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レティシア書房店長日誌

ハン・ジョンウォン「詩と散策」
 
 
25章からなる本書は、詩を読み、一人で散歩に出かけ、日々の生活で感じたことを綴った著者の初めての本です(新刊/書肆侃々房1760円)。
 散歩が役に立つかどうかだけを考えて歩く人を「散歩者」とは呼びたくないと著者は言います。
「目を傾け、耳を傾ける私の散歩の動線は、まっすぐではない。移り気な蝶のように螺旋を描きながら動く。だから歩く時間が長くなってしまう。 途中、死にゆく虫につき添ったり、窓の外を見ている犬にあいさつしたり、猫の鼻くそを取りながら費やす時間を、私はべつに恥ずかしいとは思わない。そんなときの私がいちばん本当の『私』と重なるからだ。また、自然やすれ違う他人とも一瞬だが重なり合う。そのように重なる瞬間に私は希望を見いだす。そんな瞬間すらなければ、矛盾と増悪に満ちたこの世界で、絶えず毀されていく存在をどう直視し、それに堪えられるだろう。」

 著者は、文壇に詩人として正式にデビューしたわけではないのですが、いつも詩人の心を持って生きようと言い聞かせてきたそうです。そんな風に生きてきた日々の中で、心に飛び込んできた言葉を素直に文章にしています。
「人生のある瞬間に思い浮かんだ詩の欠片を、文章の中に散りばめました。中にはあまり知られていない詩人の名前もあれば、金子みすゞのような嬉しい名前もあります。私にとって大切な詩を、この本を読んでくださるみなさんもおなじように美しいと思ってくださったら幸いです。」とあとがきの「日本の読者のみなさんへ」に書き記しています。
 詩集を買って読むのは、ちょっとなぁ〜とお思いの方には、最適な一冊かもしれません。そうか、詩の言葉ってこんなに奥行きのあるものなのかと思いました。ぜひ、散歩のお供に。きっと世界が違って見えてくるはずです。
 「家にいるときは、灯りを点けずに夕刻を迎えるほうだ。急いで暗さを追いかけたくないからだ。その代わり、声に出して詩を読む。夕暮れどきは黙読より朗読がいい。唇のあいだから出てきた黒い文字が鳥のように飛んでいく想像をしながら、詩と夕暮れはよく似合う伴侶のようだと思う。暖味さと暖味さ、見慣れないものと見慣れないもの、昇華と昇華の出会い。」韓国語を、詩的イマジネイション豊かな日本語に置き換えた翻訳家の橋本智保の功績も大きいと思います。
 「朝が暗くなっている。読みかけて伏せてあった本の上に、灰色の猫が寝転がる。猫は本を読まないが、本をこよなく愛している。とても軽く愛している。遠くにいても喜んでやってきて、その上にゴロンと横たわって眠ってしまう。」猫と暮らす彼女は、こんなことも書いていますが.......。ホンマかいな?(うちの猫は違うな)

●レティシア書房ギャラリー案内
1/10(水)〜1/21(日) 「100年生きられた家」(絵本)
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)

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