見出し画像

レティシア書房店長日誌

宇田智子著「少し広くなった」
 
 本屋好きが一度は行ってみたいお店の一つに、沖縄那覇市にある「市場の本屋ウララ」が上げられると思います。ここは、著者が2011年に那覇市第一牧志公設市場の向かいに開店した、日本で最も小さい本屋さんです。ウララの立ち上げから開店後の日々を綴った、「那覇の市場で古本屋」(新刊1760円)が2013年に刊行されました。もちろん私も読みました。それから13年が経過して、ちょっと大きくなったウララの毎日を綴ったのが本書です。
 

の本で

 古くなった牧志公設市場の全面改修で表面化した様々な課題や、これからの市場のあり方について著者が考えたことや、市場を生活の場として、お店を営んできた人たちの思いが方々に出てきます。
 「牧志公設市場も、那覇の人だけのものではない。どんな人の思いも事情も引きうけてくれる場が市場なのかもしれない。だから町のシンボルになる。そこを拝むようにして過ごした日々は恵まれていたと、いまシャッターが下りたままの市場を眺めて思う。」
 工事が始まり市場が閉鎖されて、店の周囲が静けさに包まれていきます。そして、新型コロナウィルスの大流行。那覇の街も他の都市同様に閑散としていきます。「私の店のまわりもすっかり静まり、店番中の読書がはかどる。休校、自粛、感染拡大、そんな単語はひとまず置いて、逃げるように本を読む。」
 一人で店を始めた時は、しんどさや不安、悩みを一緒に考えてくれる人がいなかった。しかし、市場に目を向け、ここで生きる人たちと言葉を交わし、同じ場所で生きる者として共に考えていくことで、最初の頃に感じた寂しさが消えていきます。そして、このコロナ禍の中でこう考えます。
 「もうしばらく店を休むことになっても、書いて読んで過ごせばいいのかもしれない。外に出なくてもひとりでも、言葉は私から離れない。だからどうなっても大丈夫だと思ったら、肩の力が抜けた。」
「言葉は私から離れない」とは、なんて力強いフレーズなんだ!と感動しました。
 当時、「おうちにいよう」というフレーズが流行語のようにメディアから流れていました。時の安倍首相も「今はどうか、おうちで家族との時間、家族との会話を大切にしていきたいと思います」と語り、勝手に星野源の「うちで踊ろう」を使った動画を自分のSNSに投稿して物議を醸しました。そのことについて、著者はこう問いかけます。
 「星野源の曲『うちで踊ろう』が『うち』(on the inside)であって『おうち』(at home)でないのは、『家』にいられない人や体を動かせない人も『内』で踊れるようにという思いがこめられているからだそうだ。首相はこの曲を使った動画を自身のSNSに投稿した。勝手にコラボしておきながら、ここで『おうち』と言うのは無神経じゃないか。 『おうちってどういう意味ですか?』と首相に聞いてみたい。追及すべきことはほかにいくらでもあるけれど、言葉をおろそかにする人はそもそも信用できない。『どうなんですか』と食い下がったところで、納得できる答えは返ってこないだろうけれど。」
 いや、ごもっとも!「言葉をおろそかにする人はそもそも信用できない。」これも名言です。
 2023年3月9日、著者が待ちに待った牧志公設市場が帰ってきました。これからも様々な課題が持ち上がるでしょうが、ひとまず、みんな笑顔になったことが何よりでした。本書を読んで、さらに行ってみたい気分が盛り上がりました。

休業のお知らせ 7月1日(月)〜5日(金)までお休みいたします。

●レティシア書房ギャラリー案内
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子
7/10(水)〜7/21(日)切り絵展「図鑑と地図」 後藤郁子作品展
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市

⭐️入荷ご案内
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)
「些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
「本と本屋とわたしの話vol.21」(300円)
辻山良雄「しぶとい10人の本屋」(2310円)
辺野古発「うみかじ8号」(フリーペーパー)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?