」
角幡「ええ。もう中学生みたいになっちゃって。だから、もしアレでお悩みの方はぜひ北極に(笑)。」
極寒の地を歩きながらいやらしいことばかり考えていたなんて、人間って不思議な動物ですね。日常生活を淡々と過ごす私たちには、冒険なんて縁遠いものですが、よくもまぁこんな場所に行くよなぁ〜と感心しながら読んでゆくと、見慣れた風景から、いつの間にか極地へと飛んでいけそう。

京都の方には、「梅棹 忠夫と西陣、北山」というエッセイがあります。是非是非お読みください。京都からなぜ多くの探検家が出たのかが理解できます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?