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レティシア書房店長日誌

辻山良雄「しぶとい十人の本屋」
 
 この本は、書店Titleの店主辻山良雄さんが、スタジオジブリが発行しているミニプレス「熱風」に約一年間にわたって連載されていたものを一冊にまとめたものです。連載時は「日本の『地の塩』をめぐる旅」というタイトルでした。私は「熱風」を年間購読しているのですが、真っ先にこの連載を読んでいました。
 「その街に暮らす人々にとって、なくてはならない書店。訪れる人に、生きる力という『塩気』を与える書店。そこで働く人々は今、何を思い、考えながら店頭に立っているのでしょうか。これは、そんな『地の塩』と言える本屋さんと、その周縁の人々をめぐる旅の記録です。」(「熱風」より)

 辻山さんの真面目な人柄と、書店主としての探求力が遺憾無く発揮された連載でした。こうして一冊の本になって読み返すと、著者が真摯に本屋の仕事に向かう姿がはっきりと見えてきます。(新刊2310円)
 親しくさせてもらっている本屋さんでは、阪急水無瀬駅にある「長谷川書店」の長谷川稔さん、京都市内では河原町丸太町の誠光社の堀部篤史さんが登場します。そして、最終回に登場する新潟の北書店の佐藤雄一さんとの対談には深く頷きました。
 対談の中で、最近よく話題になる独立系書店とミニプレスについて語られています。昔は、個人書店が新刊を常時入れるのは、業界にある独特の流通慣習に阻まれて困難でした。が、落合恵子さんが主催する「子どもの文化普及協会」が登場してから、自分の書店に新刊を並べることが可能になりました。おそらく多くの個性的な個人店主が営む書店は、こうして新刊を入れていると思います。
 そんな店主の好む出版社って、似てくるのですね。そうすると同じような本が並ぶことになり、佐藤さん曰く「あたらしくできた店のテイストが似ているのも、俺は気になっているんですよね。平均的に似通ってくると言えば申し訳ないけど、パターンがすでにできあがっているのはどうしてだろうとか」というような状況になってきています。
 さらに、当店でも大きくスペースをとっているミニプレスについても鋭い意見が交わされます。佐藤さんは「リトルプレスって関係性じゃない?」と言います。作っている人と書店の関係から店に置かれるもののはずが、「取る必要のないものまで、話題になっているから試しに取ってみたって何だろうと思いますけどね。『それはあなたよくよくかんがえたほうがいいですよ。だってこのリトルプレスとあなた、何の関係もありませんよね』と。それはリトルプレスのもともとの精神と、真逆なんじゃないかと思う。」
 本を作った人が、これはこの書店で売って欲しいと望み、店の方も作った側の意図を汲み取り、一緒にやっていきましょうみたいな関係が「リトルプレスのもともとの精神」だったはずです。それが、京都で言えば、恵文社で売っているから、誠光社がプッシュしているから、ホホホ座で予約が一杯入っているようだから、ウチも仕入れようみたいなことが増えてるのではないかという状況は、確かにあると思います。佐藤さんと辻山さんに、お前もそんなやり方で仕入れしていないか、と言われたようでどきっとしました。
 日々、本に向き合っている人たちの本音を知ることができる一冊です。

●レティシア書房ギャラリー案内
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子
7/10(水)〜7/21(日)切り絵展 後藤郁子
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市

⭐️入荷ご案内
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)
「些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
「本と本屋とわたしの話vol.21」(300円)
辻山良雄「しぶとい10人の本屋」(2310円)
辺野古発「うみかじ8号」(フリーペーパー)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)

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