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レティシア書房店長日誌

「安井仲治作品集」(新刊/河出書房新社)

 この写真家のことを全く知らなかったのですが、ずっと以前に、雑誌だったか何かの本だったかで、強烈に印象に残る写真を見ました。それが、安井仲治でした。しかも私は二度遭遇しているのに、名前も調べず放っていたのです。本屋として怠慢でした。
 強烈な印象を残した写真というのは、1932年に発表された「機関銃」です。ざらついた画面に、機関銃の銃身のクローズアップと、その向こうに銃剣を構える兵士がいます。不謹慎にも、かっこいい!と思いました。その後すぐに人殺し道具の持っている冷酷さが迫ってきたのです。
 そして、また別の読書中に、第二次世界大戦中、迫害を逃れて神戸についたポーランド系ユダヤ人を被写体にした「流氓ユダヤ」という写真を目にしました。こちらを凝視する表情の母と子の視線から、しばらく目が離せませんでした。さすがに、その時は写真家の名前が書いてあったので覚えていました。

 そして、本年から翌年にかけて全国を巡回する「生誕120年安井仲治-僕の大好きな写真」展の公式図録が発売されました。(新刊/河出書房新社/3740円)関西は兵庫県立美術館にて開催予定です。
 安井仲治は、1903年大阪に生まれます。学校を卒業後、実家の安井洋紙店に勤務しながら趣味として写真を撮っていました。十代末には関西屈指の写真同好会、浪速写真倶楽部に入会します。二十代で指導的立場になり、この時創設された写真の公募展に作品が入賞します。芸術表現としての写真と同時に、社会の片隅で生きる人々を捉えたプロレタリアート的な作品も発表していきます。今回発売された作品集には、この写真家の幅広いテーマの捉え方、多彩な表現力を楽しむことができます。もちろん「機関銃」(57P)も「流氓ユダヤ」(180P)も掲載されています。
 今回再会した「流氓ユダヤ」連作の一枚「母」と題された作品は、悲惨な生を背負った母の困難さと、強さが表現されていて、やはり強い印象を受けました。

「機関銃」

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