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レティシア書房店長日誌

最相葉月「星新一 1001 話をつくった人」
 
やっと読み上げた、総ページ数571ページ!!こんなに面白い評伝は初めてでした。
 よく知られているように星新一はショートショートの名手、他の追随を許さない存在でした。日本SFの夜明けを小松左京、筒井康隆などと共に走り抜けた作家で、なんとショートショート物語を生涯で1001作書き上げたのです。順調な作家人生を送った方だと思っていたのですが、これが大違い!作家デヴューするまでの人生は波乱万丈の日々、だから、こんな大著になったのです。

 「新一は、随筆でたびたび、自分が星製薬の創業者・星一の長男であり、父親の死と同時に社業を継ぐが、債鬼に追われて会社を手放したと書き記している。星製薬といえば、大正から昭和にかけて国内の医療用モルヒネ生産を一手に取り扱うと同時に、全国で初めて薬品や生活雑貨のチェーンストア・システムを採用した巨大企業であった。」
 自由な校風をモットーとする高師中(東京高等師範付属中学校)のリベラルな環境の下で青春を送りました。しかし、戦争へと突き進む暗い時代に突入していきます。軍部は会社にも圧力をかけ、生物兵器の開発を求めるのですが、父親は最後まで拒否します。それが「皮肉にも星製薬が戦後、衰退していく大きな要因となるのである。」と著者は書いています。戦後、父親の死とともに星は大きな渦に巻き込まれ、自殺の一歩手前までいきます。父親の多額の借財、ややこしい人間関係の整理に忙殺されます。後を継いで社長に就任するも大失敗。多額の借金を抱え辞職し、家業だった製薬会社との関係は消滅します。このあたりの日々は経済サスペンス小説に仕立てれば、凄い作品になるかもしれません。
 では、いつの頃から彼は作家の道を進もうとしていたのか。もともと、海外のSF作品の翻訳をやっていたので、そちらの方に進むと考えていたようです。しかし、その当時出てきたSFファン雑誌、あるいはサスペンス小説雑誌等に執筆を開始します。その後は、ショートショート作品が人気を呼び、多くのファンを獲得しました。因みに新潮文庫から出た「ボッコちゃん」の売上は二百万部を超え、他の新潮文庫全体でみると、累計二千六百万部(平成17年度現在)を超えるという驚異の読者数です。
 本書後半は作家が類いまれなる才能を開花させてゆく姿が丹念に描かれています。そして、絶頂期から降り坂へと向かってく姿も著者は多くの取材を通して描き出しています。
 別荘がご近所だったことから仲良くなったタモリは、星のことをこう語っています。「SF の人たちは文壇の評価はたしかに低かったと思いますけど、それよりも大勢の人にわかりやすい小説を目指す、そのことを信念として持っていて、それでよしとされていたんじゃないでしょうか。大衆を相手にする職業に就くと、どうしても受けようとしたりして俗っぽいことになるでしょう。でも、星先生にはそういうところはひとつもなかった。それでいながら、俗を相手にしているというのは人物が清らかなことの証明ですよ。ただひたすら、原稿用紙十枚程度のショートショートを淡々と書き続けただけ。ぼくから見ると、それはとても清らかなことに思えるんです。」原稿用紙十枚程度のショートショートを淡々と書き続けて1001作品。多分そんな作家は二度と現れないと思います。


●レティシア書房ギャラリー案内
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展

⭐️新入荷ご案内
モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)

坂巻弓華「寓話集」

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